第八話:『ビーバーと熾烈な生存競争を続ける世界樹の末裔』

「お、旧魔王スペイシャスからメールが届きましたよ」

『只でさえロクな人生じゃなかったのに貴方のせいで不憫な死に方をした魔王が何故貴方にメールを』

「非業の死を遂げた後 別の派遣会社で異世界転生をしたそうですよ」

『ここは派遣会社ではありません、貴方の様な人材を派遣したら訴えられます』

「実績はそれなりにあると思いますよ、魔王や勇者を何度も倒してますし」

『否定はしませんが、やり方と言うものがあります』

「因縁があるとは言え嫌いな神様を一緒に妥当したと言うことで連絡先を交換したんですよ」

『この界隈って時間軸ずれやすいのであまり別世界との連絡は控えて欲しいところです』

「ずれやすいんですか」

『私が管理している範囲では問題ありませんが別の神様が異世界転生を行うと時間軸がずれたりしますね』

「まあ俺からは一度も連絡をしてませんから大丈夫ですよ」

『素っ気無いですね、しかし嫌な予感がしますね』

「そんなことは無いですよ、どうやら再び魔王の後継者として世界を股にかけて活躍していたそうです」

『魔王になれる方ですからノウハウはよく理解しているのでしょうね』

「チートスキルによる必殺技があるおかげで随分楽勝ムードだったとか」

『その辺はあまり感心できませんね』

「無事活躍も一段落して今は愛すべき女性と共に幸せに過ごしているのだとか」

『それは何よりで』

「ちなみに姿は紅鮭だそうです」

『嫌な予感が的中しましたね、多分その人もう一周するでしょう』

「凄い、未来予知とか出来るんですね女神様尊敬します」

『本気で言っているのなら貴方の精神状況を心配します』

「紅鮭かぁ、煉獄剛炎雷鳴冥界蹴を伝授してくれた紅鮭師匠を思い出すなぁ」

『記憶力が良いくせに察しが悪い』

※察しが良い主人公と言えば『異世界でも無難に生きたい症候群』の主人公をよろしくお願いします。

「さて、彼に負けないように俺も異世界転生ろう」

『一致検索で一桁しか出てこない単語を流行らせようとしないでください』

「さて、目安箱からごそごそと、まろやかさんより『ビーバーと熾烈な生存競争を続ける世界樹の末裔』」

『えらい具体的な案件が来ましたね』

「熾烈ってところが難しそうですね」

『もっと難易度の高い箇所が幾つか見えますね』

「いえいえ、このお題には致命的な欠陥があります。それは敵勢力の正体が事前に分かっていると言うこと、今のうちネットでビーバーの弱点を調べれば余裕ですよ。バカな、見つからない」

