約束された勝利の剣
城内に入ると、まずは広い場所に出る。ホテルとかにもある、ラウンジとかロビーとかそういう感じの場所だ。正面にでかい扉があり、その奥は確か来賓をもてなす大きな食事場になっているはずだ。天井は高く吹き抜けになっていて、両脇の階段から二階奥の扉へ進むことができる。ゴリラ界の階段は駅地下の自転車置き場に向かう階段みたいな、段差が小さくて一段一段がめっちゃ広いみたいな感じで微妙に歩きにくい。歩幅が合わないんだ歩幅が。
その階段の向こうから数人の話し声とどかどかした足音が聞こえてきたので慌てて階段の裏に姿を隠す。望月さんはまたも正面突破しようとするものの、秋元がすばやく背後から捕獲し、口を塞いで階段の裏側に押し込んだ。なんというか、心中察するに余りある。でもそうか、望月さんが走り出したら誰も止められないと思ってたけど筋力的には秋元より弱いし背後は死角なのか。なんか望月さんが普通の女子高生だってことを忘れてた。
ゴリラたちがどかどかと正門へと走っていくのをやり過ごして再び行動を開始する――つもりだったが、まあもちろん階段の裏に隠れたくらいでやりすごせるはずもない。何しろ入り口から二階のあの扉までは一本道だ、すぐに見つかる。正門前に誰もいないことを確認したゴリラたちはすぐに振り返って俺たちを見つける。まだ射程はある。
「誰も殺してくれるなよ、エクスカリバー」
握り込んだ剣に小声で話しかける。通じるかはわからない、というか通じるわけがない。でもなんとなくそうすれば届くような気がする。ゴリラテレパシー然り、ビーム呪文然り、声に出すことはたぶん結構大事だ。
エクスカリバーが魔力を増幅させるなら、魔法の触媒となるなら、あとは俺がそこに集中すればいい。俺の使える魔力の全てをエクスカリバーに集中させるイメージがあれば、エクスカリバーがその力を増幅させてくれる。つまり、
「
俺のテンションを最大まで上げる詠唱があれば、これは機能するはずだ。
「
剣を下手から上に向けて振ると、剣光がまたひとつの刃となって空を裂き、敵ゴリラの軍勢を薙ぎ倒した。うむ。対城宝具とまではもちろんいかなかったが、Cランクの対軍宝具くらいにはなるか。指先からちょろっと出たあの雑魚ビームに比べれば何千倍もマシ。
実際の威力、というか効力? は剣としてのエクスカリバーのそれではなく、かといってビームのそれでもなく、敵ゴリラたちは真っ二つになっていないし特に焦げてもいない。そのくせダメージはしっかりあるようで、起き上がろうとしては転び起き上がろうとしては転んでいる。
「すごいな。名前を呼ぶと威力が上がる剣なのか?」
アレックスに訊かれて、誰でもこう叫べば威力が上がるとかそういうアレではないのでちょっと困る。
「あー……いや、俺のテンションを上げる効果しかない」
「気合の問題なのか?」
「秋元いわく、そんな感じで」
「なるほど……?」
アレックスは全然理解できてない顔で首を傾げている。ごめんて。理屈は正直俺も全然わかってないんだって。
「菅原ァ……?」
アレックスの背後で秋元が怒りゲージMAXのドスの利いた声を出しているので俺はアレックスの陰に隠れる。
「いやだって
「……それはそうだけど」
「無罪! 無罪を主張します!」
そう主張する俺はアレックスの陰にいるせいでちょっと気が大きくなっている。アレックスが苦笑いしながら「とにかく今は先に進もう、次が来る前に」と秋元をいなしてくれる。
「つか自分だってさっき暴れたばっかじゃん。秋元なんでゴリラを背負い投げとかできんの? どういう腕力?」
「ゴリラは基本ナックルウォークだから、本来の重心は人間とは異なって前の方にある。だから立ち上がって攻撃しようとすると人間以上に前のめりになる。俺はその前のめりになってるところをちょっと引っ張っただけだ。腕力の話じゃなくて慣性の話」
秋元が背負投げのポーズをしたり腕をぐるぐる回して説明してくれるのだけど、残念なことにほとんど理解できない。
「へえ……?」
「よくわかんないって顔に書いてある」
「うんまあよくわからん」
っていうかちょいちょい思ってたけどもしかして二人って上級生だったりすんのかな。ノリでタメ口きいちゃってたけど。それとも単に俺の頭が悪いだけ?
「……自分のことを棚に上げたのは悪かったよ。でもお前らが前に出ると俺は気が気じゃない。できればやってほしくない」
「前向きに検討する」
「それ遠回りな拒否だよな?」
「まあ、状況が状況だし」
秋元はめちゃくちゃでかいため息をついて、でも特に怒ったりはしなかった。納得してくれたってことだろう。あるいは諦めたのか。
二階に上がって確認すると、コンパスは正面すこし右、かつすこし上を指している。コンパスを指して見せるとアレックスが頷き、なんとなくの道順を空中に書いてくれる。どうやらちょっと迂回っぽい動きをしたいらしい。
「私は最短で行きたい」
「最短が最速ではないってことだ。挟み撃ちに遭うのも避けたい。できるだけ身を隠して足止めを避ける」
「……わかった」
ナイス理性だ望月さん。
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