夢はいつか叶うでしょう

星刻祭、最終日。

この日ラルク、ニール、アリスの三人は、祭壇の近くに来ていた。いつもは人気のないこの場所だが、今日は沢山の人々で賑わっている。


『今日ここでお祈りをします。みんなのこともお願いするから、見に来てください』


そんな別れ際のリィルのお願いだった。サハラと再会した後、彼女は神殿に戻るまで大人しくしていた。三人に付き合ってもらって楽しかったから、と笑顔で彼女と別れたのだが、これだけは見ていってほしいと言われたのだった。

お祈り……正確には『豊穣の感謝と鎮魂の儀』と呼ばれる儀式は、水の恩恵に感謝をし、この地に眠る人々の魂が安らかに眠れるように行われている、とニールが二人に説明した。


決められた作法と順序で足を鳴らし、ステップを踏みながら、祭壇の上で巫女が踊る。


儀式はしめやかに行われる。


体を動かして、しなやかに、けれど軽快に。跳んだり跳ねたりするのに合わせて手足に付けられた鈴が軽やかに音を鳴らす。


「キレイね」

「そうだろ。自慢の妹だもん」


なんで誇らしげなんだよ…そうぼやきながら、ラルクはその光景を見ていた。

やっぱりあの子は巫女で、おれが友達になっておこがましいんじゃないかな、なんて思ってしまう。それに気軽に会える訳じゃないし。昨日の出来事は、色んな事が重なって起きたことで。

…あんなこと、そうそうないだろうなあ。


「なあ、ニール」


ニールは、ん?とこっちをみた。


「おれたち、スゴい奴と友達になっちゃったんだな…」

「今更なんなの」


だってさ。一応巫女って、スゴい力を持ってる奴なんだよな。自慢したくても、にわかに信じてもらえるか自信がないけど。そう考えていると、ニールはにやにやと笑いながら、明るく笑ってこう言った。


「俺がえらくなって、二人を気軽に巫女さまに会えるようにしてやるって」

「………」


思わず二人は黙った。

何故だろう、ニールにはあまり偉くなっているイメージがわかなかった。


「…サハラさんに頼みましょ」

「ニールじゃいつになるかわからない」

「俺に対する扱いひどいよな!」




……それから、暫く経った。

おれの周辺は、やっと落ち着いてきていて、お店で店番を再開しはじめた頃。

ニールが訪ねてきた。彼の周りも平和だそうだ。

たまに姉さんがサボりに来るとか。そんな時は、決まってサハラさんが来るんだそうだ。


「まあ…兄貴はマリー姉のことが好きだから」

「……そこが、未だに信じられないんだよな」


どうしてよりによって姉さん。身内から見てもしとやかでもなければ、女らしくない人なんだけどな。

天才の人の好みはわかんないや。


「マリー姉かわいそ…兄貴から逃げるの難しそうだし…」

「あのマリーさんでも…?」


いつからいたのか、アリスがやってきていた。今日は少しお洒落な格好をしていた。ニールはすかさず


「おはよ、今日の服もかわいいな!」

「ありがと。相変わらずね…」


アリスは呆れ半分と言った表情である。それよりも……


「イケメンに好かれてるのに、どこが嫌なんだろう」

「…うちの兄貴もあれでアレだから…」


あれ、ってなんだよ。

そう言うと、ニールは押し黙った。だからなんなのそれ!?


「神殿でリィルちゃんには会った?」

「ああ。元気そうにしていたぜ」


あれから数週間経っているけど、アリスはことあるごとにニールにリィルの様子を聞くようになった。

まあ向こうは神殿の巫女さまだし、一般市民のおれ達と気軽に会えるわけがないよな。

でも、おれもちょっと気になってたから。


「元気そうならよかった」


素直にそう思えた。

そこに、からんからん、とドアのベルが鳴る。


「よう、……邪魔するぞ」

「ラルク、いるかな」


店内に野性的な風貌の青年と、清楚可憐な少女が入ってきた。その姿を見て、はっとする。


「いらっしゃいませ」


ゴリラとココットの二人だったからだ。

あのあと、彼はサラマンダーの事件を起こしたことで神殿から処罰を受けているらしい。詳しい理由はラルク達には聞かされてないものの、ココットから言わせれば『お祭りで暴走してた』そうだ。


「あー、その……」


ゴリラは言いにくそうに年下三人を見ている。そんな彼に、隣のココットがほらほら、と彼の肩を叩いていた。


「……おめえらには、迷惑かけたな」


三人に向かってそう言ったのを、どう反応していいのか分からなかった。


「あのね、これでも謝ってるつもりなのよ」

「あ、うん」


ココットがやんわりと三人に告げる。

ゴリラのこんな言葉は珍しいのだ。だから余計、驚いてしまう。

彼なりに何か思うことでもあったのかも知れないが、それは三人には分からない。

それからゴリラは、鋭い眼光を三人に向けて呟いた。


「あとよ、何かあったら言えよ」


……かなり怖い顔付きだった。


「ウルフ。そんな怖い顔で言ったら、頼りたくても頼ってくれないわよ」


え?とラルクがココットへ視線を向けると、彼女は困ったように笑った。


「あのね……」

「うるせえよココットてめえーーー!」


まるで遮るような早さで、食い気味にゴリラが叫んだ。


「店内で叫ばないの!」

「てめえがごちゃごちゃ言うからだろうが!」


ぎゃあぎゃあと言い合いしだした年上二人。仲良しですねと言うと、「どこが?!」とキレイにハモって返ってきた。

そんな姉達を見ていたアリスが、


「お姉ちゃんも相当な物好きよね」

「……まじか」

「……えええええ…」


人の好みは分からない、とラルクは思った。

ひとしきり言い合った後、ゴリラは舌打ちをして店を出ようとする。


「たく、せっかく……台無しじゃねえかよ」

「い、いえ。お構い無くです」


ドアを開けて外の人にそう言って出ていく。ココットさんもニコニコしながら付いていって、代わりにフードを目深に被ったローブ姿の人物が入ってきた。


「あ、すみませんでした。いらっしゃいませ…」

「お久しぶりです、来てしまいました」

「……え?」


ぱさ、とフードを取ってえへへと笑った。エメラルド色の少女が立っていて、嬉しそうに駆け寄ってきた。

いつかのように、ラルクの視界がエメラルド色に包まれた。


「ええと……巫女さま?」


リィルです、と明るく返ってくる声に、

―――元気そうだね、と少年は笑った。




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