『バカは貴方です、普通に狩猟できる動物に弱点も何もないでしょうに』

「弱点のない相手と戦えと言うのか、こいつは熾烈ですね」

『それで熾烈と言うお題をクリアしないように、ではオプションを決めましょう』

「ビーバー特攻とかってありますかね」

『ありませんね』

「ビーバー耐性は」

『ありませんね』

「ビーバーリアは」

『ありませんね、あまりふざけているとオプションなしで叩き出しますよ』

「しょせん齧歯げっし類、チートスキルなんて無くてもげっしげっしとやっつけてやりますよ」

『過去稀に見ない寒さにイラついたのでオプションは三つに制限しましょう』

「そんな、なんて熾烈な」

『熾烈って言ってれば良いってものではありません、あと二つです』

「ああ、世界一美しい女神様、どうかお優しい貴方のお慈悲を下さい」

『仕方ありませんねあと三つです』

「よっし、ちょろい」

『後一つです』

「しまった」



『そう言えば彼はどうしているでしょうか、流石にチートでもないオプション一つで送り出したのは可哀想でしたか』

「ただいま戻りました」

『やはりダメでしたか』

「惜しかったですね、でも楽しかったですよ」

『杞憂でしたか、では報告を聞かせてもらいましょうか』

「世界樹であるユグドラシロの末裔として生まれました」

『名前がパチモノ臭い』

「これが生後三日の姿です」

『どれどれ鉢植えに芽が芽吹いていますね』

「貴重なヌード写真ですよ」

『これをヌードとは認めません』

「順調に育つまで数十年掛かったのでとりあえずその辺はカットしつつ世界観の話をしましょうか」

『樹木ですからね、ビーバーと熾烈な生存競争を続けているでしたっけ』

「はい、父であった世界樹ユグドラシロを中心として世界は構築されていました。周囲には多くの兄弟たちが森林として巨大な父を見上げていました」

『ちょっとメルヘンチックな世界観ですね』

「しかしある日突如現れたビーバーの軍勢によって戦争が勃発します」

『ビーバーの軍勢は平気ですが樹木達がどう戦争したのか気になりますね』

「木だけに?」

『次そのくだらない洒落を言ったら貴方を地面に植えて植物が生えるまで放置します』

「恐ろしい、樹木達は動物たちと念話によって言葉を交わせたので森の動物達が力を貸してくれたんですよ」

『それは心強い、と言うより鹿や熊が協力してはビーバーに勝ち目は無いのでは』

「ビーバー達は近代兵器で武装していましたからね」

『熾烈ですね、そしてビーバーとは』

「二足歩行、高度な言語交流、高い学習能力、階級制を組み込んだ見事な軍隊でした」

『それ人では』

「主食は木です」

『ビーバーでした』

「銃火器が相手では獣風情では太刀打ちできません、戦況は不利でした」

『獣風情が敵なのですがね』

「しかし奴等の狙いが世界樹と分かった以上、世界の全ての生物が協力をしてくれました」

『ビーバー対世界と言うのが中々に酷い構図ですね』

「ですがビーバーの猛攻に多くの生物が絶滅していきます」

『まるで人間みたいですね』

「人間は自分が生まれる800年前に絶滅してましたね」

『頼みの綱が既に、ビーバーの進化が凄まじい』

「とある研究者が喋るビーバーを生み出そうとして生まれた新ビーバーですからね」

『人間の業って奴はロクな悲劇を生みませんね』

「外堀の兄弟たちが次々とビーバー達に足元から食べられていく様はまさにR18のスプラッター映画でした」

『多分ゴールデンタイムに放送できますよそれ』

「ではそろそろ俺も物語りに入ってきましょうか」

『割と大変そうですが、乱入しましたか』

「180歳になり立派な成人になった時」

『数十年って話では、そして人ではないですよね』

「大木になった時、ついに俺もビーバーと対峙したのです」

『近代兵器を操るビーバーともなると、却下したオプションがあっても良かったかもしれませんね』

「オプションの使い時に悩んだので先ずは自力で何とかしました」

『念波で動物と言葉を交わして戦ってもらうと言う力でしょうか』

「いえ、自慢の喉を活かして念波攻撃を行いました」

『マンドレイクでしょうか』

「ビーバーもまた動物、念波による声が届くなら念波で攻撃すれば良いではないかと言う理論です」

『なるほどと言うべきか悩みますね』

「こちらのソウルを込めたシャウトはビーバーを次々と倒していきます」

『意外と効果的ですね』

「200デシベルくらいは出していましたからね」

『念波なのにジェット機より五月蝿い』

※ジェット機が130デシベルくらいです。デシベルは単位だよ。

