第5話

Fairy lover 5



美空がうちに来て、3日が過ぎた

身の回りの物を少しずつ揃え、空いていた殺風景な部屋が彼女の色に染められていく



「優…ごめんね。

いっぱい買ってもらって」


「気にすんな」


「だって…」


「俺、仕事が不規則であんま、家にいないから、適当にしといてくれていいから」


「うん、ありがとう

優って…」


「んー?」


「あの…凄い人だったんだね

調べたの。そしたら…。

私ここにいて本当にいいのかな?」


「しつこいなぁ、いいって言ってんじゃん」


「わかった

じゃあ、私のことも話すから聞いてくれる?」



彼女と並んでソファに座った


「私…物心ついた頃からバレエをやってた。

学校が終わるとすぐにレッスンに行って、友達と遊ぶ時間なんてなかった。


……ママは自分が果たせなかった夢を私に託したの」



隣に座る俺の方を時折、見ながら、落ち着いた口調で淡々と話を続けた



「高校生になって、コンクールで入賞して、親も先生も友達も周りは皆、私のこと特別扱いした。

次はどんな賞をとるの?次はどんな舞台に出るの?って。


周りの期待が膨れてくるのと反比例して私の気持ちはどんどん縮こまっていった


息苦しくて、

私は本当に自分がやりたくてバレエをやってるのか…わからなくなってきた」



「っで、逃げ出してきたって訳か」



「…そう…だね」



「目指してる場所に立てたと思ったら、また次はそれより、高いところを目指す、っで、またそこに辿り着いたら、次…

どこまで走ればゴールなんだろうって

俺だって思う時ある」



「優も?」



「うん」



「でも、優は友達もたくさんいるし、恋人だっているでしょ?」



「友達はいるけど恋人は今はいないよ」



「私はね、バレエ以外は何にも知らない。

20才にもなって……恋もしたことない。

デートだってしてみたいし、淋しくて心細い時、側にいてくれる人だってほしい。

やってみたいこと…いっぱいあるの」




力強く言った言葉とは裏腹に今にも泣き出しそうな揺れる瞳を見てると、心が熱くなった



「なぁ、美空

じゃあさ、やりたいことやろう」


「え?」


「だから、美空がやってみたいこと…俺が叶えてやる」


「ほんとに?」


「嬉しい~!」



無邪気にはしゃいで俺に抱きついてきた彼女


そんな無防備な態度とられるとどうしていいか、わからなくなった



こいつ…今まで出会った女とは次元が違う



完全に調子を狂わされた俺は美空の小さな背中に腕を回して抱きしめ返した



「優…ありがとう」




彼女の声が耳に響いた瞬間、この小さな温もりが消えてしまいそうな気がして、慌てて、抱きしめる腕に力をこめてた

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