第8話 畑の耕作て魔法でするもんですか?
今日は放置してあった元畑のあった場所に手が空いている獣人、村民、ボランティアが約600人程集まっています。お父さんは拡声器を使って説明を始めました。お父さんは畑の再耕作の説明をしながら、昨日の光景を思い出していました。
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昨日コロルさんと畑の再生について相談していたのですが、約十年も放置してきた畑は土がカチカチに固まっていて、耕運機や重機で掘り返さないといけない等、コロルさんに話していましたが、
コロルさんは『私の元いた里では精霊の力を借りて、一瞬で耕してしまいますわん。』コロルさんの言葉にお父さんは???『なんですかそれは?』興味深々なお父さんは、コロルさんに実際やってもらうことにしました。
外に出たコロルさんと娘のベルちゃんが、空き地の前に立ちました。『私は土の精霊のご加護が少しありますわん。娘のベルは水の精霊のご加護がやはり少しありますわん。』
コロルさんは地面に手を置いて、何やら呪文のような言葉を呟き始めました。ポコポコと土が波打っているのです!唖然と見ているお父さんとおじいちゃんと僕とジロー。
波打っていた土達はやがて大きな塊同士が互いにぶつけられ合い、ザワザワと大きなうねりとなって混じり合っていきます。
『ふー疲れた。』と言ってコロルさんは尻餅を着いたのです。おじいちゃんは、コロルさんが耕した土を握りながら『出来てるずらー!コロルさん土が、出来ているなも!』破顔でコロルさんを見つめています。
ベルちゃんは右手を差し出して、やはり何かの呪文のような言葉を呟きはじめました。しばらくすると右手からふわふわと、白い水蒸気のようなものが、見えるようになりました。白いモヤモヤは少しづつ塊合い、小さな雲のようなものがぽっかりと、目の前に浮かんでいるのです。
ベルちゃんは右手をすーと前に出すと、その雲のようなフワフワは、ゆっくり進みコロル父さんの耕した地面の上に停止し、サワサワと雨のように水が、降り始めたのです。唖然と佇む僕らの横で『わんむふん!』と胸を張る、ベルちゃんでした。
「すごいすごい!コロルさんとベルちゃんは、魔法使いなんだ!」
僕の言葉にコロルさんは『いやーこれだけのスペースしか出来ないのです。向こうの里では精霊に愛された人と呼ばれる、特別強い能力の人が畑の開墾に従事していましたわん。』と雨が降っている2メートル四方の、耕された土の前で話してくれました。
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獣人、村民、ボランティアが約600人集まった再耕作の日。コロルさんは狐族の若い2人を招きました。キリコ姉さんと弟のキリ君です。獣人の間からは『おー。』という声があがりました。アケミさんはジーと弟のキリ君を、憧れの目で見つめています。
まず弟のキリ君が呪文を唱えつつ、両手を前に差し出しました。テニスコート8面ぐらいの広さの休耕作地が、一斉に波打ち始め硬くなった地面が、すごい速さでひび割れていきます。雑草と一緒に土同士が揉み合い絡まり合って、『ごっごっごー』と地鳴りを立てながら、攪拌しだしています!
キリ君は『この地の精霊は、何て荒ぶるのだこん!』キリコ姉さんに聞こえる様に訴え、汗を流しながら精霊の制御に必死です。ようやく土たちは大人しくなり、あたり一面に土の香りが立ち込めています。
次にキリコ姉さんは呪文の様なものは口にせず、左右に手を上げると、両手から昨日ベルちゃんがやった様に、水蒸気みたいなモヤモヤが湧き出してくるのです。ベルちゃんの何十倍もの量のモヤモヤが、すごいスピードで広がっていきます。そして小さな雷の様な光を伴って、台風の時の雨の様に猛烈な水が降り注いできたのです!
