ガルシア&プレア 上
ガタガタと揺られながらの旅。
やっぱり執務室の椅子に座っているよりも好きだなー。
なんかウキウキするし安心感もあるから。
もうずっとこのまま揺られて………
「団長、いつになったら着くのかしら?」
「さすがにお尻が痛くなってきたわ。そろそろ休憩しない?」
……同乗者に気分を台無しにされてしまった。
どうしてこののんびりとした空気を楽しもうとしないんだ。
生き急いでもいい事ないぞ。それに勿体無い。
「まだ先だ。さっきも言ったぞ?それに休憩もさっきしたばかりだ」
「乙女にもう少し配慮してって言ってるの!」
乙女とは言っても冒険者だろうが……なんてことを言うとまた色々と言われるから口にしない。
俺は学習するからな、乙女の扱いも慣れたものだ。
「もう間もなく小さな村に着くから、そこで小休止という事でいいか?」
「……それならいいわ」
はぁ……ウチの御嬢様方は我儘が過ぎるな。
どうしてこんな風に育ってしまったんだろうか。
どこで育て方を間違えたのやら。
「でも、どうして今回は馬車で移動なの?」
「ん?ああ……言ってなかったな。帰りは他ギルドの子達を拾って帰るんだよ。だから今回は特別に馬車だ。時間が掛かるからのんびりしてろよ~」
今回のクエストは合同で行われる。
目的地は海を臨む街から少し離れたところにある灯台の周辺。
最近海の魔物が出てきて危険ということで依頼が回ってきた。
合同なのはリヴリティアから、自分のところの子達を鍛えて欲しい、という要望があったからだ。
面倒ではあるが、相応の謝礼を払うと言われては断れない。それに、冒険者全体の能力の向上はこちらとしても願ったりだ。
それから一時間掛けて小さな村に辿り着き、小休止で三十分ほど食事などをして休憩した後、馬車での移動を再開。
やれやれ、乙女というのは本当に面倒な生き物だな。
さらに二時間掛けて今は昼時を少し過ぎたくらいか?
少しのんびりし過ぎたか……ん?
依頼主がいる街へ到着早々に騒動に巻き込まれるのは勘弁だぞ。
『ですから、私達は依頼を受けてあの灯台の魔物退治に来たんです!』
『女が冒険者ってのがなぁ……』
『まさか、実は魔女で魔物たちの手助けに来たんじゃねえか?』
来て早々に面倒事に巻き込まれること確定かよ。
やれやれ、男尊女卑なんていつの時代だよ……
『なんですか、それっ! 私達は依頼で来たのにその対応はないでしょう!』
女性冒険者は六名。
その中で前衛職らしい大剣を背負ってる獅子人族の冒険者が矢面に立っていた。
近くで見ている仲間の中には苛立ちを募らせている子もいるらしく、今にも武器を取ってしまいそうだ。
「団長、ヤバそうね」
「プレア、手綱を頼む。このまま馬車を走らせて街の外壁付近で待機していてくれ。ガルシアは必要があれば近付いて来た者を威嚇しろ。お前達まで厄介事を起こさないでくれよ?」
「あっ! ちょっと!!」
馬車から飛び降りたらプレアから戸惑う声が聞えてきた。
今は気にしない。優先すべきはあちらだ。
「――っ!」
予想通り、大剣の子の後ろにいた犬人族の子は今にも短剣を抜こうとしていた。
安請け合いすべきじゃなかったなー。
「待て待て。その子達が冒険者なのも、依頼を受けて来たことも事実だ」
「あ?あんた何モンだよ」
「この子達を預かる者だ。依頼主のハモンドって男に会いたい。どこにいる?」
「ハモンドさん?それなら――」
「儂だ。お主が……なるほど、最強のギルドの長か」
「顔を見せない無礼は許してくれ。それで、依頼内容の現状を教えてくれるか?」
「うむ、付いて来い。そこな娘たちも、先程はこやつらがすまんな。ささっ中に入ってくれ。茶を出そう」
突然現れた俺とハモンドのやりとりにリヴィの子達は呆気に取られ、彼女達を引き留めていた男たちは老人に対して頭を下げていた。
ハモンドが中に入り俺がそれに続くと、遅れて少女達も続いた。
「あの……貴方が『秘密の花園』の団長ですか?」
「そうだ。今回連れて来た弟子の二人は外に待たせてある」
