ゴリラ界への小旅行
ここまでのあらすじ。俺と望月さんは血筋を勇者イサムまで遡る遠縁の親戚で秋元はその家臣の子孫でした。そして俺と秋元の推測によると、ローラはこの世界のゴリラではありません。以上。
「で、俺としてはこっちが本題なんだけど、一昨日――その前だっけ? ローラに何があった? もう解決した?」
「うん解決した。ローラの敵は排除した」
「排除」
あまりにもざっくばらんな説明を繰り出して満足したらしい望月さんに代わって秋元が「実は」と話をしてくれる。曰く、校内で殺人事件があり(俺がニュースサイトで見たやつだ)、その犯人(犯ゴリラ)としてローラが疑われた。ローラはその日から行方がわからなくなっていた。望月さんはローラの疑いを晴らしたい一心で事件の真犯人を突き止め、山に隠れていたローラを探し出した。めでたしめでたし。正直ちゃんと世界観をつかめているのかイマイチ自信無いんだけど。
「俺が聞いた『助けて』って声は?」
「ローラが、逃げ回りながら周辺校のゴリラに助けを求めていたの。みんなが来てくれたおかげで間一髪、ローラは撃たれずに済んだ」
「周辺校のゴリラ」
「そっちもローラと同じく原因がわからない。俺はローラのことと何か関連があるんじゃないかと思ってるんだけど」
「言いたいことはわかるけど『原因不明のゴリラ』ってちょっと面白すぎない?」
「真面目に説明してるんだけど」
睨まれた。ごめん。
一応今回の小旅行の目的は助けを求めていた誰かとその事情を突き止めるってところだったからこれで話は終わりっちゃ終わりなんだけどなんというかローラのことを放置していいのかという気がする。
「その原因不明のゴリラたち、放置でいいの?」
「そうは言っても、因果も何もわからないんじゃ対処のしようがない」
「行ってみればいいじゃんあっち。ここで話してるより情報あるんじゃない? その本、魔法陣? とかなんか方法みたいなの書いてない?」
「簡単に言うけどな。さっきも言ったろ、触媒も霊脈もなしにどうやって座標を定めるんだよ」
「あ」触媒で思い出した。あっちでもらったお守り、何祈願なのかとか全然わからないけど取り敢えず財布に入れて持ち歩いてたんだ。「これ使えそう?」
「何? それ」
「あっちで貰った、たぶんお守り」
「あっち?」秋元が目を剥いて俺の手元と顔を何度も見比べる。「は? え? 貰ったって、行ってたってこと?」
「ちょっと前に、一週間くらい」
「そんな、旅行じゃないんだから」
うんまあ話せば長くなるんだけどね。いや長くはならないか。急にクローゼットに引きずり込まれたと思ったら異世界だったんだよ。これ以上の説明はない。
「使える?」
「え、――ああ、うん、使えると思うけど」
「ちょっと」
ほとんど唐突に望月さんの声が割って入って、秋元と二人でそちらを見る。望月さんは明らかに怒っている。
「なに勝手に話進めてるの」
「え」
「異世界だかなんだか知らないけど、私はローラがいなくなるなんて絶っっっっっ対に嫌だからね! ローラは渡さない!」
いや誰に。
望月さんはローラを庇うように立ってオオアリクイの威嚇みたいなポーズをしているし鼻の頭にシワを寄せてぐるぐる唸りそうな勢いでこちらを睨んでいてちょっと取り付く島もない感じになってしまい俺は秋元にヘルプの視線を投げるんだけど秋元も秋元で「悪いけど俺は基本、無条件に望月の味方だから。望月が嫌だって言うならそっちには味方しない」とか言って話を打ち切ってしまってなにそれ超かっこいい。いいな忠誠の騎士。じゃねえや真面目そうだし味方っぽいと思ったのにそっち側かよ。
でも実際特に問題が起きていないならこのままでもいいんだろうかとかいやしかしこれ明らかに不自然でしょ向こうで誰かが探してるかもしれないじゃんとかぐるぐる考えて何も言えないでいるとローラが思い切ったように「私は、ここにいちゃいけないと思う」と言った。静かではっきりとした声。
「なに、何言い出すの急に」望月さんが狼狽しきった声を出す。
「この前の宇部先生の件、それ以外にもいろいろ、おかしいとは思ってたの。もし、私にもっと正しい場所があるなら――誰も傷つけずに済む場所があるなら」
「嫌! そんなの、ローラがいなくなるなんて、私は絶対に嫌!」
「美咲」
「望月」秋元が低い声で割って入る。望月さんは苛立ったような不安なような顔で、「なに」とだけ返事をする。
「優先順位を間違ってる。ローラの話すら聞かないならそれはただのわがままだ」
「……さっき『無条件に味方だ』って言ってたじゃん……」
「そうだな。でも望月だってわがまま言ってローラを困らせたいわけじゃないだろ」
秋元強い。スタンスが完全に保護者。
「あのさ、試しに一回行ってみるとかどう? 悪いところじゃないよ。特に望月さんには超楽しいところだと思うし」
「楽しい?」
「そうそう。ゴリラまみれ」
「ゴリラまみれ」
おお、ちょっと食いついた。どこまでゴリラ好きなんだ。
「行く?」
「……ローラが、行きたいなら」
望月さんが唇を尖らせたままで渋々承諾する。ローラに目線をやると、ローラは黙ったまま首肯した。喋ると女子高生なんだけど喋らないとふつうにゴリラなので見た目が超かっこいい。強そう。
「さて、一応帰りのアテはあるんだけど、秋元、行きはなんとかなる?」
訊くと、秋元は手元のお守り(ゴリラ製)に視線を落として少し考えたあと、俺に向き直って頷いた。
「理論的には」
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