第四章

 定例王国会議

 本日は御集まり頂き恐縮です。国王陛下より、定期的に情報共有を行う場を設けよ、との御言葉があり、皆様に御声掛けさせていただきました。些細な事であっても情報を共有し、最悪の事態を回避できるように、との御考えのようです。

 皆様、本日も実りある会議になるよう御協力お願いします。



「だそうだが、お前さんの発案か?」


 会議が始まると、隣に座るガレスが話し掛けて来た。

 机は「回」の字に似た形で配置されており、俺の右にベレス、左にリヴリティア、右前にキルガス、左前にファルティナが座っている。


「いや、今回は俺は何も言ってない。陛下自ら必要性を感じたのだろう」

「だからって、こんなに人を集める必要あったのかしら?」

「前回とは異なり、今回はこの街にあるギルド全てに声を掛けてるみたいですね」

「僕はあまり顔を合わせたくないヤツがいるな」

「それを言えば、俺達と確執の無いギルドなんてないだろう?」


 俺がそう言うと、会話をしていた四人は同じタイミングで肩を竦めてみせた。皆、何かしら同じことを経験したということだ。


「にしても、少し多すぎないかしら?」

「なるべく多くの戦闘を生業とする者達に情報を共有するためだ。ここを守護しているのは俺達だけじゃないんだ、仕方ないだろう」

「……あまり評判の良ろしくないところも来ているようですけどね」

「ずっとこっちを睨んでるよ。これだから礼節を弁えない無法者は……」

「そろそろ静かにした方がよさそうだ」



 ――以上が、これまでに大陸全土から届いた情報です。既知の情報が多々あった一方で、新たにもたらされた情報もありました。各地で突然活動を始めた名前付きの魔物たち。さらには、この後ガーデナーより報告がありますが、通常種とは明らかに姿形が異なる特異種の存在が各地で目撃されております。

 ここまで申し上げればもう御分かりかとは思いますが、皆様にはこれらへの対処を第一に動いていただきます。それ以外の仕事は優先度を下げ、出現した時には全力で対処してください。これは国王陛下よりの勅令です。ここに集まった方々は、その実力を認められたものと思ってください。

 当然ですが、危険度は段違いであろうことが容易に予測できますので、その分多額の報酬となっております。皆様には第一線での戦闘をお願いします。



「なるほど。万が一俺達がここを離れたときに備えて、壁となる者達を集めたのか」

「しかも、ここに集まった時点で拒否は許されない。たぶん、事前に何かしらの餌をぶら下げられたんでしょうね」

「万が一と言うか、これから外へと出ていくだろう僕らのための策なんじゃないかな。どれだけ機能するかは分からないけど」

「あくまでもここの防衛でしょうから、時間稼ぎ程度にしか考えていないのでは?」


 この四人、なかなかに辛辣だな。まあ、因縁がある者達が多いから仕方ないのかもしれないが、もう少し仲良くやろうとは思わないのだろうか……俺も人の事は言えないけど。


 どうやらここに集められた俺達以外の面々は大層不満のようだ。

 要約すれば、民のために死んでも盾になれと言われているようなものだから当然ではあるが。  


「俺達に死ねと言うのか!?」

「ですから、その分報酬は多くしております。それに、陛下が認められた皆様だからこそ、お願いしているのです」



 おそらく王は渋々頷いたんだろうな。俺達がここを離れる場面が今後ないとは言えない。これまで以上に魔物たちが活発化して名前付きが出たりすれば、団長クラスが出ざるを得なくなるはず。そうなればここの護りは当然薄くなる。そうした時に騎士団だけでは対処しきれないだろうことを、宰相にでも指摘されたのだろう。

 勅令は拒否を許さない。もし拒否すれば、軽くても国外追放だったか。随分と思い切った方法をしたものだ。



「ここに集まった時点で、今回の件には皆賛成されたはずです。これ以上文句を言われるのでしたら、反逆罪になりますがよろしいですかな?」


 進行役の文官が脅しとしか取れない言葉を発すると、それまで騒いでいた連中は沈黙した。反逆罪は即ち死刑。言い訳は許されないから黙るしかない。

 


「さて、静かになりましたので続けさせていただきます。最後に、ガーデナーより報告です。では、お願いします」


 このタイミングで俺に回すとは、なかなかイイ性格してるな、この進行役。

 顔を覚えたからな?


「はぁ……紹介にあずかったガーデナーだ。これから話すのは俺達のギルドで接触した特異種の説明をする。今、分かっていることは少ないため参考程度に聞いてもらいたい」


“……情報を秘匿するつもりか”


「聞こえているぞ。情報の秘匿ではない。俺達でも手探りの状態ということを前提で聞いてもらいたい」


 一応、大人しく聞いてくれるみたいだな。

 これだから喧嘩腰の連中は嫌いなんだ。


「まずはメデューサ。本来山の奥深くいるはずのヤツらが人里に近いところまで来ていた。ただ、通常個体と身体的な差は見られなかった。これはメデューサよりも、ヤツらを追い立てた存在に警戒しなくてはならないと考えている」


“例えば?”


「わからん。だが、普通に考えてメデューサよりも強力な個体が現れたと考えるべきだろう」

「調べたいのは山々だが、危険度は未知数だな。放って置くにしては危険すぎるが、無闇に捜索しても無駄に被害を出す結果になりかねないな」


“天下の五大ギルド様は随分と及び腰みたいだな”


 自分たちが関わらないと判断すると途端に饒舌になるんだな。

 いっそこいつらに任せるのもアリか…?


「及び腰で悪かったな。こちとら団員の命を背負ってんだ。お前達とは違う。そう簡単に団員を危険な目に遭わせるわけにはいかないんでな」


“まるで俺達がロクでなしみたいに聞こえるんだが?”


「違うのか?連絡所に赴くと善くない噂を聞くが。クエストに出れば他人の成果を横取りし、手に入れた素材を脅して奪ったなど、人間性を疑う所業の数々をどう弁解するつもりだ?」


“そ、それは……”


「だから、俺達はお前達を信用していない。情報は提供しよう。だが、お前達と肩を並べることはない」

「まあ、当然だな」

「情報を提供してもらえるだけ感謝しなさい」

「……ふんっ!」


 険悪な雰囲気の中、進行役がなんとかしようと頑張ってるが焼け石に水だった。

 最後にはすがるような目で、俺に会議の進行を促してきた。


「……報告の続きをお願いしてもよろしいですかね?」

「そうだった。続けよう」



 その後は、情報を共有するだけして解散となった。

 終始口を閉ざしていたファルティナ。

 鋭く睨みつけていたリヴリティア。

 挑発するかのように見下していたベレス。

 不機嫌だったキルガス。


 彼らを連れて飲みに行ったが、空気は最悪だった。

 店内を重苦しい空気が占有してしまったせいで他の客が逃げ出してしまうわ、店長もかなり無理をして給仕してくれて本当に申し訳ない。

 酔ったら酔ったで愚痴ばかりこぼして、事態を収拾するこちらの身にもなってくれよ。


 結局、ギルドに戻ったのが深夜を過ぎてしまった。

 正直、ここまで心労が半端ないのはこれまで経験したことが無かった。

 はぁ……今日はもう疲れたから寝る。おやすみ。

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