勇者の役割
王様が偽物だとわかったので周りの兵士たちは味方についてくれるかと思いきやまったくそんなことはなく偽王の「捕らえよ」の号令で一斉に向かってくるもんだから慌てて避けたり剣の腹で攻撃を払ったりするのだけど偽物だってわかったのになんであいつの味方をするんだ? と思ったけどもしかしたら洗脳呪文みたいなものがあるのかもしれず、あるいはそもそも偽王の腹心なのかもしれず、結局敵か味方かよくわからなくて躊躇っているうちにあっという間に羽交い締めにされ、剣も取り落として絶体絶命の窮地に陥る。戦闘力5かよ。
偽王が満足げに笑って俺を見る。
「なぜ戦う? 見も知らぬ他人のために、関わりのない世界のために、命を投げ出してまで」
「それがわかんねえなら
偽王の眉がまたぴくりと動く。ざまみろ偽物。
「構わぬ。始末せよ」
「助けてくれ」
瞬間、俺取り囲んでいたゴリラたちが爆風に晒されたかのように弾け飛んだ。俺のそばに光の粒が集まり、ひとつの影を作る。
「君ねえ、それは戦略とは言わないんじゃないかな」
影が笑い含みの声で言う。
「戦略は戦士とか軍師の仕事なんで。
言うと、リュグナは軽く声を立てて笑った。
「よく言った。それでこそ
「リュグナ」
誰かがその名前を呼び、一気に狼狽が広がり、さっきまで余裕ぶっこいていた偽王までもが焦りを露わにした。
「まさか。本物のはずはない、偽物に決まっているだろう」
「やあ、初めまして。ジネジッタ国第八十二代国王陛下ならびに禁軍諸兄。いや、国王陛下代理殿かな? 国王よりも先に僕に謁見するなんて、首を落とされても文句は言えないほどの不敬なのだけどね」
どうでもいいが魔道士連中は本当にセリフが長い。
「彼には加護を与えてある。君は知らないんだろうが、王家に生まれたものはすべてそうだ。魔に食われぬよう、邪なものに殺されぬよう、賢を以て地を治めるよう、とね。もう一度だけ訊こう。ジネジッタ国第八十二代国王、シャルル四十六世をどこへやった?」
「あれひどい、舌を抜かれたのか。どれ、治すから口を開けといてくれ」
王城の地下牢に幽閉されていた王に、リュグナは気安く話しかけた。くるりと指を振ると舌が戻ったのか、王様は開口一番に「リュグナ様では」と声を上げた。そういえば詠唱は口でやるんだからってメリアが言っていたっけ。舌を切られると回復もできなくなるんだな。そもそも王様がそういう呪文を使えるのかもわからないけど。
「ん。酷い目に遭ったね。どこか悪くはないかいシャルル?」
「いえ、私などは――国は、民は今――」
堰を切ったように王様が喋り始める。ああやっぱりこっちが本物だ。
「まあまあ落ち着きなさい。先に彼を紹介しよう。百年の昔この国を救った勇者イサムの血を継いだ男だ。名を――なんだっけ?」
「カズキです」
確かにあんまり呼ばれてなかったけど。
「勇者カズキだ。彼が魔を封じ、偽王を看破した」
看破したっていうか、まあそこそこハッタリだったんだけどね。
「なんとお礼を申し上げてよいか」
「いえ、大半はここにいるリュグナと、陛下の――陛下の? 国の? 北軍からアレックスとメリアの二名をお借りしました。それからユリウスの力も」
ユリウスの名を聞いて、王様の顔が変わった。どれくらいここに閉じ込められていたのかは知らないが、ユリウスの名は知っていたのだろう。
「彼が、あなたに力を?」
「何度も助けてもらいました。それから、駐屯兵や町の方々。俺――僕、私ひとりではとても成し得ないことでした」
「君は自分をずいぶん過小評価するんだなあ。たったひとりが頼んでそれだけの人数が力を貸すってのはすごいことなんだけど」
「リュグナも?」
なんとなく恥ずかしくなって混ぜ返すと、リュグナは盛大に笑って「もちろん」と答えた。
「君が戦うと決めたからわざわざここまで助けに来たんだ。そうじゃなかったら見捨ててる」
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