赤井 龍一
幕間~組織~
閑散とした早朝に、豪勢な高級マンションの一階、エントランスで柱を背に手にしてる銀偸製の『M1911』を眺め、彼女が来るのを待っていた。
「ごめんなさ~い~お待たせ~~ふ~」
短い黒髪と前髪を揺らしながらマンションのエントランス、大理石をコツコツと踏み鳴らして来た雪子に銃口を向けた。
「おせぇぞ雪子」
「うぅ……銃を向けないでください! それに
自分のした事を棚上げした発言を突かれ、笑いを堪えながら銃を上着の下に着たショルダーホルスターに仕舞った。
「バーカ、大変なのは雪子だけじゃねぇんだよ。俺だって“
背にしていた柱を蹴り、一ノ瀬耳許に手を伸ばすと一瞬怯んだ一ノ瀬の右耳に掛かったワイヤレスイヤホンに指をかける。
「わりぃなオフレコだ」
「う、うん……」
恥ずかしそうに顔を赤らめた一ノ瀬の耳触れると指先の冷たさ反して暖かく、少し震えた一ノ瀬のイヤホンをオフにする。
「今日雪子が行くのは羽咋高校だったな」
「うん! 養護施設出てから初めての高校生活~~感動だよ~♪」
相変わらず能天気に喜ぶ一ノ瀬の肩を掴み、無理矢理顔を向けさせると一瞬赤くした頬を隠すように鞄を眼前に構えた。
「そ、そこでだ……昨日のアイツ、覚えてるよな?」
「うぅ?アイツ?」
「ホラ! 薬飲ませた男!」
「そう言えば報告するなって言ってた子だよね? 大丈夫だよ! 報告してないよ」
一ノ瀬がふるふると顔を振って否定した。
「助かるぜ。その目撃者を見張ってて欲しいんだわ。雪子の部下に狙わせねぇようにな」
“組織”の精鋭部隊、武装部隊に位置する正式名、第十四番特殊分隊の隊長である雪子は俺の部下に当たるわけで便宜上は命令だな。
「でも四六時中っていう訳にはいかないよ?」
鞄を下ろした雪子はさりげなく俺の手を払い除けた。
「勿論だ。仕事は普段通りで良いから、出来るだけ監視してくれ。恐らく俺たちの事は覚えてねぇだろうから情報を漏らす心配もねぇよ」
「むぅ~ぅ……わかった。頑張るね」
握り拳で気合いを入れた様子の雪子に最後、昨日ニット帽を被った男のポケットから出てきたメッキの“金バッジ”を指先構え雪子に声を掛けた。
「おい雪子!」
一メートルと離れていない距離から雪子の額に目掛けて“金バッジ”を指で弾く。
雪子の目が刃の様に鋭く、冷たく光と、直線で飛んできた“金バッジ”を反射的に掴み、投げられた物を見るといつものように目を丸くしていた。
「うぅ? なにこれ?」
「『
雪子が俺の話を聞きながら“金バッジ”を眺めてもう一度呟いた。
「なんだろこれ?」
「お、おい、聞いてなかったのか? 代紋だよ!」
「……何に使うの?」
流石に知らないとは思っていなかったが、ため息が出た。教えてやる事も出来たが、面倒なので“金バッジ”について説明はしなかった。
「ジュンに聞けば解るさ。じゃあ俺はそろそろ行くわ……」
「う、うん……」
雪子を残して事後処理の為にエントランスを出て再び灰色の空の元に顔を出す。
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