神社に持ち込まれたもの

 うち、神社なんだ。

 名前は明かせないが、地元じゃ結構有名なんだぜ?

 だからか、よくいわくつきの物を持ってくる奴がいるんだ。

 そりゃあ俺も神主の息子だ、そういった力は多少なりともあるんじゃないかと自分では思ってる。

 でもそんな俺や、親父でも太刀打ち出来ないようなもんも問答無用で持ち込まれるもんだから、うちの蔵はまさに魔境さ。

 この前もとんでもない人形を持ち込んだ奴がいてさ、そいつはそのあと死んじまったらしいけどしょうがないよな。

 気がついたら蔵から人形はなくなってたってんだから、近くで寝てる俺も気が気じゃないぜ。

 まぁその話はいいんだ。今回、話したいのは別のもんの話さ。


 それは黒い茶器でな、俺も親父もそんなに知識があるわけでもないが一目みて名器だってわかるような趣があったぜ。

 持ち込んだのはどこぞの会社の社長の息子でな、骨董品屋でその茶器を見つけて一目ぼれして買ったんだそうだ。

 ただ、それを買ってから不幸が続くんだってよ。

 車が事故ったって話から、取引先が倒産したりとかな。

 それでこの茶器が原因じゃないかってことで、うちに持ってきたそうなんだが、これが特に悪いものではなくてな。

 もちろん、そんなことは言わないぜ? こういういわくつきのものってのは好事家がいてな、結構、高く売れるんだ。

 なんでもないような顔をして受け取ったが、頭の中はフィーバーって感じよ。

 社長の息子が帰ったあと、早速、知り合いの好事家に連絡して茶器を売ったんだ。


 それから一か月くらい後かな、茶器を売った好事家から連絡があってさ。

 金はいいから茶器を返したいっていうんだ。俺も親父もどういうことだ? って疑問に思ったぜ。

 それでその好事家から話を聞いたんだが、その好事家も周囲に不幸が出始めたっていうんだ。

 どうみても悪いものが憑いてるってことはない、むしろどちらかといえば良いものが憑いてる茶器なのにだ。

 親父と二人でどういうことなのかって首を傾げてたんだが、家に茶器が戻ってきて少ししたあとからかな、その理由がわかったんだよ。

 その茶器は所有者を悪いことから守るんだが、悪いことそのものを消すんじゃなく、対象を逸らせることで守るもんなんだ。

 だから自分に直接、不幸があるわけじゃないが所有者の周りは不幸になっていく。そういうのがわかる人間以外には悪いものにしか思えないだろうな。

 お守りとしては一級品だ。今じゃその茶器は親父の寝室に飾ってあるぜ。

 親父が所有者ならお前とか母親に不幸が起こるんじゃないかって?

 俺も母親もそっち側の人間だ、そういう対象から逃れる術は持ってるんだぜ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る