第2話 小さな願い

「口に合わないかな・・・・・・」

食事があまり進んでいない僕に対して、レックスが僕に向かって問いかける。

「そんなことないよっ・・・・・・」

違うんだ・・・・・・ずっと”料理”を食べなかったから味がわからないんだよ・・・・・・。

茶色いスープを飲んでも温度しかわからない。

「・・・・・・、おいしいです」

わからないけど、きっとおいしいものだから。

「そっか、宿の食堂終わっちゃったから、うちの部下に作らせた大した事の無い料理だけど、喜んでくれたならよかった。」

レックスは安心した顔で僕を見た。

大丈夫、怖くない。

レックスがこうやって僕を見守ってくれてるだけで、幸せだから。

・・・・・・魔界での訓練で失った物の多さを感じるな。

昔はちゃんと食べてたけど・・・・・・、魔力の入った水だけでずっと生きてきたから、もう僕はほとんど味覚がなくなってしまったんだな。

もうお母さんの料理の味も思い出せないよ。

・・・・・・、だめだよ、味がわからない。

その時扉が勢いよく開いた。

「団長っ!」

騎士団員の姿だった。

声的に僕の事を見つけた人と同じ人だろう。

「えっと、みんなが起きるから静かにね?」

強くは言わないがレックスは少し迷惑そうにしていた。

「あのっすみません!たくさん作ったので夜食がてら食べようとしたんですけど・・・・・、塩じゃなくて砂糖入れてました!」

「オニオンスープで砂糖って・・・・・・、・・・・・・・まずっ!!」

レックスは試しにスープを飲んだらせき込んでしまった。

「えっと・・・・・・気を使ってくれたんだ?」

レックスが少し不思議そうに僕を見つめた。

「えっはい・・・・・!、えっと、でも作ってくれたものなのでおいしいですよ」

僕がスープに手をつけようとすると、レックスは止めに入った。

「さすがに無理しなくても・・・・・・、料理上手いって聞いたから頼んだのに・・・・・もう深夜だし、一旦レーションでいいかな?あんまりおいしい方ではないけど、これよりマシだろうし」

レックスはバックから食べかけのレーションを出した。

太めのバーになっている。

レックスはかじられた部分を折って、口のついてない部分を僕に渡した。

別に気にしなくていいのに・・・・・・。

レックスはかじりかけのレーションを口に入れた。

「うーんまぁ、そこそこおいしい?」

・・・・・・レックスがいつも食べてる味。

レーションを口に入れて、味わおうとする。

・・・・・・。

「おいしい・・・・・・です」

だめだよ、こんなっ・・・・・・せっかくなのに。

「ラック?ごめん、変なもの入ってた!?」

違うんだ、レックス・・・・・・。

レックスが食べている物の味が分からないのが、悔しいんだよ・・・・・・。

「ごめんなさい・・・・・・」

泣きながら、食べてるのに涙の味すらわからないんだよ。

どうなってるのか、掴めもしない。

「えっと、おいしいものならきっと明日・・・・・・用意できるから!」

・・・・・・これ以上レックスに迷惑かけれない。

「食べ物は・・・・・・いいです、なんでも、食べ物ですらなくても栄養が補給できるなら」

「えっ・・・・・・?」

レックスはきょとんとしていた。

「味わからないから」

ごめんなさいごめんなさい・・・・・・。

レックスが悲しそうな顔になっていく。

騙してたことばれたよね。

やっぱり言うんじゃなかった。

・・・・・・、僕が我慢すればよかっただけなのに。

ただ、嘘をつくのが辛いからって・・・・・・。

「ごめん、知らなかったんだ、でも勇気出して言ってくれたんだね」

レックスは優しい顔になったけど、やっぱりどこか悲しそうで。

「あのっ、でも嬉しかったから・・・・・・」

レックスに悲しい思いさせるつもりはなかったのに・・・・・。

だめだ、やっぱり違いが多すぎるよ。

僕は、魔族だし、料理の味もわからないし。

なのに・・・・・・同じじゃなかったらいいって思うところだけ似てる。

もし、女の子だったらもっと可愛がってくれたのかな。

女の子だったら、レックスに甘えても変に思われないし・・・・・・。

それに・・・・・・女の子だったらレックスの・・・・・・。

レックスが泣いてばかりいる僕を見て、嫌になってたら・・・・・。

「大丈夫、ラックが心配することなんてなにもないよ」

レックスは僕の頭を撫でながら言った。

嬉しい・・・・・・それにとっても落ち着く。

でもすぐに、レックスの手が離れていく。

レックスから離れるとすごく寂しくて心細くなる。

世界で僕が頼れて、心を開けるのはレックスしかいない。

「さて、もう遅いから僕は寝るね、そっちのベッドで寝ていいよ、僕は寝袋でも十分だし」

レックス、気付いてよ。

「・・・・・・怖いから、そばに居て欲しい」

勇気を出して僕は小声で言った。

レックスは僕を見て、優しく微笑んだ。

「案外、甘えたいお年頃なのかな?」

恥ずかしい・・・・・・。

「ほらっ、僕は裏切り者だし、人間も怖いから」

十分な言い訳・・・・・・だよね?

「ふふ、わかったよ」

レックスが子供を見るような目で僕を見る。

でも、それも全然嫌じゃなくて・・・・・・。

むしろ、レックスにはそう思われたいっていうか。

そのほうが、甘えやすいから・・・・・・。

「じゃあ、おいで」

レックスはベッドで横になりながら、僕を呼んだ。

・・・・・・、嬉しい。

こんな幸せなことないよ。

ああ、温かい。

「ここまで近くないと心配なのかな?」

せっかくだからって近づきすぎたかな・・・・・・。

レックスの声近くてドキドキする。

もう言い訳しなくていいかな。

「いじわるしないで・・・・・・」

「ごめんごめん、じゃあこうすれば怖くないかな?」

そう言って、レックスは、僕を抱きしめてくれた。

嬉しい・・・・・・、やっぱり僕はレックスが大好きだよ。

拾ってくれてありがとう。

「レックス・・・・・・様。」

「えっ?」

もうこの人のモノになりたい。

この人にずっとこうされていたい。

・・・・・・ちゃんと寝たのは随分前だったな。

僕が人間に抱きしめられて、安心しきってるなんて思わなかった。

むしろ・・・・・・この人にだったら騙されてもいい。

僕に希望をくれたから。

温かい、寝ちゃうのがもったいないくらい。

「・・・・・・、ぐう」

あれ、先にレックスが寝ちゃった?

・・・・・・、じゃあ僕もそろそろ寝ようかな。


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