威力偵察~アルマとプレアを連れて
「団長、今回の任務は何?」
「ん?説明してなかったか?今回は王国北部での異常調査と、国境偵察を兼ねた重要な任務だ」
「言ってないっすな~」
「超重要じゃない!!」
アルマは特に気にしなかったが、プレアは随分と御怒りのようだ。
まあ、伝えてなかった俺のせいなんだが。
「言ったらお前ら来なかっただろう?」
「カルマと一緒がよかった~」
「わ、私はちゃんと来たわよ…?」
「まあ、お前らにレーネやガルシアのような生真面目さは求めてないけど」
暗に、「言ってたら拒否しただろう?」と言ってることに気付いたプレアは顔をわざとらしく逸らした。
アルマは変わらず。反省もしなければ後悔もしないヤツだからな。仕方ない。
「ん……ん~?団長、これ」
「どうした?……靴跡か。誰かが数時間以内にここを通ったってことか」
「私達だけしかこの任務に来てないはずじゃないの?」
「王国側はな」
「まさか、共和国から?」
「その可能性の方が高いだろう。……アルマ?」
「一人じゃないっすね~。一小隊分はありそうっすよ」
面倒だな。死体を燃やすこと自体はサクッと終わらせられるが、問題は騒ぎを聞きつけて魔物どもが押し寄せてくることだ。小さいモノに釣られて大物が来たら厄介だ。今日は調査のために来たってのに。
「二人とも、いつでも武器を抜けるようにしておけ。殺しも許可する。ただし、死体は残すな。魔物に食われても面倒だ、キッチリと火葬しろ」
「言われなくても」
「こっちも大丈夫っすよ~」
歩くこと一時間。そろそろ共和国との国境が近いか。
……はぁ、噂をすれば影が差す。
「何者だ!」
「それはこっちが聞きたい。こちらの領土で何をしている?」
「我々は共和国から派遣された冒険者ギルドの者だ。それで、お前達は?」
男三人に女一人。確かに、共和国ではよく見かけるパーティだな。
だが、それにしては調査するような格好には見えない……。
「俺達は王国から依頼されてここの調査に来た」
「……たった三人でか?嘘をつくのが下手だな」
「三人で事足りるからな。……アルマ」
「あいよ~」
さっきから木の陰でコソコソしていたのは、果たしてどこの馬の骨だろうか。
共和国の者か、こっちの者か。
「待て! 俺達もここの調査に来ただけだ!」
男が三人。だが、他にもまだ隠れているのがいるな。
それに、こいつらも調査に来たようには見えない。
「調査……ね。それにしては、俺達を逃がすつもりはなさそうだが、どういうつもりだ?」
「チッ……バレてるなら仕方ねえ。あんたら、女置いてとっとと失せな」
「だそうだが?」
「我々に刃を向けるか。力の差も分からぬ愚か者どもめ! 情報を聞き出す、殺すなよ!!」
「アルマ、プレア」
「了解~」
「任せて」
野盗みたいなのが十六人。汚れているが装備は良さそうだ。
だが、装備は良くても腕は大したことないな。
勢いあまって殺してしまいそうだなぁ――二人が。
ものの五分で制圧してしまったが、死んだ奴はいない。
向こうも怪我人はいないようだ。
腕はそこそこ。連携はしっかりしてたな。
「どうするの?こいつら」
「魔物の餌にするのが最もいい活用法だろうな。あんたらはどう思う?」
「……我々の身内ではない」
「待ってくれ! お、俺達は共和国の人間だ! なあ、おい! 同じ国のよしみだ、助けてくれよ!!」
「と、言ってるが?」
隊長らしき男は思案しているが、後ろの仲間の一人が挙動不審だな……。
「団長、あいつらから嘘の匂いがする」
「……確証は?」
「言葉のやりとりの中で、時々声の高さが乱れる時があるの」
「なら、決まりだな。プレア、燃やせ」
「『狐火』」
「なっ!!?」
火が意思を持っているかのように、炎になっては飛び火して次々に野盗たちを燃やしていく。
生きたまま焼かれる痛み、苦しみで男たちの絶叫が聞こえるが、どうでもいい。
「何をしている! 彼らは――」
「味方なんだろう?なら、俺達は自国に侵入してきた敵を排除するだけだ」
「っぐ!……構えろ! 殺してかまわん、排除しろ!!」
「男二人は俺が抑える。プレアは……」
「私は彼女を。アルマは彼ね」
「はいはい」
言わずとも分かるか。
両手の、首を掴まれている男二人がもがいているが、俺にとってはなんてことない。子供が暴れているようなものだ。
距離を置いて放り投げると、片方は受け身はギリギリ取れたようだが、もう片方は無様に転がってる。ちょっと首を絞め過ぎたか?
アルマの相手は……ダメだな。女だと思って油断している。
アルマの機嫌が傾き始めてるな。
「君みたいな女の子と本当は戦いたくないけど、許してくれ」
「別にいいよ、そんなの。だって、死ぬのはアンタなんだから」
「一応名乗りを上げよう。僕は共和国のアセット」
「どうでもいい」
心底つまらないと思っているらしく、銃の弾丸を確認してるよ。
リボルバーだから弾は六発。
まあ、アルマには弾数なんてハンデにもならないが。
「ごめんね。せめてもの情けとして、一撃で終わらせてあげるよ!」
「やれやれ。『火銃葬』」
「これで終わり――」
「一に敬意」
特に警戒することもなく突っ込む男に、アルマは気怠そうに銃を構えて一発。
簡単に躱されたが、一発目はそんなもんだな。手加減してるし。
「この程度で――」
「二に脅威」
二発目は剣で弾いたか。まだ気付かない。
「悪足掻きだ」
「三は畏怖を」
三発目は盾で弾こうとして出来なかった。盾には弾痕がくっきりと残ってることだろう。
「なっ!?」
「四で絶望」
甲高い音が聞こえたが、盾でも割れたか。
構えた盾ごと腕を貫かれたのだろう。片膝立ちの男の頭にアルマが銃を構えていた。終わりだな。
「か、はっ……」
「五発目、あなたに『救済』を」
倒れた音がしたということは、そろそろ遊びもおしまいだな。
「そして六発、『終幕』です」
背後から熱を感じる。それじゃあ、終わらせるか。
「アセット! このっ…!!」
「死神に背を向けるとは」
戦闘中に相手に背を向けるとは、よっぽど大事な存在だったのか…?
「隊長!!」
「戦場では、一瞬の隙が致命的だぞ」
気を抜きすぎだ。一人がやられてこんなにあっさりと瓦解するとは。
軍人ではなさそうだな。
「プレア、終わらせろ」
「はいはい」
「ふざけるなっ!!」
「貴女じゃ私達には勝てないわ。『炎舞』」
孤軍奮闘も虚しいな。実力差がありすぎる。
プレアの斧を受けきれずに袈裟に斬られて終わりだ。
「終わりだな。死体を燃やしたら出発だ」
「あいあ~い」
結局、調査して見つけたのは王国の人間の死体が三つだけだった。
傷跡から考えて、さっきの連中に殺されたんだろう。
魔物に喰われなかったのは、あいつらが近くにいたからか。
共和国が動き始めた……面倒なことにならなければいいが、こういうことを考えてると大抵ろくでもない方向に流れていくんだよなぁ……。
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