我が魂に応えよ、聖剣エクスカリバー
「取り敢えず連絡係と偵察を立てよう。消極派を手伝って貰えるように説得する。メリア」
「はい」
一言だけ返事をしてメリアが踵を返す。なんかすげえ。上司部下としてのふたり、めっちゃかっこいい。
「でも説得するったって、消極派含めたら国の半分が敵でしょ? 結構すごい量だよね?」
「大丈夫だ、相手はそんなに多くない。ローラを取り戻すところまでは女王反対派もこっちについてくれるはずだ」
「あ、そうか。その人たちも現状はまずいんだもんね?」
「え、でも結局最終的には対立するんじゃないの?」
「まあな。でもいっぺんに相手するよりマシだろ」
「そりゃそうだろうけど……?」
三つ巴の戦いと連戦のどっちがマシなのかがちょっとよくわからない。連戦はやだよなあ。セーブポイントとか回復ポイントがあるならまだしも、現実、それ無いし。俺が首を120度くらい傾けて考えていたらアレックスがちょっと笑って話を付け足してくれる。
「それに、彼女が王権を望むとは思えない。どっちにしろ玉座には就かないだろうと思ってる。玉座に就かないなら単なる市民だ、向こうだって話がわからないわけじゃないんだし、ある程度は気を使ってくれるだろ」
「まあ、ローラが権力を望むとは確かに思えないけど」
なるほど彼らが忌み嫌ってるのは女王であって、ローラにその意志がなければ少なくともやっつけようみたいな意志はないわけだ。
「え、でもじゃあなんで協力してくれんの?」
アレックスたちはローラを玉座に就けたいんだよね? と続けようとしたら、アレックスの「そりゃあ」という声がかぶさった。
「だって、勇者さんたちの友だちなんだろ?」
アレックスのあまりのかっこよさに思わず口元を押さえて「隊長ぉ……!!」とか言ったら隣で望月さんが全く同じリアクションをしてくれて連鎖的に秋元が吹き出す。おう見世もんじゃねえぞ。
「あと他に必要そうなものは?」
「あ、あのさ、エクスカリバーをどうにか持ってこれない?」
「ああ、あれな。しかし王城が落ちたとなると取ってこれるかどうか」
アレックスはエクスカリバーを知っているので普通に返事をするんだけど望月さんは知らないので「待って」と割り込みが入る。
「エクスカリバーってなんか世界史で出てきたような気がちょっとするんだけど何、なんで?」
「あれ現存してるのか」
「あ、そっか秋元は知ってるのか。そう現存してる」
「なんであっちの世界の剣がこっちにあるの?」
「それには深そうで深くないちょっと深い理由があってですね、あの剣の命名したの俺らのじいちゃんらしいんだよね」
「なんでそんなラー油みたいな言い方」
「あー、なるほど。そもそも『伝説の剣』って命名なのね?」
「そうそう。あれをどうにか借りたい」
「そんな試験前にノート借りるみたいなノリでいいの?」
「だってアレがないと俺の戦闘力五なんだもん」
「五ってどれくらい? 最大何? 百点満点?」
「あ、なんでもないです」
「銃を持った人間で五なんだから菅原は五まで行かないんじゃないか?」
「うっせ。つか秋元は何、ドラゴンボールは伝わんの?」
「兄貴が読んでた。ドラクエも兄貴がやってた」
「秋元も兄貴いんだ? うちもうちも。っていうか兄貴がやってて自分やんないのなんで?」
「いちいち横から口出されるの嫌いなんだ」
「あっわかる超わかる」
ホモサピエンス側でわちゃわちゃしてたらアレックスがちょっと苦笑いしながら「じゃあ、王城の偵察に二、三人割こう」って言ってくれる。ごめんなこっちで盛り上がっちゃって。
「俺も行くよ?」
「いや、勇者さんがついてくると却って目立つ。気持ちはありがたいが」
