第14話 狐族キリコさんの巫女舞(後編)

 車で混み合う◯◯神宮への道。


 「前の里の人族の王国よりも大きくて、トカゲが引っ張っていない爬虫車が凄いスピードで走っているこん!」


 キリコさんバスの窓に顔をつけて興奮して騒いでいます。他の獣人達は街のスケールの大きさに目を剥きながら放心状態です。


 バスガイドのおばさんは、獣人さん達の素朴な質問にキリキリ舞いしています。獣人さんの大人達の精悍な顔つき、思わず抱きしめたくなる狐族の子供達、神秘的で美しい狐少女達、喋ってみて分かる純朴な性格。ガイドのおばさんは獣人皆んなの大ファンになりました。


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 前方にこんもり茂った森が現れました。街の一区画全てが森なんです。ようやく◯◯神宮に到着しました。ガイドさんを先頭に大きな鳥居の下に一行は揃い、神宮に入るための儀式の簡単なレクチャーを受け、頭を二度下げ鳥居の隅を抜けていきます。参道の両脇には樹齢1000年の楠があったり、沢山の木々が生い茂って神秘的なのです。


 大きな精霊魂がキリコさんに纏わりついて来ます。参道を歩く参拝者は皆と同じラフな服装ですけど、狐顔の獣人が大きな尻尾を棚引かせて歩いている姿をみて『神様の使いが歩いている!』『狐の嫁入りみたい!』狐少女達一行がしずしず歩いている姿に、参拝の日本人達の中には一緒に後ろをついてくる人達もいます。


 本宮前の鳥居の横には宮司さん事務部長さんを始め大勢のねぎ、ミコ(神宮で働く職員の男女の事)が待っていてくれました。


 宮司さんが長時間の車での移動の労をねぎらい、本宮の社殿に案内していただき、奥にある拝殿に通され神様への報告が行われました。


 宮司の祝詞を聞きながらキリコさんは、元の里の人族が崇める煌びやかな教会とは真逆の、日本の神様の住む神秘的でシンプルな空間に、心が癒されるのでした。


 事務部長の案内で別の建物に案内され、一行は食堂に入りました。食堂のおばちゃんとねぎ、ミコが拍手をしてもてなしてくれました。


 キリコ姉さんに付いてきた弟のキリ君は『味噌カツ定食』を、銀狐のお姉ちゃんに付いてきた友達の狐少年は『アジフライ定食』をばくばく食べています。


 「美味しい美味しい。」


 平らげたキリ君の真っ白な毛並みの口周りが味噌だらけです。キリコ姉さんに掴まれ顔を拭かれて恥ずしがるキリ君でした。ねぎやミコの男女は狐族にぴったり付いてにこにことお世話をするのでした。


 6人の狐少女達はミコ達に手伝ってもらい巫女舞の衣装を着つけてもらいました。本宮の横にある祈祷殿では雅楽の前奏が始まりました。彼女らの袴のお尻の部分はスリットが入れられ、尻尾が出せるようにしてあります。6人の少女達の巫女舞の衣装は、おきつね様の巫女舞衣装として大事に保管されます。


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 参拝者達は雅楽の調べに何が始まるかと集まり始めました。雅楽が盛り上がった頃キリコさんと銀狐の少女が、奥から現れ二人で華麗な『倭舞』を舞うのです!


 二人ともキラキラ輝く髪飾りを正面につけ、髪の毛は後ろに束ねられ手には榊を持っています。白衣と緋袴に千早を着用して、お尻からフワッとした大きな尻尾が出ています。狐顔のキリコさん達が着るともう誰もが想像する神の使いのおきつね様なのです。


 完璧なシンクロの二人の舞いに、雅楽の人たちも少数の参拝者達も目を見張るのでした。事務部長さんが用意したプロ映像カメラマン2人も、狐の少女達の巫女舞に


 「本物の神の使いだ!こんな経験滅多にないぞ!」


 真剣に撮影するのでした。後に神宮のサイトに載せられた狐様の巫女舞は、数多く転載され「アメージング!」の言葉と共に数多くのPV数を稼ぐのでした。


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 続いて次の雅楽が始まると4人の狐の少女が、キリコさん達の後ろに着きました。


 演目「浦安の舞 神楽舞 豊年の舞」と続けて舞うのです。壮麗な巫女舞に心を持っていかれます!


