俺たちのボーイズラブ。的ななにか。
ミナモさん
「お前の態度が気に食わない」というわけのわからない言いがかりをつけられたことに端を発する人間関係のトラブルで、俺がそのバイトを辞める三十八日前。
バイトの先輩で、綺麗なお姉さんだったミナモさんが言ってくれた。
「……三十人中二十九人は、タキくんに興味もたないか、近寄りがたくて怖いと思うでしょうね……でも、その最後の一人は、ものすごくあなたの事好きになるかもしれないよ。それでいいと思わない?」
思わねー。二十九人に好かれたほうが断然いいに決まってる。
……というブゼンとした顔をしていたら、ミナモさんは独り言のように続けた。
「……でも、その一人も、たぶん言い出せないでしょうね。あなたそういうところあるのよね」
全滅ではないか。
「好意はちゃんと示してもらわないとわかりませんよ」
俺が不満げにそう言うと、ミナモさんは大人びた外見に似合わない、子供っぽい表情で、
「わたしに言わないでよー」とほっぺを膨らませた。
ミナモさんの言う、『あなたのそういうところ』ってどういうところだよとそのときは思ったが、こういうところだ。
ミナモさんの本当の気持ちを、考えもしなかったところだ。
ミナモさんは言った。
「あなた、作家志望なんでしょ? ……見えないものを大事にするのが作家なんじゃないかな」
バイトを辞め、作家をあきらめ、何年か経ち、アホだけど顔だけは異常にいい後輩『イツキ』と、北海道をバイクでふたり乗りして旅した、その夏。
俺たちは、上士幌の町でふと出会った女性誌の記者から写真を撮られ、「これ雑誌に載せていい?」と聞かれた。
ふだんの俺なら絶対に断る。
アホヅラ世間にさらすなんて冗談じゃねえ。
でも、そのときは承諾した。俺やイツキの元気な姿を、ミナモさんがどこかで見てくれたら嬉しい……そう思ったからだ。
旅が終わり、夏が終わり、そんな雑誌のことなど、忘却の彼方に消えたころ、滋賀に住むイツキから連絡が来た。
『たいへんや! エライこっちゃで!』イツキは文章も関西弁だ。『カミシホロで写真撮られたやろ? あの雑誌出てたでっ』
『あのときのか。で、何が大変だって?』
『ひゃくぶんはいっけんにしてならず、や』
関西人のイツキは、日頃からボケなのか本気なのかわかりにくい言動をするが、これはつまり、自分の目で見ろ、という意味なのだろう。
俺はすぐに大きな書店に行き、その女性誌を見た。そして、のけぞった。
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