ああそうか、確かに目立つよな俺じゃあ。面が割れてるっていうか、ひと目で「勇者」ってわかられちゃうんだもんな。ゴリラを隠すならゴリラの中、ゴリラの中に隠れるならゴリラじゃなくちゃいけないわけだ。
「じゃあごめん、頼んでいい?」
「ん。メリアの隊はいないから――二隊、いるか」
「はい」
「じゃあ二隊から三人、王城に偵察に出てくれ。できれば王城に入ったことのあるもの。目標は王城で保管されているはずの聖剣エクスカリバーだ」
聖剣エクスカリバーて。いや正しいんだけど。
その日は特にできることもなさそうだったので秋元と望月さんと一緒に作戦会議をしていた。とにかく攻撃に当たっちゃダメだとか、ビームがあるから背を向けて逃げるのも危険だとか、ゴリラは木の上を移動できるので無闇に木立の中に入るのは良くないとか。翌日になると王城に偵察に出ていたチームが戻ってきて、その知らせが入って、朝のブリーフィングがざわつく。
「勇者さま、あの、伝説の剣ってこれでしょうか」
偵察に出ていた第二小隊の一人が、布で包まれた剣をこちらに見せてくれる。
「そうそうそれ! 思ったより早かった、大丈夫だった?」
しかし「伝説の剣」ってすごくなんかこう、頭の悪そうな響きだ。いやエクスカリバーも有名すぎてそこそこアレなんだけど。
「えっと、はい、あの、城の裏に棄てられていたので」
「捨てられてた?」
「おそらく、錆びたから捨てたのではないかと」
「錆びたぁ?!」
嘘だろお前、じいちゃんの代から百年錆びなかった剣がお前この半年でお前錆びるわけないだろお前。
部下から剣を受け取ったアレックスは、それを鞘から抜いて顔をしかめた。確かにパッと見だいぶ茶色い。
「確かにひどく錆びてるが、捨てられたから錆びたのか錆びたから捨てられたのかはわからないな」
「いやいやいやいや、つったってあれでしょ反逆軍てきなのが王城に攻め入ったのだってここ一日二日の話でしょ? 捨てられて錆びたって線もまあまあありえなくない? その辺の包丁だってそんなすぐ錆びないでしょ? まして伝説の剣でしょ?」
「って言ってもなあ。見るか」
「見る」
アレックスが差し出した剣は確かにかなり錆びている。これはきっと悪しきものに触れられたから錆びたのであって伝説の勇者である俺がこの剣を手に取れば剣は再び俺の魂に呼応しその輝きを取り戻すに違いない――みたいなことを考えながら手渡された剣を握り込んでみたらマジで錆が落ちてぎらぎら輝き始めるからビビる。軍ゴリラたちはおろか望月さんやら秋元やらまで「おおー」とか歓声上げてくれちゃってやめて恥ずかしい。
「伝説の剣が勇者さまに答えた!」「やはり剣は本物、そして勇者さまも」「さすがは伝説の勇者さま」
「いやいややめて恥ずかしいそんなわけないでしょ偶然だって偶然」
「でも今ダントツに伝説の勇者っぽかった」
「俺も正直ちょっとテンション上がったけどさあ~~~~~どういう原理だよ~~~~~~」
「取り敢えず剣の問題は解決だな。士気も上がるってもんだ」
アレックスに言われて、俺はちょっと首を傾げる。アレックスがそういう奴だとは思ってないけど、変な神輿にされても困る。
「なんかあんまりいい気はしないなそれ。俺は別に正義の味方でも保守派でもないからね?」
「わかってる。最終目標はあくまで平和的解決だ」
「あとローラの救出!」
「そうだな。お互いの目的のために協力できるところで協力しよう。力を貸してくれ勇者さん」
「おう。みんなも、力を貸してくれると嬉しい」
視線を向けて言うと、場にいたゴリラたちが揃って「もちろん」というような意味のことを口々に答えてくれた。頼もしい。
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