肝試し
私には昔から霊感があります。
といっても、幽霊が見えたりとかそんな強いものではありません。
ただ、たまにそこに見えない何かがいるなぁって感じるくらいの些細なもので、霊感があることにも気づいていなかったくらいです。
そんな私が自分には霊感があると気づいたのは肝試しにいったときのことです。
私の友達にО子という子がいて、その子は普段から「私、霊感があって幽霊とか見えるの」なんて言っているちょっとイタい子です。
幽霊とかオカルトなこと以外では良い子なんだけど、一緒に遊んでいるときに突然「あそこに危ないのがいるから別の場所にいこう」なんて言って、回り道をさせられたり店を出たりします。
だから私はあまり良い感情を持っていなくて、止めさせようとしていたのですが、О子はそういったことを話すのを止めませんでした。
夏のある日のことです。О子ではない他の友達二人と肝試しに行こうという話になり「それなら自称霊感少女のО子を誘わないとね」なんて友達が言ったので、私はО子を肝試しに誘いました。
自分には霊感がある。なんて言いながらも「危ないから」とその場所を避けるだけで、怖い話はあまりしなかったО子だったので、肝試しなんて誘われても断るだろうと思っていたのですが、意外にもО子は「行く」と返事をしました。
肝試しの場所は地元では心霊スポットとして有名な廃病院で、行くメンバーは私、A子、B子、О子、それから男手としてA子とB子の彼氏の六人。
山の中ほどにある廃病院は病院といっても個人医院のようで、一軒家くらいの大きさで不気味ではありましたが、それほど怖いとは感じませんでした。
それは私以外も同じだったようで、現地に着いた私たちはО子以外はみんな、思ったより小さいなとか、少し気持ちが軽くなっていたと思います。
みんなで懐中電灯を片手に廃病院に入っていきます。扉を開けて最初は待合室のようでした。カウンターがあって、ソファーが並んでいます。棚なんかは撤去されていて、特に見るべきものもなく私達は次に、奥の診察室へ入りました。
第一診察室と書かれた診察室には机と椅子と木の棚が残されていて、棚のガラスが割れて地面に散乱していました。
雰囲気もあって少し怖かったのですが、この部屋でも特に何もなく、次に隣の第二診察室へ入りました。
入ってすぐ、私達はその部屋の奇妙なことに気づきました。机、椅子、棚と第一診察室と同じものが残されていたのですが、そのうちの椅子が何もしていないのにゆっくりと回っているのです。
更に付け加えるのなら、私には椅子の上あたりに何かがいる気配を感じました。
「近づかないで!」
О子が椅子の上を見ながら大きな声で言いました。私は恐怖で言葉が出ません。
私とО子以外はみんな、何も感じていないのかそんなО子の言葉に笑いながら、一歩ずつ椅子の方へと進んでいきます。
「危ない!」
О子がそう言った瞬間、ゆっくりと回転していた椅子がピタリと止まりました。
椅子の上にいた気配が強くなっていくのを感じた私の手は震えていました。震えている私の手に気づいたО子がぎゅっと手を握ってくれます。
突然止まった椅子に驚いたのか、他の皆もその場で立ち止まりました。
その瞬間、椅子の上あたりにあった気配がこちらへと向かってくるのを感じました。
これはダメだ! と慌てて私はО子と繋いだ手とは逆方向の手で、近くのB子の腕を掴んで駆け出しました。
「ちょっ、なに痛い、痛いって!」
私とО子と、私に腕を掴まれているB子で廃病院の外に出ます。そのあとを「なんなの、ビビリすぎ」なんて笑いながら残りの三人が追いかけてきました。
「何も感じなかったの?」
私が言うとО子以外の皆は「感じるってなによ?」なんて言いながら笑っています。
ただО子だけは、一番椅子に近づいていたA子の彼氏を真剣にじっと睨んでいました。
肝試しから帰ったあと、私は電話でО子に事情を聞くと、О子は軽い調子で話をしてくれました。
なんでもあの椅子の上には白衣の男の人が座っていて、近づいたことで私達に気づいて、勝手に診察室に入ってきたことを怒っていたそうです。
「力の強い霊だったから、あの場で完全に捕まってたら危なかったかも」
「それにしても私さんも霊感あったんだね、なんとなくそんな気はしてたんだ」
といって、О子は私に霊感がありそうだと思っていたこと。ただし自分ではそれをわかっていないみたいだから、肝試しで不用意に危険なものに近づかないよう見てないといけないと思い肝試しに参加したことなどを話してくれました。
それ以来、未だに他の子達はО子の霊感話を茶化していますが、私だけは真剣に聞くようになりました。
О子に本当に霊感があることを私だけは知っているからです。
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