 キリコさんと少女達は、日本の神様の前で舞っている現実に嬉しくなるのです。皆んなの心が一つになり祈祷殿全体が光り輝いた時、キリコさんは心の中に誰かの声を聞いたのです。


 『ほほほっほー。』その声はキリコさんしか聞こえず、また踊りが疎かになることも無く自然にキリコさんの頭にしみ込んできます。「だっ誰こん?」心の中でキリコさんは聞きます。


 『うーん儂はここに大昔から住むヤマトタケルという者じゃて。お主達はこの世界の住人では無いのじゃろ?』


 『はい遠くにある山の奥にある、洞窟を通って来ましたこん。』キリコさんは踊りながら心の中で答えます。


 『ほおーどおりでこの世界の人間達とは違う波長を出しているのう。』

『今日のお主達の巫女舞は、儂の心に沁みこんだぞ! それでだなーお主にお礼の品を進ぜよう。この品は儂と精霊神が何百年もかけて作った物じゃて。』


 『草なぎの剣て言うてな儂がまだ子供のころ“ヤマタノオロチ”と言う怪物を退治した“スサノオノミコト”が使った太刀のことなんだわ。』


 『もっとも本物は壇ノ浦に沈めてしまい行方不明なんじゃ。まーその剣の複製品て言う物なんじゃが、本物よりも力は上じゃよ。』


 『そんな大切なものを子供みたいな私が、頂いてよろしいのでしょうかこん?』


 『なーに渡したいと思った人間は、千年待ったが現れんかったからのう。』


 『細い糸状にしてお主の尻尾に紛れ込ませておいたぞ。然るべき時に自然にお主の利き手に現れるだろう。』


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 実はもう一人キリコさんと話しをしている声が聞こえた人がいます。キリコさんかっこいいと表で見ていた、元ひきこもりで今は魔法使いのシンジ君です。


 『あわわわわ・・・・・ヤマトタケルノミコト、草なぎの剣。』とんでもない名前が出て、シンジ君心臓がアップアップです。


 いつしか精霊魂に囲まれたシンジ君、キリコさんと話をしていた同じ声が頭に響きます!『うんお主は日本人だな?』その問いに直立不動で心の中で答えます。


 『はっはい山田シンジ27歳ただの日本人です。』


 『ふーむおかしいのう儂の声が聞こえるなんて、おっ、お主精霊の加護持ちだな?それも仲の悪い火の精霊と水の精霊ではないか?』


 ヤマトタケルはシンジの体にいる精霊に何か聞いています。


 『ふんふん言いながら、珍しいのう?どうやらこの若者の体は精霊にとって、居心地のいい場所みたいだな。』


 『シンジとやらお主は狐少女キリコの従属か?』


 『はっはいキリコさんは精霊の扱い方の先生です。』


 ヤマトタケルは『よしお主に精霊の加護をあと二つ付けよう』そう言うと右足と左足が光りました!『右足には風の精霊を、左足には光の精霊の加護を付けたぞ。』


 『精々狐少女キリコの補佐をやるように!』それだけ言うとヤマトタケルは大物の精霊魂達と一緒に消えました。


 偶然参拝者の人達は見事な巫女舞を観れたことを喜び、宮司や事務部長さんや雅楽奏者達はこの世の世界とは思えない出来事に呆然としています。


 無事巫女舞が最後まで納得の踊りだった狐少女たち、控え室に帰り次第皆んなで固まって「こーんこーん!、こんこん!」と感激の涙を流しています。


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 自分の空想したことが現実になり赤い目をした事務部長さん、食堂に白い布が被されたテーブルに木の蓋が被った、櫃まぶしの大きなお椀が並んでいます。うなぎが口に合わない人のために、大皿に乗ったサンドイッチが並んでいます。


 ビールとジュースで乾杯しました。キリ君と銀狐の友達はまた、ばくばく食べています。


 「櫃まぶして魚やろ、全然想像していた味と違うぞこん!このタレが脂の乗ったうなぎの身によく合うわ!」


 櫃まぶしのうまさに獣人たち感激しています。お父さんはこんな高級なうなぎまで用意して、事務部長さん本当に狐少女に巫女舞させたかったんだろうな。うまくいってよかった。


 夕方みんなを乗せた大型バスは、宮司さん事務部長やねぎやミコ達に見送られ◯鹿村に向かって◯◯神宮を後にしました。


 シンジ君キリコさんにヤマトタケルの話がしたいのですが、巫女舞で疲れているだろうと明日話そうと思いました。お父さんはバスの前の方でガイドのおばさんと、運転手さんを含めて仲良く喋っています。


 お腹一杯のキリ君と銀狐の友達は一緒にスーコン、スーコンと寝ています。僕はコロルさんの娘のベルちゃんと一緒に夢をみています。


 キリコさんはその後“草薙神剣キリコ”シンジ君はその後、魔法使いシンジから“大賢者シンジ”と呼ばれるようになったのです。


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 一方赤鹿村の事務所の中で今日は待機している巡査、防犯カメラの映像をチェックしています。高身長でスッキリ顔の巡査を、隣の席で赤い顔で見ているのはアケミさんです。アケミさんは浮気性ですね。




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