第1話:ゲームの世界は居て楽だった

 小学5年生。高学年に入り、身体も心も成長する中少し不安定になる時期。そんな頃にクラスの担任になった女教師が最悪だった。いや他の人から見れば分からない。ただ俺との相性は最悪だった。

『三葉君、どうしてそんなことをするの』


『三葉君、どうしてそんなこともできないの』


『三葉君』


 俺が何かしようとしたらすぐに口を出してきた。これは後で知ったことだがこの時期の男子はやんちゃ盛りな時期でもあるらしく、男子が先生に怒られることはよくあることらしい。だが何かやろうとするとすぐに押さえつけられるようで、気分は良くなかった。そして決めつけは、俺が注意されるとすぐに親に電話をしてきたこと。

 例えば。


『三葉君ですが、私の言うことを聞いてくれないんです。ご自宅ではどういったご指導をされていますか』


 ちなみにこの電話をとったのは姉貴。姉貴曰く母さんに変わろうとしても御構い無しにどんどん話すもんだから最終的には姉貴が全部聞いたという。当時中学生だった姉貴にはかなりインパクトのあった出来事らしく、鮮明に覚えていると語っていた。

 先生から見れば俺は立派な問題児。まぁ、とてもいい子でも無かったけれど、そこまで他人に迷惑をかける行為をしたつもりは無かったし、言われたことも無かった。周りの言葉を借りれば成長過程に合った普通の男の子。そんな俺にとってとても窮屈な学校生活だったが、俺にも友だちはいた。近所に暮らす男の子で一緒に少年野球に所属していた。平日は一緒に帰って、休日には野球。野球もない日には一緒に公園に行って遊んだ。家ではいつも前向きな母さん、冷静に分析をする父さん。声がバカでかい姉貴に何も言わず隣に居てくれる兄貴がいて、家にいれば俺は俺でいいんだと思わせてくれた。


 そして月日は流れて小学6年生。あの担任とおさらばし、どんな担任が来るかと思ったがこの担任もまた俺との相性が最悪だった。そう5年生の時の担任とほとんど同じだった。

 そして初夏に差しかかった頃、俺の中である変化があった。


 何をやっても、ダメ。

 考えたところで、先生にすぐ直される。

 俺の意見なんて、何も反映されない。

 言われたことだけをやる。それ以外のことをしようとするとすぐ怒られる。


 なんて、つまらないんだ。


 そんな考えが広がる中、俺はどんどんゲームにのめり込んで行った。

 ゲームなら誰も入って来られないし、俺が思うままに動く。気にくわない時には電源を切ればいい。

 そう、ゲームの世界は居て楽だった。

 そして小学6年生の夏休みをほとんどゲームで過ごした。

 この頃の俺の様子を姉貴は兄貴はこう話す。

 まるで人格が変わったようだった、と。

 ゲームを始めればすぐに気が立ち、「死ね」や「失せろ」といった暴言が飛び交う。注意をすれば声を立てて威嚇をする。ゲームを終えても機嫌が悪く場の雰囲気を悪くさせる。

 そして次第に俺は生きる意味について考えるようになった。学校に行っても窮屈なだけ。逃げ場はゲームだけ。将来の夢も昔はあったが、見失ってしまった。

 どうして俺は生きているのだろう。いっそ死んだ方が楽なのでは。

 こんな生活をしているくらいなら、いっそ。


 そしてある日、ゲームをする俺の姿を見かねた母さんが口を開いた。


『あんた、ゲームと自分、どっちが大切なの』


『ゲーム』


『命よりもゲームが大切だって言うの』


『そう言ってるじゃん』


『じゃあ・・・死んだっていいって言うの』


『死んでもいいよ』


 忘れもしない、母の涙を見た瞬間だった。どんなことがあっても決して涙を見せることがなかった母さんの涙が大粒になって次々を頬を伝っていった。

 その後に言葉はなかった。ただ母さんはそのままその場に崩れ落ちた。

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