薬物乱用・ダメ・絶対。
暴れていたゴリラを軍に引き渡し(アレックスが来る前、間一髪でユリウスの魔法が間に合ったらしい。俺全然見てなかったけど)、ユリウスの術で昏倒したアレックスをどうにか宿まで運んで寝かせてようやく息をつく。二人の傷ついた体は回復魔法できれいに元通りになった。すごいな。
「回復魔法は副作用とか無いの?」
「回復剤は当人の体力を強制的に削って回復に回すから副作用が出る。回復魔法は魔法をかける側の魔力を利用するから当人に副作用はない」
うーんよくわからん。あれか、寿命の前借りとかそういう話か。
「さっきこいつが使った回復剤、あれは市販のレベルじゃないだろう。どこで手に入れたんだ?」
「……隊長は、いつも誰より前に出て戦っては誰よりも傷ついて、それで――もう、普通の薬じゃ効きが悪いって言って」
「オーバードーズの常習か。そんなことだろうとは思ったが」
「私が、――私がちゃんと、力になれてたら」
メリアは肩も声も震わせて縮こまっている。手を握り背中を擦ってやると、どうにか落ち着こうとして必死で息を整えているのが伝わってきた。
「メリアのせいじゃない。大丈夫」
「そうだな、お前のせいではない」
処置ついでにちょっとした検査をすると言っていたユリウスが近くに戻ってくる。メリアがユリウスを縋るような目でぼんやりと見上げる。
「今までのオーバードーズのことは忘れろ。今回のことはそれとは無関係だ。今回はただ、俺の手を借りたくなかっただけだ」
「アレックス、目を覚ましたの?」
「記憶を読んだ」
おう悪趣味。っていうか何それ怖い、と思ったところで思い出した。そういえばガロでも、暴れたゴリラの頭に触れていた。あれが発動条件なんだとしたら使える条件がかなり限られた魔法だ。魔法っていうかちょっと念能力っぽいな。なんだっけ幻影旅団に似た能力のキャラがいたような。
「ユリウスの手を借りるためにこっちに走ってきたわけじゃないんだ?」
「あれがそう見えたか?」
「いや、今更になってそれもありえたかなって思っただけなんだけど」
まあまあ殺気に満ち溢れてたよね。
「俺がかつて滅ぼした村の話は覚えてるか」
リュグナが言ってたやつだ。そうそう忘れられる種類の話ではない。
「あれ、こいつの故郷だったらしい。最初から殺したくて仕方なかったくせに、よくも今まで殴りかかってこなかったもんだ」
ユリウスが呆れたように息をつき、メリアの方を見て「悪い。流石に配慮が足りなかった」とぼやいた。目を見開いたまま呆気に取られているメリアに向けてユリウスがくるりと指先を振ると、メリアはその場に倒れ、すぐに寝息を立て始めた。
「……今の、二秒かかった?」
「この距離なら二秒の詠唱は必要ない」
「あ、そういう話?」
だからアレックスのときも術が間に合ったのか。あれ? っていうか俺もしかして役に立ってない?
「まさか。向こうに術をかける時間はお前が稼いだんだ」
「なるほど」
割とちゃんとフォロー入れてもらって感動した。
メリアがショックを受けるのは無理もないことだった。特に、大好きな隊長が誰かに対して「殺したくて仕方ない」と思うほどの強い憎しみを持っていたこと、自分がそれに気がついていなかったことはショックだろう。ユリウス、ちょっと優しくなってきたな。
「さてどうする。そこ二人を起こして改めて出発するか?」
「いや、もうちょっと寝かしてあげよう。そんで」俺はメリアから視線を外してユリウスに向き直る。「聞かせてほしい。数年前、アレックスの故郷の村で、何があったのか」
ユリウスは案の定、苦々しさを顔いっぱいに浮かべた。それでも、嫌悪よりは呆れの方が強く見える。もうちょっと押せば諦めてくれそうな、拒絶とまでいかない雰囲気。
「聞いて何になる?」
「単刀直入に言う。その村と魔王が関連してると思ってる」
ユリウスは何も言わなかった。肯定も否定もしない。
「リュグナはユリウスが魔王の正体を知っているようなことを言ってた。その上、『彼女は何も統べていない』なんて言い方をした。無関係なら普通は『彼女』なんて言葉は使わない。であれば、俺たちが倒そうとしている『魔王』は、ユリウスの大切な人なんじゃないの? ユリウスはその人のために、ひとつの村を滅ぼしたんじゃないの?」
人は間違ったことを言われると即座に訂正したくなるものだと何かで読んだ。ユリウスの性格ならなおのこと。
「買い被るな。都合の良い解釈をするな。あれはそういう、美しい類の物語なんかじゃない」
ほらな。
「勝手に解釈されるのが嫌なら全部話せばいい」
「……面白い話ではないぞ」
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