第9話 シンジ君あんたは只者ではなかった

 シンジ君はまだ何かが体の中に、残っているような感触に、キリコさんに相談したのです。キリコさんはまさかと思いながら、これから言われたイメージを左手に出してみてと言いいました。


 土、風、光、氷、植物、動物、魔物どうも違うみたいです。キリコはもしかしたらと『火』と唱えました。


 突然シンジの左手から、火炎放射器の倍以上の炎が空高く『ぐおおおー!』という凄まじい音と共に、空を焦がしているのです!シンジの周りにいた獣人やボランティアの人達は、今度は『ぎゃあああー!』という声を上げて四方に逃げ出したのです!


 「そんなバカなこん!水の精霊と火の精霊は仲が悪く、一人の精霊使いに付くはずがないこん!」


 キリコは精霊界の常識が通用しない、シンジ君に驚愕しているのです。


 「熱い熱い!」


 シンジ君は左手を高く上げて、どうにかしてくださいという顔を、キリコに向けるんでした。やれやれという顔をしてシンジの左手の前腕を掴み、もう一方の手で血流を止めるようにして、『もう止めていいよと精霊にお願いしなさいこん。』とシンジ君に言いました。


 じき炎は弱くなりポンという音を最後に、完全に鎮火したのです。シンジ君はその場に昏倒して息を荒げています。


 昏倒しているシンジ君んの周りを皆んなが囲んでいます。コロルさんやお父さん達にキリコさんは話しています。


 「前の里や国にも2つの精霊に愛された獣人や人は、いなかったこん。」


 「神話の世界には4っの精霊に愛された、大賢者という人族がいたという神話が残っていますが、その水や土や風や氷の精霊に愛された大賢者さえ、水の精霊と仲の悪い火の精霊は愛してくれなかったそうですこん。」


 コロルさんはキリコさんと弟のキリ君に『シンジ君に精霊のご加護の、制御の仕方を教えてくれないかわん。』と頼みました。キリコさんとキリ君は、シンジ君は興味ある精霊使いの初心者ですので、喜んで引き受けました。


 シンジ君は疲れはてたのか起きられず、ガアーガーとイビキを上げながら、死人みたいに戸板に乗せられ、いつもの泊まり込みの家に運びこまれたのです。


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 いつものボランティアのメンバーが、1日の仕事を終えて寝場所にしている畳の間に入ってきました。そこでは丸半日寝ずっぱりのシンジ君が、まだイビキをかいています。


 誰もいつものように枕を顔には載せません。皆んな今日見た出来事を話しています。このぷっくらしたほっぺのシンジ君が魔法使いとは?それも殺人的に強力な、火と水の精霊使いなんて?これからシンジにどう対応したらいいのか?シーンと皆んな黙っています。


 普段無口なメンバーが口を開きました。『ある日何気に新聞やネットニュースを見るじゃん、そこにこんなタイトルが出ているんだ。白昼オフィス街で水死?』皆んなドキ!とします。


 「次の日のニュースには白昼横断歩道で焼死? 俺、もしこんなニュースが出たらシンジ君を疑うね。でも世間や警察は誰もシンジ君が、魔法で人を殺したなんて疑うわけがない!万一シンジ君が捕まって、裁判で被告シンジは魔法で人を殺したのです。と検事が述べても、どうやって魔法で人を殺すのか証明できる警察も検事も、この世界にはいる訳がない!」


皆んなうんうんと頷いています。


 誰かが『あり得るよなシンジ君は、学校や職場でいじめられて引きこもりになったんだろう?』俺だったら復讐に、絶対捕まらない魔法を使ってしまうかも?


 皆んな顔色が悪いです。一人の若者が『大丈夫俺たちはシンジ君と、今まで仲良くやってきたじゃん。いつもニコニコしているシンジ君を、いじめる奴がボランティアに来る訳ないじゃん。』


 とりあえず今まで通りシンジ君とは普通に接していこう。絶対容姿や行動に悪口を言わない、いくつかの覚えを皆んなで確認し合いました。


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 次の日ようやく体力の回復したシンジ君、なぜか体が軽いのです。今までのボヤーとした感覚や重たい体がスッキリして、生まれ変わったようです。キリコさんが言っていた余分な精霊魂が、抜けたのではないかとシンジ君は思いました。


 今日から隣の席にキリコさんの弟のキリ君が、サポート役で付いてくれます。シンジ君はPCなどの仕事をキリ君に教え、シンジ君はキリ君から、精霊のご加護の使い方と制御の仕方を学びます。


 キリ君はシンジ君が持ち込んだ私物のノートPCを借りて、ネットサーフィンなどしています。キリ君はこの国の人族の、あらゆる営みを知ろうとしています。


 時々アケミさんが訪れキリ君にローマ字入力とか、英語の読み方や意味をニコニコしながら教えています。真っ白な毛皮でクリッとした赤いルビー色の瞳で、アケミさんと話しているキリ君。まるでアニメの世界です。アケミさんは赤い顔で目がトローンとして、僕がいなければ絶対飛びかかっていたでしょうね。


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 時々キリ君の代わりにキリコさんと外で、精霊使いの制御の仕方を細かく教えてもらっています。今では小さなものから大きなものまで、火の玉でも水の玉でも目の先に何時間でも、ゆらゆらと空中に留めて置けます。


 とにかくキリコさんはかっこいいんです!精霊使いを実践するとフワーと白い毛がたなびき、太くて白いしっぽがバランスを取るために優雅に動き、最後の決めポーズにキリ君と一緒の赤いルビー色の瞳がキラッと輝くのです。


 キリコさんに習って呪文を唱えずに水でも火でも、精霊使いが出来る様になりました。これが出来るのはキリコさんと、元の里にいる人族の魔導師と言われている、最高幹部位しかいないそうです。


 なぜそんな難しいことが新人の僕にできるのか、キリコさんは不思議な顔をしています。シンジ君はため池の真ん中めがけて、両手を出し水の精霊と火の精霊両方の精霊使いを操っています!


 水の精霊に願い大量の水を飛ばして、火の精霊に願いその放出している水に火の塊をぶつけるのです!『バシッバシッ!』と大きな音が出て、大量の水蒸気が発生して辺り一面濃い霧が発生しています。シンジ君は水の精霊、火の精霊の両方のご加護があるのが僕一人だけなら、誰にもできない必殺の技ができないかと工夫しているのです。


 コロルさんの人族による蹂躙された里の話を思い出して、このまま平和が続くとは思えない、もし獣人族や皆んなに危険が及ぶなら、精霊の加護のある僕は率先して皆んなを守らなくてはと、最近冴え渡ってきた頭に元ひきこもりのシンジ君は誓うのです。



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