第15話 暗雲たなびく赤鹿村

 いつもの精霊使いの練習している農業用ため池の前に、キリコさんとシンジ君が立っています。2人は昨日の出来事を話し合っています。


 「シンジさんもあの神様のヤマトタケルの声を聞いたの?」


 「ええ、キリコさんは初めて聞いた神様かもしれませんが、僕ら日本人はヤマトタケルノミコトと言ったら、教科書に載っている位神話で有名な神様です!その神様の声が聞こえるなんて、夢をみているみたいです!」


 キリコさんは右手を出しました。瞬きした後には草なぎの剣がキリコさんの右手に握られていました。昔写真で見た草なぎの剣は青銅製でくすんで黒っぽい緑色でしたが、キリコさんの右手にあるのは白銀色をした幅の狭い、スマートなショートソードなのです。


 「昨日の夜からこの剣を試しているのだけど、それはバランスは取れてて軽く振りやすいのだけどそれだけなのこん、精霊を宿しても何の動きも変化も起こら無いのこん?」


 シンジ君は少し考え、黙って足元に落ちていた棒を構えました。


 「キリコさん今から打ち込みますので、その剣で相手をしてください。」シンジ君中高と剣道部だったのです。正眼の構えからキリコさんの脳天めがけて打ち込みます!


 「早い!」キリコさんシンジ君の打ち込みの早さに一瞬遅れました。しかし剣が勝手にシンジ君の打ち込みの軌道上に被さったのです!弾けられたシンジ君の棒は粉々になって四方に散ったのです!


 「シンジさん今のは剣が勝手に動いたのよこん?」

剣が意思を持っているみたいに相手の攻撃を予想するみたいです。


 「キリコさんその剣は絶対防御が出来るみたいです。」


 唖然として剣を眺めているキリコさん。シンジ君はボロボロに崩れた棒を見ながら、もしかして? 左手を差し出しファイヤーボールと言いました。小さな火の玉が続々とキリコさんの前に漂っていきます。もう少しキリコさんに近ずけてみます。キリコさんが構えている剣が淡く光りだし、その火の玉を全部吸い込み出したのです。どんどん吸い込みます!


 シンジ君はかなり離れて本気でキリコさんにファイヤーボールをぶつけます!上からも下からもシュートもカーブも全て剣が吸い込んでしまいます。


 「キリコさん剣を池の中にいる敵がいると思って振り抜いてください!」


 「こんっ!」キリコさんは言われた通り池めがけて剣を振り抜きました!

草なぎの剣からは凄まじい数のファイヤーボールが、高速で大きな爆発音と共に池の水を大量に蒸発させたのです!


 2人は呆然としてキリコさんが構えている剣をみています。


 「キリコさんこの剣は、敵のどんな凄腕の剣士の技を持ってしても全て弾き返し、どんな精霊使いの魔法をも吸収して、相手に数倍にして返すという常識破りの剣です。」


2人はヤマトタケルノミコトと精霊神が作った『草なぎの剣』をいつまでも見ていました。


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 風のない穏やかな秋の日。突然おじいちゃんの家の中にある、◯鹿村事務所の部屋に警報が鳴りました!


 シンジ君とキリ君は防犯カメラのモニターに飛びつきます。シンジ君は以前は小動物が通るだけで鳴る警報に睡眠を邪魔されて、赤外線探知を2本に増やして人間に近い身長で歩行する者を感知するように、プログラミングを変更しています。


 久々の警報にモニターを覗いた2人は、集団でうごめく異国の兵隊を見たのです。何十人かの鎧をつけた男達が目を抑えてしゃがんでいます。長い間暗い洞窟を歩いてきて、眩しくてじっとしているみたいです。背中にはクロスボウを背負っている兵隊もいます。


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「奴らだこん!」キリ君が叫びます。2人はお父さんとコロルさんとキリコさんを呼びに走りました。お父さん達と主だった獣人族の長と、巡査2人もモニターの前に揃いました。


 兵隊達は100人近く洞窟の前にしやがんでいます。コロルさんは離れている各家に聞こえるように、前もって打ち合わせしていた高音の遠吠えをしたのです。


 獣人達皆んなは東側の山の麓にある、集会室に向かい家族全員で走っています。集会室の裏には獣道が山の頂上まで通っていて、途中の道には食料や水や剣が隠してあります。


 戦える獣人の若者達は集会室の前に、革製の胸当てをして、弓や直刀を下げて集合しています。残りの獣人達の家族は裏山の中腹まで避難して、ボランティアの若者達と不安そうに、奴らが現れるだろう一本道を見ています。


 「何が起きているの?」


 突然の慌ただしさに、のんびりコーヒーと兎族のウェイトレスのお姉さんと、楽しい話をしていた観光客の皆さんは戸惑っています。


 「実は元の里で獣人さん達を虐待していた人族の兵隊が現れたのです!」


 お父さんがお客さんに説明しています。車で来られた人はすぐ出発してください。


 「車で来てない方はボランティアの車が出ますので、相乗りお願いします。」


 訳わからず慌ただしく、追い立てられたお客さんとボランティアの若者は、途中の距離をおいた道路で車を止めて、不安そうに獣人村を眺めています。


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 巡査1人はモニターを睨みながら電話を借りて、署長を呼び出しています。すぐ出た署長に例の人族の兵約100名が獣人村に、向かってきますと報告しています。署長はすぐ準備して向かうから無理するなと釘をさされました。

ヘルメットを被り警棒を押さえて皆んなの所に走りました。拳銃は事故が怖いので署に置きっ放しです。巡査は人族の兵隊が道の半分まで進んでいるとお父さんに報告しました。


 集会室の前に弓を持った獣人の戦士達が構えています。そこから200mほど離れた一本道の真ん中に、銀の胸当てをしたキリコさんと横には、いつもの格好のシンジ君が立っています。お父さん心配そうに2人を見ています。


 前々日キリコさんはお父さんやコロルさんその他主だった獣人達に、草なぎの剣の秘密を披露しました。シンジ君は4つの精霊に愛されたことを報告しました。お父さんはどれも◯◯神宮でヤマトタケルノミコトに授けられた話に度肝を抜きました。とても信じられなくてシンジ君が風の精霊の竜巻とか、光の精霊の目を開けれないほどの光量のレーザー放出を、夢を見ているようだと放心しています。


 キリコさんはもし人族の兵隊が現れたら、このような配置で迎え撃つと皆んなに説明を始めました。お父さんは目の前で、キリコさんとシンジ君の魔法を見てしまったのですから、何の力もない一般人が口出しは出来ないとキリコさんの要望に従うしかありません。


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 遠くの方から100人程の兵隊達がだるそうに歩いてきます。先頭の男は身長が2m近くあり頑丈そうな肉体をもった、青い目のふてぶてしい顔の男です。汚れた白銀の鎧を装備し1人だけ赤いマントを背中から垂らしています。


 「おまえ人族じゃないのか?何で下賎な狐と一緒おるのだ!」


 隊長らしき男はキリコとシンジを見て大きな声を出して威嚇しました。『こええー!』そこらへんのヤンキーどころじゃないぞ!シンジ君びびっています。


 「さっさっと道を開けろ!腹が減ってかなわんのだ!何か食うものがあるだろう!食うものをよこせ!」


 下品な奴だなーと『火の玉と水の玉どちらがいい?』シンジ君はやる気満々です!


 キリコさん右手に草なぎの剣が握られています。









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