第7話 最小の不思議数

 ぽぽんぽぽんぽんぽーーーん♪

 ぽんぽぽんぽぽーーーーーん♬


「あっ!なっちゃんだ!」

「なっちゃーーん!!」


 ぽっぽぽんのぽーーん!ぽぽーーん♫


 いつでもななじゅう、なっちゃんはみんなの人気者!色んなグループにひっぱりだこ!


 ちょっぴり不思議ちゃんなんだ。でもそれが逆に可愛らしくてみんな大好きなんだよ。


「なんだいなんだい!俺だってなっちゃんと遊びたいやい!でもなんかいつも避けられてる気がする・・・、むむう」


 とちょっと不満げなのは3君だ。なんで不満かって・・・70と3なんて何の関わりもなさそうでしょ?なんだか互いに素になっちゃったんだ。


 でもね、なっちゃんはだれにでも優しくて、誰とも仲良くできるんだよ。


「ねえねえ、3君、一緒に遊びましょ!そうだね、平方数ごっこはどう?」


 なっちゃんが近づいてきてくれて3君は内心大喜び!でもちょっと意味がわかりません。だってなっちゃんは不思議ちゃん。


「平方数ごっこってなあに?」


「このおもちゃを使うんだよ」


 なっちゃんがごそごそ取り出したのはσだ!今女の子たちの中で可愛いと人気のσだけど、3君も気に入ってくれるかな?


「なんだい、こんなの素数っ子の僕には関係ないやい!」


「そうじゃないんだよ、ほら!」


 ☆☆☆


 ぱっと明るくなって3君は4に、なっちゃんは144になったよ!


「ほら!平方数ごっこできてるでしょ!?3君ね、平方数ごっこの中ではいちばんなんだよ!楽しいでしょ!」


 3君はご機嫌です。こんな風に、どんな子とも遊べるなっちゃんなのでした。


 ドン・・・


 ドン・・・


 なんだか不気味な音が近づいてきました。


 ドン・・・


 ドン・・・


 地響きが街全体に響き渡ります!何がやってきたのでしょうか。


「あれは・・・?100・・・?」


 3君がなっちゃんの後ろでおびえながらその陰を見ています。


 ドン・・・


 ドン・・・


「100じゃない・・・何か・・・別の・・・」


 ドン・・・


 ドン・・・


 姿が明らかになってきました。100に見えていたのは、ただ頭の部分だけでした。徐々に本体を表し・・・


 10^100


「うわーーーー!!!グーゴルだーーー!!!逃げろーーーー!!!!」


 みんなが逃げまどいます。3君はその場で怯えて泣いてしまいました。なっちゃんは3君を必死に励まして逃げさせようとします。


「はやく!!怖いのはわかるけど、ここにずっといたらつぶされちゃうよ!!」


 でも3君は足がすくんで動けません。


「・・・私、この力だけは使わないようにって言われてたのよね。でも、みんながグーゴルに踏みつぶされちゃう。この力ってまさに今のためにあったのよね?私なら・・・最小の力でグーゴルに勝てるんだもの。あとは3君の力を借りられれば・・・」


 なっちゃんは近くにいた3君にこう言いました。


「私の本名を、思いっきり叫んで」


「・・・なんで?」


「いいから、どうしても!」


「なっちゃん・・・」


「違う、私の本名よ!」


 そんなことを言っているうちに、グーゴルはもうすぐそこまで来ていました。


 10000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000


 その巨体は次の一歩でなっちゃんも3君も踏みつぶせるというところまで来ていました。


「はやく!!」


「わかったよ・・・


 70!」


 どんどんどんどんどんどんどんどんどんどん!!!!!!!


 みるみるうちになっちゃんは膨れ上がっていきます。


 11978571669969891796072783721689098736458938142546425857555362864628009582789845319680000000000000000


「なっちゃん・・・」


 そこにいたのはもうなっちゃんではありませんでした。大きく膨れ上がった二体の巨人が対峙し、その決着をつけようとしているのでした。


 みんな空を見上げていますが、どちらが大きいかなんてわかりません。でも、みんな必死に見守り、どちらが勝っているかを確かめようとしています。


 ゴン・・・!!!


 何かが割れたような音がしました。見るとグーゴルが割られています。


 ぴきゃーーー!


 そこにいたのは0.834824にまで小さくなったグーゴルのなれの果てでした。


 なっちゃんも1.197856167にまで小さくなってしまっています。


 みんながなっちゃんを心配そうに見つめました。そこに、町一番の名医28がやってきました。容体を見ると・・・


「なーんじゃ、この子は治る!安心しろい!まだまだ有理数じゃ!」


 そして、何日か28のところに入院することになりました。


「この子は・・・わしに似ておるような気がしたが・・・」


 28はなっちゃんを見るたびに不思議な気分になりました。


「なにかが違う・・・この子は完全数とは似ても似つかん。過剰数だというのに。一体この子に何があったというのだ?こんな子を見たのは初めてだ」


 とんとん・・・


 誰かが訪ねてきました。


「はーい、どなたかな?」

「あの、実は私たち、70の両親なんです。私は5040、妻は4030です」

「あらら、これはまた変わったご夫婦だ。10進法で親近感を?」

「ええ・・・まあそうなんですが、70は妻によく似た不思議な子で、でも私の子にも良く見えるでしょう?ですがね、訳合って顔を見せられなくなってしまったんです」

「それはまたどうして」

「私・・・実は階乗の力を持っているんです。ただ7にすぎなかった私は訓練のもと階乗の力を手に入れて、そして妻と結婚することもできました。ただ、これはあまりに危険な力でもう一度使ってしまったら、もうこの世はどうなることか・・・。ですから、私たちは世間を離れ暮らすことにしたのです。かわいそうな70を連れていくかどうか迷いました。もちろん、一緒に連れて行きたかったのですが、70は一人でも強く生きていき、広い世界で学び、いろいろな知識を身に着けてほしいと思い、妻の親戚の836に預けることにしたのです。幸い836は目立たないものの、良い人でしたから。でも、70は使ってしまったんですね。階乗の力を」

「そう心配なさらんでもよろしい。70は立派に成長し、この町を救ってくれたよ。そして、とても良い子じゃ。お前さんたちもそろそろこの子と一緒に暮らしてあげたらどうかね」

「でも、見たでしょう、階乗の力を。私がなにかの弾みに使ってしまったら・・・」

「よいではないか。それより、70がその力を正しい時に使っていくのを見守るのが親の責任というものではないかね?」

「はい・・・」


 そして、70は目を覚ましました。


「お父さん・・・お母さん・・・久しぶりだね」


「ごめんな、いままで会ってあげられなくて・・・ほんとはずっと会いたかったんだよ」

「これからは一緒に暮らしてくれるのかしら?」

 三人は顔を見合わせ、微笑みあいました。


 ぽんぽぽんぽぽーーーーーん♪


 なっちゃんはいつでもみんなの人気もの!今日も元気に色んな子たちと遊んでいます!


 定義:不思議数

 不思議数とは、σ(n)>2nかつ、疑似完全数でない数のこと。すなわち、自身を除く約数の総和が自身より大きく、どのように約数を選んで和を計算しても、自身に一致しない数のこと。

 そのような数は無数にあり、

 70, 836, 4030, 5830, ...



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