第16話 人族の兵隊と魔導師

 キリコさんとシンジ君2人は左手を前にかざします。呪文も言わずに兵隊達の前に水の壁がニョキニョキと地面から生え出したのです! 厚さが1mぐらいでの水の壁が3mぐらいの高さにせり上がったのです。じきに左右と後ろにも同じ水の壁がせり上がり、兵隊達を四角の水の壁が囲ったのです。


 「精霊使いがいるぞ!」「なんだ!ただの水じゃないか。」


 水の壁にぶちあたった者がすごい水圧のため地面に押し付けられ、溺れそうで足をバタバタしています。仲間の兵隊に足を捕まれ戻されてようやく息ができました。クロスボウを構えた兵隊がシンジ君達に向かって矢を放ちました!水の壁を貫通することなく全ての矢が水の壁の下に落ちていきます。


 「武器を捨てて降伏しろ!」シンジ君がどなります。


 「卑怯者俺と勝負しろ!」


 開いている空に向かって槍や剣を投げる兵隊がいます。シンジ君の足元に剣が刺さりました。


 「あぶないなー!」


 シンジ君天井に蓋を被せるつもりで左手に力を込めようと思った時、水の壁の上に浮かび上がってきた人がいます!左手で隊長の首根っこ掴んで2人でふわーと、浮かんでシンジ君とキリコさんの前に降り立ったのです!


 「魔導師だこん!」キリコさんが憎しみのこもった声をあげます。


 「ふふふっ水の精霊使いか?お前達獣人は水の精霊や土の精霊とか相変わらず田舎もんじゃて。おっとそこに変な顔の人族もいるがな。」


 黒っぽいローブを着たシワだらけの顔を半分ぐらい出した男が、憎らしい話をしだしたのです。キリコさん剣を魔導師に向けています。


 「おいおい俺は無視か?」隊長が剣を抜いてキリコさんに向かいます。


 「この薄汚い狐のひょっこ!喉が渇いているからちょうどいい、お前を真っ二つにして血をゴクゴク飲んでやる!」


 『ぬおおーっ!』キリコさんに向かった隊長は、腰の入った見事なフォームで袈裟掛けに剣をふるいました。この狐の少女が血だらけになるのを確信した瞬間、自分の剣が弾かれたのです!激しい衝撃に唖然としている隊長? 弾かれた剣の勢いを利用して今度は胴抜きです!『ちぇええーすと!』今度の剣捌きも一流です。シンジ君剣道経験から並みの剣士では無い隊長と、キリコさんの剣の戦いを唖然としてみています。魔導師も黙って2人の戦いを興味深く見守っています。


 隊長が力任せに重たそうな剣を振るいます!キリコさん隊長の全ての攻撃を、片手で華麗に弾き返しています。真っ白な尻尾がフワフワと揺れてフェイントをかけた攻撃にも軽々と草なぎの剣で跳ね返しているのです!


 打つ手のなくなった隊長はキリコさんの脛を狙い、下からすくい上げる太刀使いをした瞬間、キリコさんはふわっと飛び上がり、がら空きの隊長の顔を刃の無い部分で打ち抜きました!昏倒した隊長は脳震とうを起こしたみたで、半目で気絶しています。転がっている隊長の剣は魔素を吸い尽くされた様に干からびています。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「ふーむ、そこの狐の少女よ、その剣は普通では無いな?こちらから見ていても大量の精霊が渦を巻いているぞ!」魔導師のおじさん初めて見る草なぎの剣に興味深々です。


「こちらの国の神様に授けてもらった『神剣草なぎの剣』なのだこん!」キリコさん魔導師に剣を向けて言います。


 「神だと!こちらの国の神だと!神といえば我が王国サッカリンの神『マヨネーズ様』こそ唯一の神であるぞ!」


 興奮した魔導師のおじさん両手を広げて短く呪文を唱えました。


 両手から台風並みの風がキリコさんに当たります。どんどん強くなり普通の大人でも、立っているのは無理です!轟音と共にますます風は強くなります。草や石をも含んだ猛烈な風が、キリコさんを襲います。


 ニヤニヤしていた魔導師は普通に立っているキリコさんを見て、口を開け唖然とするのです!キリコさんが持っている剣に、獰猛な風が全て吸い込まれていくのです。


 「何じゃと何をしている!」


 魔導師は訳わからずさらに風に力を加えるのでした。あくびをしているみたいなキリコさん今度は剣に力を込めました。すると魔導師の自分が出している魔力以上の魔力が、ドンドン自分の肉体から抜けて行きのです!


 「やっやめろ!」


 魔導師は青くなり思わず叫びました!自分の体の奥にある魔力を生み出す元になる、魔核が吸い込まれるように動き出したのです!魔導師は初めての経験に気が動転しました、なんとかしなくては?もう攻撃どころでは無く、この場を逃げようと必死です。ただ足が竦んで動け無いのです!


 ドンドン魔力が吸い出されていきます!『やめてくれー!お願いだー!』恥も外聞も無く魔導師は叫んでいます!キリコさんは無表情でさらに剣に力を込めます。


 魔導師の『あああっ』と言う声と共に魔核が、ポンという音とともに地面に落ちました!しゃがみ込み徐々に崩れ始めた魔核を見つめながら魔導師は泣いています。


 「幼き頃からともに苦しい修行をしながら、ようやく魔導師にの一角に上り詰めたのに、こんな辺境の地で全て無くすとは『マヨネーズの神』よ、私はどうすればいいのですか?」


 おいおい泣いている魔導師を無視して、シンジ君は水の壁に囲まれている他の兵士に『さっさと降伏しろ、でないと隊長みたいな目にあわすぞ!』と怒鳴りました。


 透明な水の壁です一部始終を見ていた兵隊たちは、まだ俺たちはやれる!100人近く残っているのだ一度も戦わずして、降伏などできるかと騒いでいます。


 シンジ君左手から小さな火玉を、大量に残りの兵たちの上から降りかけたのです。


 「あっつ、ひいいいいいい、熱い熱い!」


 慌てて周りの水の壁に、火傷の患部をさらして大騒ぎです。『分かった分かった降参する、降伏するから火玉は勘弁してくれ!』武器が足元に散乱しています。


 隊長はまだ気絶しています。元風の精霊使いの魔導師はまだ泣いています。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 初めての実戦にシンジ君は、ほとんど戦っていないのに冷や汗いっぱいです。キリコさんは仇の魔導師の1人を、ただの人に葬ったことに嬉しい興奮を覚え、この剣を授けてくれたヤマトタケルノミコトに心で感謝するのでした。





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