駄文2017/12/12
・上昇するミジンコ
倦怠感が強いけれど、昨日の雪かきだとか、楽器の練習による疲労が原因であると分かっていれば、殊更に将来を悲観したり、自暴自棄に過ごす必要はない。むしろ調子の良い時にはやりたくない作業をするのが良い。ということで、頼まれた年賀状書きに勤しむ。今年からはもう自分の分を出さないつもりなので、その代わりだと思ってやる。
代筆にしては下手すぎる宛名書きをしながら、人とのつながりに限らず、何かを維持することは総じて大変なことだと思う。こういった維持とか、継続については、サックス奏者にしてミジンコ研究家の著名な方が言っていた、エベレストに棲むミジンコの話をいつも思い出す。
かつては深い海底であったエベレスト一帯には水棲のミジンコがいたが、地殻変動が起こり、地面が隆起していった結果、世界最大の山脈となってしまったのだった。しかしそのミジンコは山と化したエベレストにも依然生息しているという。
海に棲んでいたミジンコが山に棲み続ける方法はただ一つ、山を流れる雪解け水の中を、ひたすら上に泳ぎ続けることである。そのミジンコは生まれてから死ぬまで、延々と上に向かって泳ぎ続けているのだ。
・成長は結果なのか
「成長なくして維持は無し」という文言があって、それは高度経済成長を前提とした右肩上がりの理論ではないかと思っていたけれど、成長以外の要素では疲弊、消耗、劣化、惰性化と、マイナスのものが多すぎるので、成長してようやく、現状維持が可能になるという、実はそれほど前向きではない言葉なのかなと思うようになってきた。
しかし「圧倒的成長」などと揶揄されるように、そんなに絶え間なく「成長」できる人間がいるのだろうか。そこには環境に対する順化であるとか、外部要因との相互妥協であるとか、時間の経過による作用(習慣付けや年功)、それに幸運というものも関わってくるだろう。
ということは、維持のためにその力を期待できるものは、成長だけではないということが言えるかもしれない。そもそも成長という言葉自体が、何らかの結果であって、そのために何をするのかを考えたほうがいいのではなかろうか。
・バトルの目的と手段
成長ということは何らかの結果であるとして、それはどのような状態を指すのだろう。従来できなかったことができるようになり、知らなかったことを知って判断の精度が上がり、あるいは危機を回避するか、危機を乗り越えられた時、そこには成長があった、と言えることができる。
すると、目的はそれぞれに問題解決や危機回避であって、成長はそのために必要な作用であると言い直したほうがいいのかもしれない。結果そのものではなく、望ましい結果を招くものであるということになる。
となると、成長そのものを目的にすることは、これは虚ろなことであるように思われる。圧倒的な結果や成果を得ること無しに、圧倒的に成長しても意味がない。ちょうど「遊☆戯☆王」の(理論上は)無限にパワーアップするオシリスの天空竜をプレイしたマリクが、山札を使い切ってデュエルに敗北したように、成長そのものは、「相手を攻撃する」などの具体的行動と「相手を倒す」という目的の達成を伴わなければ、他者を威圧する程度の効果しか持ち得ない・・・ちょっと例えが特殊だったかもしれない。
・実際は難しい
「成長のために何が必要か」ということは、「成長して何をするのか」という高次の問題設定なしに決定されるとは考えにくい。むしろ目標と具体的行動の間に「成長」は当然に発生する作用とみなしてしまえば、これらは「何をするのに何が必要か」というシンプルな問いに集約することができる。
すると、「成長なくして維持は無し」という文言はどう変化するだろう。この場合、前項で消滅した「成長」を、残った問いそのものと入れ替えることができるのだとしたら、「目的設定と具体的行動なくして維持は無し」ということになる。
何を当たり前のことを言っているんだという気がしてくるけれど、これを実際の生活にあてはめようとすると、途端にかなりストイックな印象になってしまう。漫然と過ごしていてはやがて危機が訪れるという、気分の良くない警句でもあるし、常に目的設定と具体的行動を絶やさない生活というのは、ちょっと強迫的すぎる気もする。早い話が「分かってるけどできねーよ」ということである。
・おわりに
考えてみればエベレストのミジンコも、「不断で圧倒的な」水中上昇をし続けてしまえば、やがて氷の世界に辿り着いてしまうわけで、そうはならないのは彼らの目的が、上昇そのものではなくて生存だからであると言えるのかもしれない。
先程の文言も、ひっくり返せば「必要な目標設定と具体的行動があれば維持が可能」ということでもあるわけで、すると「何が維持に必要な目標設定と具体的行動なのか」という次の問いにつながっていく。
単なる言葉遊びなのかも知れないけれど、それでも漠然とした成長を夢見て突拍子の無い行動を起こしては、何にもならず不貞腐れて落ち込むのを繰り返すような、今までの態度よりは健全であるように思われる。
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