向日葵
伊勢 優馬
第1話
「紀美、今度ご飯食べに行かない?」
「いいよ。実は私も話したいことあるし。
けど、いつものとこだったらダメ。」
「なんで?」
「飽きたから。」
「えー。じゃあどこがいいの?」
「じゃあ、あそこがいい。今話題の。」
結局、僕が今話題の高級レストランで
奢ることになってしまった。
まあいい。僕の想いを伝えるには、最適だろう。
彼女とは小学校からの古い仲で、大学まで一緒だった。
いや、彼女と一緒のところに行きたかった僕が、
頭の良かった彼女の志望校に、死に物狂いで勉強して
入ったのだ。
もう僕らも、大学3年生。
就職先も考えて行かないといけなくなってくる時期だ。
そのことを踏まえれば、今が絶好の機会だろう。
約束は明後日の午後となった。
そして約束の10分前、実は今日、彼女の誕生日。
お祝いのケーキと告白する時に渡す花束は、
もう準備した。
あとは彼女が来るのを待つだけ。
僕はソワソワしながら、自分の身だしなみを何度もチェックした。
なんたって今日は、僕にとって運命の日なのだから。
そして彼女は、約束の時間ぴったりにやってきた。
紺色のワンピースに真っ赤なヒールでとても美しい。
「お誕生日おめでとう。
今日は何でも食べてくれていいよ。
僕のおごりだから。」
「じゃあお言葉に甘えて。」
そうして彼女と、滅多に食べないステーキを食べた。
値は張ったが、話題なだけあってとても美味しかった。
そして、サプライズのケーキを持ってきてもらった。
「えー、嬉しい。ありがとうー。」
予想以上に喜んでくれた。
でもこんなところで浮かれてる場合じゃない。
これからが勝負だ。
そして二人でケーキを分けて食べながら、
頃合いを見計らっていると、彼女が口を開いた。
「実は今日、話したいことあるって言ってたじゃん。
いま話してもいい?」
「どうぞ。」
「実は私、前々から憧れてた人と付き合うことになりました!」
「へー……、えっ!」
何?憧れていた人って誰?そんなの聞いてないぞ。
「相談とか乗ってもらおうかなとか思ったんだけど、
もし振られたら恥ずかしいなとか、色々思って、
内緒にしてたんだ。でも、めでたく付き合うことになったので
ご報告させて頂きます。」
なんじゃそら。あり得ない。いや信じたくない。
じゃあ今までの俺の片思いは何?
ドキドキは何?
告白すら出来ずに散っていくの?
「あれ、もっと喜んでよ。めでたいんだからさ。」
「ああ、良かったじゃん。俺も嬉しいよ。
正直、ワガママで頑固で取り柄もないお前が付き合うなんて
考えてもみなかったよ。」
「何よそれ。失礼ね。」
彼女はわざとらしく頰を膨らませた。
「まあそんなお前にプレゼントがあります。」
僕はウェイターさんに合図を送って、
本当は告白する時に渡すはずだった向日葵の花束を
持ってきてもらった。
「わー、綺麗。これを私のために?
ありがとうー。嬉しいー。」
そんな彼女の微笑ましい笑顔に、僕は胸が苦しくなった。
「でも、なんで向日葵?」
「僕が好きだったから。」
この日、僕の初恋は終わった。
向日葵に 見惚れる君も 花のよう 色は匂へど 恋は実らず
向日葵 伊勢 優馬 @noblelion
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