「しかしビーバーの猛攻により仲間の動物達も次々と泡を吹いて倒れていきます」

『多分貴方の念波のせいです』

「ですがその犠牲の甲斐もあって、ビーバー達は攻めあぐねます」

『犠牲になる必要は無かったでしょうね』

「やがてこの状況を打破せんとビーバー達の親玉が姿を現します」

『ビーバーには変わりないでしょうけどね』

「ビロードのような毛皮は水をはじき、後ろ足には水かきがある。平たく大きな尾はオールのような形をしていました」

『ビーバーですね』

「奴の名前はアレヌ・マカジャン、趣味はゲーセン通い」

『ビーバーがゲーセンに通うんですか』

「近代兵器を作れるくらいならゲーセンくらいありますよ」

『そうでしょうか、そうかもしれませんね』

「奴等は兄弟達の亡骸を使い水辺にダムを作り集落を築いています、何て悪趣味な」

『木製のダムですからね、むしろ趣があります』

「アレヌ・マカジャンが俺の前に現れたので先制攻撃にと300デシベルのシャウトを浴びせます」

『まだ威力が上がりますか』

「アレヌ・マカジャンは驚くことに自らも絶叫してこちらのシャウトを打ち消してきたのです」

『叫ぶビーバー、どこかで見たことがありますね。念波と絶叫って打ち消しあえるものなのでしょうか』

※ビーバー 絶叫で検索をするかどうかはお任せします。

「そこはファンタジーということで」

『ここぞとばかりにファンタジーさんに逃げますか』

「アレヌ・マカジャンとの勝負は互角、互いに深手を負いながらも最初の出会いは引き分けに終ります」

『どう深手を負ったのやら』

「互いに喉を痛めました」

『納得、いや貴方は喉ないでしょう』

「世界樹の血を継いでいる俺は比較的早く治癒し、続く敵の攻撃もしのぐことができました」

『血は無いですね』

「倒れ行く兄弟達との涙の別れを経験し時間は過ぎていきます」

『涙も無いですね』

「そんな人を血も涙もない人でなしのように言わなくても」

『血も涙も無い人でなしの樹木じゃないですか』

「一方アレヌ・マカジャンはゲーセン通いで傷を癒していました」

『そこは安静にしましょうよ』

「どうにか抵抗していたのですがついに俺の防衛も突破される日が来てしまいます」

『おや、敗北したのですか』

「迂回されました」

『正しい選択です、ですが近代兵器があるならどうにでもなったのでは』

「獣相手ならば中間距離で撃てる銃があれば十分でしたし、樹木が邪魔ですからね。遠距離武器は無かったんですよ」

『無駄にしっくり来る設定』

「手も足も出ない俺は兄弟、そして父がビーバーに喰われて行くのを指を咥えて見ることしか出来ませんでした」

『手も足も無いですし、指も咥える口もないですよね』

「いえ、足はありましたよ」

『何で』

「オプションで」

『何で』

「樹木だと動けないじゃないですか、だから歩きたいなと」

『納得――したらダメな奴ですねこれは。と言うか足は出るじゃないですか』

「気づくのが遅れました、180年使っていなかったので」

『それは忘れても仕方ない』

「そうだ、俺にはこの足があるんだとにょきっと地面から這い上がりました」

『ホラーですね』

「100mを1秒フラットで駆け、皆を襲うビーバーを蹴散らします」

『ホラーですね』

「ついでに400デシベルのシャウトを撒き散らします」

『パニックホラーですね』

「瀕死になりながらも助かった父や兄弟達は感謝の意を込めてこう言いました、静かにしてくれと」

『でしょうね』

「そして続けて、この戦争を終らせられるのは足の生えた世界樹の末裔であるお前しかいないと」

『足の生えたが肝心なのでしょうが台無しにしていますね』

「やる気になった俺はすり足で奴等の集落であるダムを目指します」

『すり足の意味』

「足音立てたら気づかれるじゃないですか」

『樹齢180年の世界樹がすり足をすれば接近に気づかれないと言うつもりですか』

「無事入り口まで気づかれずに接近できました」

『そんなバカな』

「そこはきっとファンタジーさんが助けてくれたんですよ」

『ファンタジーさんは貴方を憎んでいると思いますけどね』

「入り口には見張りのビーバーがいましたが素早く俺のシャウトで倒して潜入に成功します」

『すり足の意味』

「ですが中に入ると既に武装したビーバーが待ち構えているではないですか」

『400デシベルのシャウトを発生させておいてなにを言いますか』

「ファンタジーさんの酷い裏切りを感じました」

『裏切ったつもりも無いのに酷い濡れ衣ですね』

