お荷物系(物理)元勇者・俺

 北軍にいたアレックス以外の大隊長のうち一人は東へ行き、西側は例の英雄ボナパルト氏が指揮を執ってくれている。南へは現在超特急で連絡部隊が向かっているところで、あっちもこっちも手薄にはできないしかといってあんまり時間も掛けられないしみたいな状態で全国的にゴタゴタしてるっぽいということが報告の端々から漏れ聞こえる。ボナパルト氏、どうやら軍内部にも顔が利くようでとても助かる。助かってるの俺じゃないけど。

 南へ向かった、首都の南側を囲う隊と南軍への連絡隊とでなんだかんだ一番大人数になった部隊が首都の向こう側に到着するまで、ほぼ一日。俺らは首都になるべく近い、それでいて信頼できる町に滞在しており、首都までは半日とかからない。

 ゴリラ世界にも電話というものは存在している。固定電話のように電線(みたいなもの)を利用して特定の場所にテレパシーを届ける仕組みと、携帯電話のように触媒を利用して特定の物体にテレパシーを届ける仕組みの二種類だ。電話と違うのは「通話中」の概念がないことで、アレックスはときどき「いっぺんに喋らないでくれ」というような意味合いのことを言っている。大変だな隊長。

 ちなみに電話(みたいなもの)は耳飾り型なのでちょっと面白い。洋画で見るみたいな通信機っぽいデザインじゃなく、おそらく呪術てきな意味合いがあるのだろうデザイン。かわいい。似合わない。ウケる。対するメリアはそこそこ様になってる気がするんだから認識って不思議だ。俺はいつの間にゴリラの雌雄を見分けるようになったのだろうか。

「勇者さん、アキモトくん、モチヅキさん」

 通話が終わったらしいアレックスが改まって俺たちの名前を呼ぶ。いよいよだ。


「明日の朝早くに出発する。十分に休んで英気を養っておいてくれ」


「おう」「はい」「うん」

 返事は三人三様だ。締まらないが、まあ、らしいと言えばらしい。


 翌朝、また絨毯に包まれて俺たちは城までの道を行く。荷物を検めさせろと言われても今度は大丈夫なように、俺らの上には本当の荷物が包まれた絨毯が段々に重ねてある。重い。つらい。でもしかたない。

 どうにか無事に城の敷地に入る門を抜け、俺たちは荷車から開放される。城の外には駐車場とでも呼ぶべき、荷車を停めておくスペースがあり、通常そこから先は荷車を置いて人力(ゴリラ力)で荷物を運ぶのだそうだ。荷物のすべてを確認させろとか言われた場合はそこで戦闘になることも織り込み済みだったが、そうはならなかった。

「さて、どう見る?」

「揺動がうまく動いているか、あるいは内部で待ち構えているか、はたまたこちらは囮で既に逃げたか」

「一番目であってほしいのは山々だが、確率が高いのは待ち伏せだろうな。待ち伏せというか、王女が手元にいるんだから守りは厚くせざるを得ない」

 城――というか城群? 城郭? のその内側には石造りの道と芝生の庭が広がっており、また複数の建物と門がある。それぞれが城とか塔とか呼んでいいような豪華な作りで、知識がないとどれが何だかわからない。というか出立前に見取り図を見てきたにもかかわらず、城がでかすぎて何が何だかわからない。脳内の地図をぐるぐる回しながら周辺を伺う。

「現在地と方角がわからない、あの建物は何?」

「あっちは来賓用だ。王座の間にはつながっていない」

「なるほど。向こうは?」

「あっちは礼拝堂」

「なるほど」つまりそっちがメイン塔であれが見張り塔か。

 ジネジッタの王城は五つの建物から構成されている。正門の近くに来客用の建物がひとつ、前回来たときにちょっと休ませてもらったのがここ。その奥に礼拝堂、俺が最初に喚ばれたのがここ。中央に玉座の間や執務室を抱えるメイン塔(?)があり、その奥に、ここからは見えないが寝殿と、ひときわ高い見張り塔がある。

「やっぱり玉座の間だろうな、この方向だと」

 アレックスがコンパスを見ながら言う。針はメイン塔の上の方を指している。

 ここから正門まではすこし距離があり、その間を通過するときには見張り塔から見える位置に出ることになる。無論、見張り塔に誰も居なかったとしても正門には門番がいるので、正面突破というわけにはいかない。場内で挟み撃ちにされれば不利はこちらだ。

「ね、つまり目標の建物はアレ? あの上にローラがいる?」

「ん? ああうん、そうだ。っても門番がいるからまず裏から――」

「わかった」

 アレックスの話を最後まで聞かずに望月さんが駆け出す。そして今になってものすごく大切な超重要事項に気がついたんだけどローラがいないってことは望月さんの最終ストッパーが無いってことでつまり望月さんは俺ら全員の静止をすり抜けてあろうことか望月さんビームで正門をぶち抜く。あとの四人が四人とも同じ「静止をかけようとしたポーズ」で固まって絶句しているうちに難を逃れた門番が望月さんを見つける。

「望月、しゃがめ!」

 秋元が怒鳴り、望月さんが慌てて屈み込む。秋元はあっという間に門番の胸元まで潜り込んで空を掻いたその腕を取り、素早く体をひねる。あれを一本背負いと言って正しいのかはわからないが、ゴリラは空中でぐるりと回転して首と背中の間くらいから地面に叩きつけられ、そのまま沈黙した。

「わあすごーい」

 しゃがんだ姿勢のままぺちぺちと拍手する望月さんを秋元が「すごーいじゃない!」と怒鳴る。声量を抑えろと思わないでもないけどまあさっき望月さんビームで思いっきり轟音が鳴ったのでもはやそういうレベルの話ではない。

「なんで正面から突っ込んでいくんだよ?! 馬鹿か! 馬鹿なのか?!」

「よっし取り敢えず道は開けた! レッツゴー!!」

「話を! 聞け!!」

 駆け出した望月さんの後ろを秋元が追っていき、その後ろから俺、アレックス、メリアが慌ててついていく。アレックスは走りながら、城周辺の部下に陽動を指示する。

「……何だろうねアレ?」メリアが呟く。

「……わかんない」わかんない。

 なんていうか取り敢えず一刻も早くローラを取り戻さないと想定とちょっと違う方向にやばいんじゃないかっていう気がする。っていうか俺のときよりだいぶ説教軽くない?

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