「本当だこん!この地の精霊は、前の里の何倍もの量があるのだこん!」
やはりキリコさんは、荒ぶる精霊の制御に苦労していました。皆んなの前にはよく耕された、肥沃な畑が広がっているのです。前の里での土と水の精霊の恵みを暫く見ていなかった獣人達は、自然に皆んな手を叩き合い、初めて魔法を見た村民やボランティアの若者達は、腰を抜かして手を叩いています。
「魔法だ!魔法だ!ボランティアの若者達は空想や小説漫画の世界でしかありえない事が、目の前で起きたことに興奮しまくりです!」
『来てよかった!生まれてよかった!魔法が観れてよかった皆んな心に思うのです。』
なぜか皆んなキリコさんやキリ君の真似をして、手を前にしてうんうん唸っています。獣人の子供や大人までうんうん唸っています。
「誰が精霊に愛されるかは分からないのですわん。清廉潔白な獣人でも選ばれるとは限られず、泥棒や殺し屋が選ばれる事もよくありますだわん。まず体の中に流れる精霊魂を、血液のように体全体に行き渡る様に精神を集中してくださいわん。そしてその精霊魂を指先に流す様にして、水とか土の塊をイメージして手のひらに浮かばす様に、精霊にお願いしてくださいだわん。」
コロルさんがお父さんからまた拡声器を借りて、精霊使いの仕方を享受し始めました。暫く『うんうんとか、にゃにゃーん』という声が聞こえてきましたが、獣人のあるグループの中からざわめきが上がりました。狐族の子供の手にソフトボール位の大きさの丸い水球が、空中に浮かんでいるのです。
クリーム色の毛並みをした狐族の子供は、真剣な顔で水球を前に飛ばしたのです。空中高く舞い上がった水球はフッと割れ、さーと水が落ちてきました。
さすが狐族だ!皆んな拍手を始めました。緊張して精霊使いを屈指していた子供は、ニッコリして周りからがしっがしっと頭を撫でられています。
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100人以上いる日本人の中からは、残念ながら精霊使いに選ばれた人は、どうやらいないみたいです。ところが精霊使いのキリコさんが、ある日本人に近づいて来ました。元引きこもりのちょっと小太りなシンジ君です。
うんうん唸っているシンジ君の横に立ったキリコさん、何やら声をかけています。シンジ君の周りの人はキリコさんが、シンジ君の横に立った瞬間さーと引き上げ、周りをたくさんの獣人と、村民とボランティアが見守っています。
キリコさんはシンジ君の背中を、丸く丸く撫でシンジ君の耳元に囁いています。『精霊魂の流れの悪い所を治したから、全身に精霊魂を流れさせるイメージをしながら、精霊にお願いしなさいこん。』シンジ君は戸惑いながらも、キリコさんに言われたとおりにイメージするのです。
突然シンジ君の足元から大量の光が溢れ、地中に吸い込まれていくのです。『痛い痛い足が痛痒い!』思わずシンジくんは叫びます!
倒れそうになるシンジくんを掴み、キリコさんは『大丈夫、大丈夫、余分な精霊魂が溢れているだけだこん。』と言って励ましています。必死なシンジ君は、右手に丸い水の塊をイメージしています。右手からふっと何かが抜けた様な感覚があり、シンジ君の右手の上にそこそこの大きさの、水玉が出来ていたのです!
「やった!」
シンジ君はおもわず、声を出したのです。皆んな『わーー!やったーできたー。』手を叩き出したのです。しかしシンジの出した水玉は止まることを知らずに、どんどんすごいスピードで大きくなってくるのです!
手を叩いていた皆んなは、わあーと言いながら四方に逃げ出したのです!
キリコさんは『大丈夫だこん。』と言いながらシンジにゆっくり、前に出すようにと指示を出しました。今では熱気球の倍ぐらいに育った水玉が、ゆっくり畑の真ん中にフワフワ浮いています。突然水玉は破裂して、畑の真ん中に落下した大量の水に凄い音と大穴を畑に開けたのです。
これ以来シンジ君は『魔法使いのシンジ』と皆んなから呼ばれるようになりました。
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