「バレてしまっては仕方が無い、俺は残像を残す速度で反復横飛びをしながらビーバー達を蹴散らします」

『反復横とびの意味』

「銃弾を避けられるじゃないですか」

『少し納得してしまった自分を罵りたい』

「奥まで進んでいくとついに因縁の相手、アレヌ・マカジャンと再会します」

『因縁、まあそうですね』

「ゲーセン帰りのアレヌ・マカジャンは俺を見てこう言います」

『ゲーセン要素いりますかね』

「うわ、木が歩いているとか非常識だわと」

『まさかビーバーに至極真っ当なツッコミを入れられるとは』

「そしてついに最終決戦が行われます、互いに飛び交う念波のシャウトと絶叫の音波」

『集落でやって欲しくない戦いですね』

「アレヌ・マカジャンの絶叫は以前よりも遥かに強力になっていました、ボイトレの成果が出ていたのです」

『ボイトレで音響破壊兵器と渡り合うことは出来ないはずなのですが』

「そこはファンタジーさんが」

『ファンタジーさんが異世界転生しますから程ほどに』

「俺も負けまいと反復横飛びをしながらシャウトします」

『反復横とびの意味』

「ドップラー効果とか出ませんかね」

『聞かないでください』

「戦いはダム内を移動しながら繰り広げられていきます」

『大迷惑ですね』

「橋の上、時計台の下、展望台の上、神社の境内の中、博物館の中、美術館の中」

『ビーバーの文明中々ですね、そして観光してませんかね』

「あ、このときの写真です」

『ビーバーと反復横飛びのせいでブレまくってる樹木の写真ですね』

「旅館の中、温泉の中、布団の中」

『一泊してますね』

「あ、このときの写真です」

『大広間でカラオケしてませんかねこのビーバー、そしてブレる樹木』

「長きに渡る戦いでしたがついに決着します。アレヌ・マカジャンの放ったゲージ技はガードに成功すると数フレームの硬直が生まれます。俺の操るキャラはその硬直を見逃しません、即座にガーキャンからの必殺技を叩き込みます」

『ゲーセンで勝負してませんかね』

「辛くも勝利した俺はゲーセン最強の木として名を上げたのです」

『ファンタジーさん異世界転生間違いないですね』

「敗北したアレヌ・マカジャンは今後世界中には手を出さないことを約束してくれました」

『ゲームの勝敗で決定するのは納得いきません、それに彼等の主食は木なのでは』

「主食は木ですが米やパンも食べますからね」

『雑食でしたか』

「人が改良したビーバーですからね」

『世界樹を襲った理由が知りたい』

「食用以外にもダムを作るのに使いますからね」

『ビーバーはビーバーでしたか』

「こうして世界は無事に救われました」

『どうして世界はこれで救われたのか』

「強敵との激しく、絶えず動き回る、熾・烈・な戦いでしたよ」

『反復横とびの意味』

「しかし世界を救った俺に待っていたのは奇異な者を見る差別的な目でした」

『足が生えている世界樹ですからね』

「すり足で近づこうものなら命乞いをされる日々」

『私も足の生えた世界樹にすり足で近寄られたら命乞いが選択肢に入りますね』

「堪え切れなくなった俺はアレヌ・マカジャンに木材としてこの世を去らして欲しいと頼みました」

『メンタル強い貴方がそこまでとは余程だったのでしょうね』

「もう可愛い女の子のいない、植物とビーバーだけの世界はゴメンだと」

『人間滅んでいましたからね』

「快諾してくれたアレヌ・マカジャンは俺を解体しダムの一部に組み込みました」

『足の生えた世界樹なのに快諾するんですね』

「足だけは剥製にして広場に飾ってくれました」

『ホラーですね』

「これがその写真です」

『犬○家でしょうか』

「そんなわけで戻ってまいりました」

『ファンタジーさんがどこかの神様のところで異世界転生していると思うので菓子折りを持って行って詫びてきてくださいと言いたい内容でしたね』

「それでお土産ですが」

『生足とか言ったら貴方に接続します』

「そんなホラーなお土産はしませんよ」

『前回魚人系魔王の六つ折亡骸を持ち帰った罪は許していませんよ』

「世界樹の苗ですよ、俺が育った鉢植えに入れて持ってきました」

『そんなものが育ったらこの空間が圧迫されてしまうのですが』

「大丈夫です、品種改良でそこまで大きくなりません」

『世界樹とは、まあそれなら良いでしょう』

「ただ鉢植えの際に引き抜くと絶叫を上げるのでそこだけ注意です」

『マンドレイクじゃないですか』

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