第3話;子猫
俺は犬と猫、どちらが好きかと聞かれれば断固猫と答える。だからペットショップに立ち寄った時は犬のコーナーよりも猫を見ている時の方が多かった。ペットショップにいる猫は小さくてヨタヨタと歩く姿が可愛かった。
しかし、目の前にいる猫はどこか違う印象を受けた。背後にオリーブの木が植わっている鉢があるせいかペットショップで見かけた子猫よりも小さく見える。毛並みはボサボサで、不自然に左足が浮いていて、重心が右にずれている。けど目はじっと俺の方を見ていた。とても強い眼差しで。
「あっ!猫ちゃんだ!」
姉貴が子猫の存在に気がつくと、子猫はビクッと身体をはね上がらせて戦闘態勢に入った。しかし、左足が上手く使えないせいか態勢が安定しない。
とても弱々しかった。
「・・・この猫ちゃん、自然界で生きていくには厳しいかもね」
母さんがそうぼやいた。
「どうして?」
「慧斗はどうしてだと思う?」
まさか質問を質問で返されるとは。自然界で生きていけない理由か。
身体が小さいから?それとも足が上手く使えないから?
「って言っても、お母さんも勘だけどね」
そうして話している間に、子猫は隙ありと言わんばかりに逃げていった。
あの猫はこの先どうやって生きていくのだろうか。
生きて・・・いくのだろうか。
しかしその翌日、そしてその翌日にも子猫は決まった時間に現れた。面白いことに、一定の時間座って、決まってどこかに消えて行く。それの繰り返しだった。そんなある日、子猫は引きずる左足をなんと使って家に上がってきた。今までよりぐっと距離が近くなり、母さんはすぐに気がついた。
「この猫ちゃん、左足が折れちゃってる」
子猫が上がってきた窓のすぐ近くに置いてあった座布団に腰を下ろすと、子猫は香箱座りしてじっとこちらを見てきた。今までずっと逃げられていたのに、急にどうしたのだろうか。しかし少し近づくとすぐに窓から外へ逃げてしまった。
そんなやりとりが数週間続き、いつの日か子猫は俺たちから逃げなくなり、窓を閉めても暴れなくなった。
そうして子猫はうちの家族の一員となった。
これが後に「小町」と名付けられた猫との出会いだった。
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