伝説の勇者カズキ

 俺はそのまま、王城に送り届けると言われて代わる代わる別のゴリラの背中に乗せられて延々運ばれ、普通に行けば三日だか四日だかと言われていた道のりを二日半で駆け抜けた。昼行性だというのにシフトを組んで昼となく夜となく走ってくれたゴリラたちには頭も上がらない。その代わり俺はずいぶんたっぷりと眠ってしまった。ゴリラの背中でも眠れるようになった自分には驚くしかない。

 それまでは普通にゴリラの背中に乗せてもらってたんだけど王城に入る手前で案の定例の硬めの布でぐるぐる巻きにされてやっぱりこれ必要なの? っていうか結局何なんだよこれ? とか思いながらまあ二回目だし対して驚きもせずごろりと転がされた先にはやっぱり王様がいてやっぱりちょっと不敬っぽい。

 報告を求められても正直あんまり事態を理解していないというかどういう原理で何が起きたのかはさっぱりわかっていなかったので「ユリウスが魔王と相打ちになった」くらいの極限までざっくりした解説をできるだけ恭しく伝えた。このあたりは現代高校生の必須スキルという感じで、取り敢えずそれっぽいことを述べる能力なら俺だって低いわけではない。

 王様はわかったのかわかってないのかわからない顔でふんふん話を聞き、「ご苦労だった。約束通り勲章を授けよう」と別に報告を聞かなくても言えそうなことを言った。話聞いてたのかよ。

「城下はどうなっていますか。謀反があったと聞いています」

「心配には及ばぬ。たかだか数名がどう暴れたとてこの城までは辿り着けん」

 ん?

「いえ、そうではなく」

「魔王は朽ちたのだろう? であればその他はこの国の問題だ。勇者さまが気にかける必要はない」

 え?

 いやまあ役職的にはそうだけど、は?

「さて、宝剣は返還していただく。取り返すようで申し訳ないが、一応国の宝なのでな」

 あ、だめだ話伝わんねえやこいつ。

 国民の心配なんか全然してないのか? まさか俺が本気で勲章欲しさに戦ったとでも? 馬鹿なの?

 王様のそばに控えていたひとりがこちらに寄ってきたので身を引いて剣を守る。瞬間的に、これを渡してはいけないと思った。今、俺のそばには味方がいない。これが無くなったら俺は自分の身も守れない。

「……これは俺がこの国から借りたものだ。返すときはこの国の王に返す」

「王は私だ」

「いいや違う。戦士、魔道士、国ひとつを欺いて見せたとて、この勇者の双眸、欺き通せると思うな」

 いやまあもちろんブラフなんですけどね。真実を映し出す鏡とか無いしね。みーたーなあ? みたいなね。

「ふ、はは、――ははは! よくぞ気付いたな!」

 やったあバカだこいつ。

「だが遅い! 唯一の脅威だったユリウスは消えた! 剣ひとつ、貴様ひとりで何ができる! もはやこの国は我が手に落ちたのだ!」

「王を偽って国を支配する?」あまりにもテンプレートなのでつい笑いが溢れた。「陳腐にも程がある」

「陳腐だと?」

 偽王の眉がぴくりと動いた。なに斬新なつもりだったの?

「ああ陳腐だとも。聞き飽きたくだらない妄言だ。そして俺の前でそれを叶えたやつはただの一人もいない」

 ボストロール。やまたのおろち。ニセたいこう。今まで勇者おれの前に立ち塞がり、敗北していった有象無象。


「かかってこいよド三流。かつて存在した無数の魔王と同じ、敗北という穴に葬り去ってやる」

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