第2話 小池さん(2)

 さて、今日も仕事をはじめよう。

 俺は仕事部屋の扉を軽く数回叩いてから、開ける。


「小僧、懲りずに来おったか。この老いぼれの世話に嫌気が差したのなら、いつでも代わってくれてかまわんぞ。たらい回しは慣れておるからの」

「なに言ってんだい、小池さん。一ヶ月以上も担当してるんだぜ。ここで降りちまったら」

「男がすたる、か?」

「いや? 俺の評価が下がる、だろ?」

「くあっ、かっ、かっ、かあっ……」

「ふっふっふ……」

「小僧、きさま出世するやもしれんな」

「うわあ、嫌な予言……爺さんみたいにはなりたくねえなあ」

「ぬかせ」


 俺は、いつものようにくだらない会話をする。

 これも重要な仕事のひとつだ。


「ん? そいつはなんだ、小僧?」

「そこまでもうろくしてんのか、爺さん……。これは『花』という色や形を楽しめる観賞植物だぞ?」

「たわけが」

「なに怒ってんのさ?」

「儂には風情なんぞわからんと言ったろうが! 金の無駄じゃ!! いつもの造花で充分じゃ、あほうが!」

「だーいじょうぶだって。別に爺さんのために買ってきたわけじゃない。代わり映えのしない部屋に変化がほしいと思って、俺の趣味100%でやってることだからさ。あ、もちろん自腹だよ」

「なお悪いわ! 小僧、いままでの口ぶりから察するに、衣食住を最低限の水準まで落とさねば生活できぬ状態じゃな? 言っておくが儂はきさまに援助などせんぞ?」

「みじんも期待してないけど?」

「ならばなんのために!」

「俺のため」

「ふんっ、もう好きにせい」


 小池さんは露骨なほど不機嫌になってしまったが、俺には俺の仕事がある。

 俺は、ただの看護師なんだからな。



(つづく)

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