第3話 拡散されていくお父さんのメッセージ

 それはささやかなメッセージから始まりました。コロルさんと娘のベルちゃんと、お友達の猫族・狐族の子供たちが、おにぎりを持って立っている画像や動画がツイッターやインスタグラムに、お父さんのメッセージとともに投稿されたのです。


 「今、長野県赤鹿村に大変なことが起きています。500人程の獣人の方が山から下りてきたのです!彼らは日本語をしゃべります、山奥に住んでいた縄文人の末裔のサンカの子孫かもしれません。」


 「食料が足りません毛布が足りません医者がいません。皆さんこれからどうしょうかと、戸惑っている獣人の方たちを助けてください!」


 「私たち村人と共に獣人の保護をしてくれる、ボランティアを募集しています。」


 お父さんは元々hp作りや、広告デザインを生業としていたので、急遽赤鹿村の地図が載ったhpをcms形式で画像や動画を配置して、ネット上にアップしたのです。


 ただお父さんは投稿してから、不安な気持ちでいっぱいになりました。もしボランティアに悪人が紛れ込み、子供が誘拐されたらどうしょう?外国に連れ去られたら探しようがない。


 検問所や警備のことも、考えなくてはいけないな。やはりいずれ政府にお願いするしかないのかな。お父さんは眠れない夜を過ごしたのです。


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 名古屋に住む20代の引きこもり5年の山田シンジ君、いつものパソコンの掲示板のアニメネタで盛り上がっていましたが、誰かがupした一枚の画像に目が離せなくなりました。


 三次元の猫人犬人狐人兎人の子供が、おにぎりにぱくついています!上手く作った着ぐるみだなと感心していたんですが、画像の下にあるメッセージが気になり、赤鹿村のサイトを見てみました。


 CGにしては出来の良すぎる画像や、明らかに人間と骨格が違う小さな頭の猫族の子供が、おばあちゃんに「お腹いっぱいだにゃー」と、喋っている動画を見た瞬間!シンジ君の目からは、大量の涙が溢れてくるのです。


 シンジ君は引きこもりをやめる決心をしました。廊下を這いずって台所にいる母に、土下座をして「母さん今までごめん、俺どうしても行きたいところが出来たんだ!それで長野県に行くから、電車賃を貸してください。」


 シンジの母は5年ぶりに見る息子に涙だらけになりながら、タンスから10万円の金をシンジに渡したのです。


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 5年ぶりの街の喧騒に目眩が治りません、でも『生きていてよかった、絶対あのモフモフの皆んなの手助けをするんだ!』と心に誓ったシンジ君でした。


 ふーふー言いながらもJR長野駅に着き、ここからは私鉄に乗り換えて赤鹿村には、バスと徒歩の行程があります。


 その前にシンジ君は駅前のデパートに寄り、登山用品コーナーで大きなリュックを購入して、地下の食品売り場で運べるだけの食料を調達したのです。


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 私鉄に乗り込みホッとして周りを見渡したら、沢山の荷物を持った僕とよく似た、雰囲気の人たちでいっぱいでした。


 「あなたもボランティアに、赤鹿村に行くんですか?」声をかけてくれた人がいました。他人と話すのは5年ぶりでしたので、うまく言葉が出てきません。はいと相槌をうつしかありませんでした。


 周りでは獣人達の話題でそれぞれ自分の考えを述べたり、猫がいいだのやっぱりうさ耳だよーと、ワイワイがやがやと騒々しい状態でした。


 獣人のことを知らない人たちは好奇心にかられて、ボランティラ希望の人たちに聞いています。赤鹿村でそんな事が起きているんだと驚いて、スマホに検索をかけています。


 バスから降りた十数人のボランティア希望の男女は、大きな荷物を背負い皆んなふーふー言いながら、赤鹿村の山を目標に歩いて向かうのでした。


 途中の空き地に何台かの他府県ナンバーの車が駐車していて、色とりどりのテントが立ち並んでいます。


 シンジ君は途中仲のよくなった大学生のアケミさんと、おしゃべりしながらやはりふーふー言っています。女の子とこんなに喋った事なんて、人生初めての経験でした。やっと◯鹿村の入り口につきました。


 小さな机におじさんと犬!・・・・・犬顔の人のような人?・・・ニコニコ笑って座っているのです。





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