may 26 2247~may 31 2247

may 26 2247

先日、確かに俺は海面突出区域で少女を見た。

防護服も着用せず、裸体のまま焼けた砂を踏み締めて、波打ち際に佇む髪の長い少女を確かに見たのだ。

少女は、俺の姿を見るやいなや海へと飛び込んで姿を消してしまった。

俺は証拠として足跡を写真におさめようとしたが、波打ち際に立っていたせいで綺麗にさらわれてしまった後だった。

しかし、これは大きな発見である。

この環境下に適応したヒトが独自の進化を遂げている。

もし少女を確保して、卵子を獲得すれば。人類は進化を遂げ、早い段階でこの地球で暮らせるようになるのではないだろうか。

船長に海面突出区域の観測業務を増やしてもらおう。

幸運にも、あの不快な防護服のお陰でこの仕事に付きたがる人材は、俺しかいないのだから。









may 27 2247

あっけなく要請は通った。

が、海面突出区域での観測業務は、太陽放射能の影響を受けるため、3日続けての出動は出来ないと言われる。

これを破れば労基違反とみなされ、即座に監査が動き、強制的に権限を剥奪しに来るらしい。

部屋に戻る途中、あの整備士がどこから聞きつけたのか俺の要請について何かを言ってきたが無視した。

明日の観測が楽しみで、奴の声なんて聞こえなかった。









may 28 2247

少女を見たF5地点を観測。

しかし、少女は現れなかった。

その代わりに打ち上げられたにしては不自然な場所で、みずみずしい海藻が落ちていた。

足跡は無かったが、海藻には黒々とした長い毛髪が数本絡まっていた。

間違いない、先日の少女はここを拠点としている。

再び会える確率は、そう低くは無いだろう。

帰投前に、古典的な方法だが食料でおびき寄せる為、くすねておいたパンを海藻の近くに置いておいた。

この地球で、パンを食べる鳥類は既に絶滅しているので、今夜の天気が雨にならない限りは、パリパリに乾く程度で済むだろう。








may 29 2247

置いておいたパンが無くなっていた。

昨晩は雨は降っていなかったはずなので、高潮にさらわれない限り、あれは少女が持っていったのだろう。

残念ながら、海面突出区域で食べたのか、海中に持って行ったのかは定かでは無い。

パンくずでも落ちていれば、良かったのだが……。

それでも、進展はあった。

今日もまたパンを置いてきた。

明日が休みなのが憂鬱である。









may 30 2247

朝食の時間、青い顔をしたセブンスに声を掛けたら「夢見が悪い」と返された。

内容を聞いてみると、あまり覚えてはいないが海の中からセブンスを呼ぶ声がするという。

その声はこの世のものとは思えない程恐ろしく、恐怖でカバーを頭から被りやり過ごそうとすると、ヒタヒタ……ペタペタ……といった、シャワー上がりの体のまま歩き回るような水っぽい足音が、セブンスの部屋に向かって来る……という内容だった。

「俺はここで5年勤務したが、そろそろ潮時かも知れねぇ」

「これはあくまでも噂だが、ここで悪夢を見たら母星に帰らされるんだと」

「まあ俺も、ここでは面白い事を見聞きした。帰ったらこれを作品にするつもりさ」

セブンスは、勤務日数の浅い俺に対して真っ直ぐな目をしてそう言った。

そんな彼になら、話せるかも知れないと。俺は先日見た海に住む少女の事を話せば、彼は表情を強ばらせた後、コーヒーを一口飲んでから、俺にだけに聞こえる位の小さな声で言った。

「悪い事は言わねぇ、俺以外にその事を話すんじゃねぇぞ」

そして、コーヒーを飲み干してから、セブンスは席を立った。

彼は、少女について何か知っているのだろうか?









may 31 2247

興奮が収まらない、やっぱりエサでおびき寄せる方法は何よりも確実なのだと立証された。

少女だ、あの少女が俺の様子を海面から顔を出して伺っていたのだ。

水棲としての余裕があるのか、少女は俺と目が合うと、驚いて1度は海中へと逃げたが、俺が追いかける意思がない事が分かると、再び顔を出してじっと俺を見つめていた。

俺も、じっと少女を観察し、分かったことがある。

肌だ。

彼女はこの太陽の紫外線と放射能に晒された地球では有り得ないぐらいに、青白い肌をしていた。

多くの海洋生物は、紫外線から遺伝子を守る為に体表を黒くしている。

なのに、少女の肌は、まるで毛細血管すら見えそうなほどに青白い。

その代わりに、黒々としたくるぶしまで伸びている頭髪と、興味深そうに俺を見つめるくるんと丸い瞳が、紫外線に対応しているのかもしれない。

今日もまた、いつもの場所にパンを置く。

明日はもう少し、深く踏み込んだ観察をしてみたい。









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