僕にはきっと手が届かない

ウィック

第1話 温かさ

燃えていく故郷を今でも思い出す。

人間との戦争によって僕は家族を失った。

だから、僕はその日から復讐を決めたんだ。

人間にも同じ苦しみを与えてやる・・・・・・って。

僕はあまり才能がなかった、だけども死ぬほど努力をした。

そしてついに、今日人間の騎士団長を殺す任務をもらった。

この任務が成功すれば更にいい装備、そして部下・・・・・・、人間への復讐が捗るというものだ。

僕の家族が苦しみながら伸ばした手がいまでも忘れられない。

僕はあの時助けられなかったから、ただ逃げた。

騎士団長の滞在している宿屋は目の前だ・・・・・・。

「おい何をしてる」

「ひっ・・・・・・」

誰かの声!?

どっどうしよう。

「お前・・・・・・魔族か!?」

目の前には騎士の姿。

多分下っ端だろうけど・・・・・・。

咄嗟に剣を抜いたけど手が震えて止まらなかった。

「やはり刺客かなにかだな!」

ガチャッ、ドアの開く音が聞こえる。

ドアにつけたベルの音がなり、出てきたのは黄緑色の髪の青年だった。

「煩いよ、って・・・・・・何?」

セーターを着ているが、帯刀している。

「団長!?すみません・・・・・・」

怖い・・・・・・。

だめだ、こんなことじゃ、僕が地獄のような訓練で過ごした時間は・・・・・・。

「・・・・・・、刺客っていうか、こんな子供になにやらせてんだが」

気がつくと僕の剣はどこかに消えていた。

「ふぇ・・・・・?」

「だめだぞ~、こんな危険な物持っちゃ」

僕の頭を軽く青年は撫でてきた。

「・・・・・・ごめんなさい」

自分でもどうしてこんな言葉出てくるのかわからない。

「・・・・・・、まぁ放っておくわけにもいかないからちょっと部屋に連れて行くね」

思っていたのと違う・・・・・・。

優しい・・・・・・?

違う、馬鹿にされてるだけだ。

・・・・・・・、撫でられたこと・・・・・・ずっと頭から離れない。

少しだけ・・・・・・少しだけなら人間を知るチャンスにもなるから・・・・・・。

それに油断しているんだから、その隙に殺しちゃえばいいんだ。

「え~と、暗殺者・・・・・・の類かな」

青年は困ったものだな~といったような顔で苦笑いをしていた。

「・・・・・・、えっとその」

「本当の事言ってごらん、何もしないからさ」

青年は優しく僕の事を見つめてきた。

ずっとそんな風に見られると・・・・・・どうしていいのかわからない。

本当の事を言おうか、それとも・・・・・・もっと油断させるような理由・・・・・・。

「えっと、そうです・・・・・・」

「そっかー、まぁ普通だったら処刑か、捕まるかだけど・・・・・・」

処刑・・・・・・!

嫌だ・・・・・・死にたくない。

「お願いします・・・・・・!それだけは・・・・・・」

「まぁそうだよね、だから一応なかったことにはしようと思ってる、だけど君をそのまま魔界に帰すことはできない」

帰すことはできない・・・・・・?

「だから、しばらく僕と一緒にいないか?、きっと人間が悪いだけじゃないって思えるはずだし、魔界に居てこんな危険な事やらされるより、人間と一緒に居たほうが安全だよ」

・・・・・・人間。

両親を殺した・・・・・・友達も・・・・・・。

その瞬間、敵意の眼差しを僕は青年に向けずに居られなかった。

僕は今何をしてるんだ・・・・・・、怖かったからって人間にされるがままなんて・・・・・・。

「何かあったのかな・・・・・・、僕でよかったら話を聞くけど・・・・・・」

「僕の家族・・・・・・人間に殺されたんだ・・・・・・だから人間となんて暮らせない!」

泣きそうになりながら敵意の視線を向ける。

青年は少し悲しそうな顔をした。

「そうだね、きっとそれは本当に人間がやったことだと思う、・・・・・・ごめんね、そっちの気持ちも考えるべきだったね」

どうしてこの人は僕にこんなに関わろうとするんだろう。

僕の事・・・・・・助けようとしてくれてるのかな?

僕は何を考えてるんだよ、助けて欲しいなんて思ってない!

なんで人間なんかに優しくされないといけないんだ。

でも、魔界では全然みんな優しくしてくれなくて・・・・・・。

落ちこぼれの僕には、同郷の友達すら居なくて・・・・・・。

人間に優しくされて・・・・・・こんな気持ちに。

「どうして・・・・・・みんな・・・・・・」

急に僕は泣き出してしまって止まらなくて。

「なんで・・・・・・人間なんだよ・・・・・・」

もっと優しくされたかった。

魔界でそうされてたらよかったのに・・・・・・どうして。

「ごめん・・・・・・悲しい気持ちさせる気はなかったんだ」

青年は戸惑った表情で泣き出した僕を見た。


・・・・・・ほしい。

・・・・・・また、あの時みたいに撫でて欲しい。

どうして・・・・・・だから泣いてるの?

優しくされたいから?

「・・・・・・わかんないよ」

もうここがどこなのかもわからない程に、僕は泣き崩れていた。

ずっと我慢してきた、何年も、厳しい訓練と・・・・・・罵声を浴びせられながら・・・・・・。

友達だってできなかった。

「大丈夫だから、僕に任せてもらえないかな、君の事」

そっと抱き締められた僕は・・・・・・。

この人に任せたい・・・・・・、もう辛いのは嫌だ。

知らない世界に連れて行ってほしい・・・・・・。

色んな感情が渦巻いて、だけどとても嬉しかった。

「お願いします・・・・・・僕を助けて・・・・・・」

ずっと思っていたその言葉。

あの日、家族を失ってから、ずっとシグナルを出していた。

誰かに気付いて欲しかった。

誰でもよかった。

「わかった、約束する」

欲しかった答えが返ってきた瞬間、僕の中で魔王の刺客としての自分が居なくなっていた。

青年は、そっと僕を離した。

寂しいような名残惜しいような気持ちがした。

ずっとあのまま居たいとさえ思ってしまった。

「自己紹介まだだったね、僕の名前は、レックス、騎士団長をしてるよ、君は?」


「ラック・・・・・・」

「そっか、ラックっていうんだね、よろしく」

名前で呼ばれるなんて、久しぶりだな。

・・・・・・、この人の事も名前で呼ぶのかな。

「あの・・・・・・よっよろしくお願いします」

僕は故郷を無くしてから初めて・・・・・・心を開いた。

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