第7話

Fairy lover 7


目が覚めると彼の匂いに包まれてた

ソファで眠ってしまった私に自分の布団をかけてくれてた



(優…帰って来たんだ)



彼の寝室を覗くと薄い掛け布団1枚にくるまってる


「ごめん、私がとっちゃったんだね」


そっと布団を返すとうっすら目を開けた


「うーん、美空?」


「ごめん、起こしちゃったね。まだ寝てていいよ」


「起きるよ、今日はデートだろ」


「うん、でも、疲れてるでしょ」



寝起きの掠れた声

横になったまま見上げる目

男の人なのに妙に色っぽくて



「行きたいとこ考えた?」


「あ、後で言うよ」



焦って逃げようとすると、手首を引っ張られてバランスを崩し、彼の上に覆い被さった



「きゃっ」


「おっとー、美空、襲うなよ」


「誰がっ、優なんか」


「なんかって、そりゃあ、美空からしたら、おっさんだけどさ」


「そ、そうよ」


「おっさんで悪かったなぁ。

じゃあ、今日は1日寝るからな」


「嘘、うそ、行きたい!」


「素直じゃん。っで何処行く?」


「いろいろ考えたんだぁ、よくわからないけどデートって……例えば手を繋いで散歩したり、海までドライブして夜景見たり、それと…うーんと…どうしよっか(笑)」


「ハハ、了解、今言ったことしよ」


「いいの?出来るの?大丈夫なの?」


「そんないっぺんに質問すんなよ(笑)だから、任せとけって言っただろ」


「うん」


「さっ、早く着替えろ、時間がもったいない」



急いで仕度して、リビングに行くと優はすっかり準備万端



改めて見るとほんと、かっこいい




「なに、ぼーっと突っ立ってんだ?

行くぞ」



彼の大きな手に包まれた



「え?」


「デートだろ?

美空、ひょっとして緊張してる?」


「し、してないよっ」




車を走らせ、海沿いのカフェでランチをして、手を繋いで歩く



彼の笑い声と波の音が混じって、優しい音楽を聞いているよう。


昔観た映画の中の恋人がこんな風だったよなぁなんて、思ってた




「美空

次はとっておきの場所つれてってやるよ」


「ほんと!」




再び車に乗り、静かな音楽が流れると助手席に座る美空の手が微かに動いてる


無意識?

踊りたい?



すっかり暗くなった頃、港に車を停めた




「降りよっか」


「うん」



対岸に工場地帯の眩しいほどの夜景が広がってる



「すごいよー、優!!

私、こんなの初めて見た」


「ここ、俺のお気に入りの場所」


「私も気に入った」




嬉しそうに見上げる瞳があまりにもキラキラしてて、自分がどうにかなってしまいそうで…すっと息を吸って落ち着いて彼女の手を握り直した




「なぁ、美空…

美空は…踊りたいんじゃない?」


「え?」


「踊ってよ

俺…見たいんだけど」


「優が見たいんなら」





月の灯りに照らされて、跳び跳ねる彼女の姿はしなやかで美しく


いつもの美空とは違う鋭い目になってた



「すげぇ」



「はぁはぁ

久しぶりだからダメ

さぼってた…はぁ…から」



俺は躍り終えた彼女を咄嗟に、強く抱きしめた



「優、苦しいよ」


「あっ、ごめん、

やっぱり、美空は踊るべきだよ

ほんとはやりたいんだろ?」





「…うん、

優のところにいて、バレエと離れてみてやっと気付いた。

私、やらされてるんじゃない

踊りたい、踊りたいの」



「俺は美空の踊る姿、好きだよ」


「じゃあ、優は私のファンになってくれる?」


「そうだな応援しないとな。

……帰ろっか」


「えー、もう少しいたい」


「寒いから、風邪ひくじゃん」


「大丈夫…だっ……」



美空のちっちゃな身体を後ろから包み込んだ



「私ね…優に…そんなことされたら

ドキドキするの。

心臓壊れるんじゃないかって思う」


「じゃ、やめよっか?」


俯いて首を横に振る


「美空…それってさぁ……

俺のこと、好きってことじゃない?」


「ち、ちがうもん」


「ふーん、まっいいか」




彼女の柔らかい髪に唇を寄せて、

心の中で言った



踊る姿だけじゃない


俺はどんな美空も好きだよ




今にも声になりそうな言葉をぐっとのみこんだ




伝えてしまうと

妖精は…瞬く間にこの夜空に飛んでいきそうな気がしたから……。

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