第12話 狐族キリコさんの巫女舞(前編)

 赤鹿村は今日も穏やかな時間が流れています。あの日から一ヶ月程経ちました。怒涛の忙しさから、ようやく解放されたお父さん一気に老けました。


 集会場の横に新しく作った素朴な喫茶店で、コロルさんと娘のベルちゃんとお父さんと僕と柴犬のジローは、腰かけてコーヒーやジュースを飲んでマッタリしています。柴犬ジローはこの獣人村では名誉獣人扱いです。


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 まだ午前中ですが県内の日本人はもちろん夜通し車でやってきた、他府県からのモフモフ好きな人で賑わっています。カウンターでは犬族の青年が紺色のエプロンをして、おじいちやん直伝のコーヒーを煎れています。同じく紺色のエプロンをした兎族のお姉さん、相変わらずキレキレの動きで接客に励んでいます。


 追い出されてしまった例のyoutuberの外国人夫婦、今日は獣人の皆んなが優しく、接してくれるので感激しています。日本語でウェイトレスの猫族のお姉さんと話が弾んでいます。


 『日本が好きで日本語を覚えて良かった!海外の皆んなに胸を張って、今日の出来事を配信できる。』自撮り棒を屈指して獣人のお姉さんを、撮影しているのです。


 ひときわ騒がしいグループがいます。某大陸からの人達はどこにも現れます。獣人達のウェイトレスをペット扱いしてからかっています。


 そのうちの一人の青年が、ウェイトレスをしている猫族のお姉さんの尻を撫ぜた瞬間、その青年のほっぺから血がぼたぼた落ちてきました。誰もその瞬間は見えませんでした。スローモードで見る事が出来たなら、お姉さんの手の指から鋭い爪が飛び出し、その青年のほっぺを撫ぜていたのが、見えたかも知れません!


 青年は自分でほっぺを抑えて唖然としています。目撃した周りにいた男性のお客さんは、全員一斉に手をテーブル下に潜り込ませたのです。訳がわからんと戸惑っている顔が血だらけの青年を、連れ出し某大陸のグループは出て行きました。


 出て行ったグループを確認して、お客の皆んなは喋りはじめました。『すげー見えなかった!居合切りの名人より、早いんじゃないか?』衝撃の光景に皆んな段々興奮してきました。


 当の猫族のウェイトレスいつもと変わらず、「にゃんにゃん。」と言いながら、各テーブルを回って楽しそうにお客さんと短い会話を楽しんでいます。


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 ある日名◯屋の熱◯区にある大きな神宮の事務部長さんが、き◯め餅のお土産を大量に持ってきてコロルさんとお父さんい会いに来ました。


 お父さんは狐族の主だった獣人達と、キリコさんを含めた狐族の少女達をTVの前に集めました。事務部長さんは録画してあるDVDを準備して話し始めました。


 「私どもの神宮でめでたく挙式を行う若いカップルの方が。打ち合わせに訪れてきました。実は新婦さんが、この村のボランティア経験者なのです。」


 彼女が言いますのには『巫女舞を獣人村にいる狐族の綺麗な少女が舞ったら、すごくかっこいいだろうなー。と雑談中に話したのです。』


 「私はおきつね様は神様の使いですし、前から獣人さん達の話は知っていましたので、一度ここに伺ってみたいと思っていました。私どもの神宮がどんなところなのか、持ってきた録画を見てください。」


 事務部長さんは再生のボタンを押しました。


 鬱蒼とした森の中に荘厳な建物が、少し見える鳥瞰映像から始まりました。キリコさんと弟のキリ君はシンジ君のPCで慣れていますが、初めて見るTVの映像に狐族の人たちは、仰天して精霊の魔術なのか?後ろを覗き込む子供やら、暫く喧騒が絶えませんでした。


 お父さんがこれはテレビと言って、外や中の世界を撮影して後で映すただの道具に過ぎません。日本国には大きさは違いますが一人一台は持っています。お父さんいつも当たり前の様に観ている、テレビの説明をどうしたらいいのか分かりません。


 ようやく落ち着いた皆さん、独特の神社の建物に皆んな興味深々です。参拝する人族と比べてとても大きいことに、びっくりしています。まして全部木材で出来た堂々とした外観に、元の里の家々に比べるにしてはレベルが違いすぎます。


「この建物は日本の大昔から奉っている、神様が宿る場所として特別な建物なのです。」


 事務部長は映像を見ながら淡々と説明していきます。本宮の隣にある結婚式の会場が映りました。


 独特の衣装を纏った神主や巫女達、雅楽の遥か昔から伝わる日本独特の旋律に乗り、2人の巫女舞の若い女性がキラキラ輝く髪飾りをして、グリーンの透けた上着に朱色の袴で、姿勢正しくしずしず進んできます。


 華麗な舞と言うより神事其の物です!狐族の少女達は、唖然と食いいる様に見ています。1人の狐少女がTVをチラチラ見ながら、姿勢正しく全く同じに舞始めたのです。少女達全員が同じ動作で踊り始めました。もちろんキリコさんが、舞の真ん中にいます。


 事務部長はこの子達の才能に驚愕しています。その後の神に捧げる奉納の各種舞も、一目見て見事に完コピしたのです。もっとも小さな弟や妹の狐族の子供達は、一生懸命姉さんと一緒に舞おうとしますがすぐこけてしまいます。


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 事務部長は空想しています。大勢のお参りにきた人達の、目の前にある舞台上で、神の使いである狐少女達が舞う姿を!


 白や銀やそれこそきつね色の毛色の狐少女が舞うのです!


 事務部長は完全にその光景に酔っています。コロルさんとお父さんに、是非何人か巫女舞をしてくれることを検討してくださいとお願いしました。


 舞台や雅楽や衣装も用意しますので、一度神宮を見学してください。もちろん大型バスを出しますし泊まれる宿もあります。何度も頭を下げた事務部長さん、獣人族の孤児達に見送られて、赤鹿村を後にするのです。


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 キリコさんは日本国の神が宿る神宮で、神様に奉納の舞を踊るなんて素敵だなと憧れました。





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