「カッカッ! 武器を持たぬのにお主からは死の気配しかせんわい。これでもそれなりに戦いというものを経験してきたが、お主のような者は初めてじゃわい!」
「褒めても何も出ないぞ?それと、死の気配とは穏やかじゃない表現だな。何とかならないか?」
「いやいや、そうとしか表現出来ぬからそう言ったのじゃ。他に言い様は無いな」
「あの……死の気配とは?」
獅子人族の子がハモンドに質問したのは純粋な疑問ゆえだろう。
察するに、うちの『騎士』と同程度の実力か。
「んお?分からんか。まだまだじゃな。死の気配とは即ち、圧倒的な実力差のことじゃ。儂が武器をもって襲い掛かっても、こやつに一瞬で殺されてしまう程に歴然とした差がある。此度の依頼には過ぎた戦力じゃわい! わっはっはっ!」
ハモンドの言葉を受け、俺の後ろを付いて来ている子達がザワついた。
やれやれ、必要以上に怯えられでもしたら今後がやりにくくなるだろうが。
珍しく頭を悩ませていると、ハモンドが扉を開けて手招きをして来た。
ここで話を聞くようだが、この人数だと手狭だな。
部屋の中に椅子は一脚しか置いてなかった。
「まあ、自由にしてくれ。茶は――おーい、 茶を用意してくれ。あとつまみもな」
椅子は年功序列なのか、俺に譲られた。
リヴィの子達は俺の背後に立つようにして整然と並んでいた。
しっかりしてるなー、なんて場違いな感想を抱いていると、使用人が現れて茶と茶菓子が届けられた。
使用人が部屋を出たのを確認してからハモンドは話を始めた。
「今回の依頼は灯台の奪還じゃ。今あそこは魔物たちに占拠されて使えなくなっておる。漁に出る者達にとって、灯台の光は生命線。一刻も早く奪還せねばならんが、この町にはそれだけの技量を持つ者がおらん。ゆえに、依頼させてもらった」
「なるほど。じゃあ、敵の情報は何かあるか?」
「うむ、偵察した者によるとだな……大きな蟹が多数おるそうじゃ。それから半魚人。ヤツらが灯台を占拠したらしく、上から監視しておるらしい」
「質問してもよろしいですか?」
基本的に受け答えはリーダー役の獅子人族の子がするのか。
「なんじゃ?」
「灯台はなるべく傷付けないようにした方がいいですよね?」
「ああ、そうしてくれると助かる。勿論、場合によっては灯台が崩壊しても気にせん。魔物の脅威を取り除けるのじゃからな」
「さすがに私達ではそんなこと出来ませんから、その点は安心してください」
灯台内部はマーマンが防衛。
灯台までの坂にはキングクラブが守っているか。
海がすぐそこだから援軍に注意が必要か。海に引きずり込まれたらさすがの俺でも助けられないかもしれないから、そこは釘を刺しておく必要があるな。
ただ、水がある有利は相手だけではない。こちらにも水を得意とする者はいる。
「すぐにでもとりかかろう。あとは任せてくれ」
「よろしく頼むっ!」
机に手をついて頭を下げるハモンドに謝辞を述べてから退室した。
リヴィの子達を連れて建物を出ると、ガルシアが不満気な顔をして待っていた。
「良い御身分ね、団長?」
「プレアはどうした?」
「彼女なら馬車で留守番中よ。それで、その子達が今回の?」
「ああ、そうだ。これから作戦を一緒に考える。ひとまずプレアが待っている馬車に移動するぞ」
俺が移動すると、俺の左隣にガルシアは移動して付いて来た。
リヴィの子達も大人しく付いて来た。
実のところ、広場にいた町の人間の不躾な視線が嫌だったから移動することを促した。ああいうのはいつまで経っても慣れないものだ。
馬車に近付くと、頬を膨らませたプレアが仁王立ちしているのが見えた。
何故か御立腹なようだ。
はて、俺は何かしたか?
「ガルシア! 勝手に一人だけ離れないでくれる!?」
「別に私がいなくても問題なかったでしょ?」
「なっ……にゃにおー!!」
まだまだ収まりそうにないプレアの頭を強引に撫でて黙らせた。
上目遣いで睨んできたが気にしない。
黙ったということは従うということだからだ。
静かになったのを確認してから、集まった全員に向けて話しを始める。
「これから灯台の奪還を行う。最初に言っておくが、俺は手伝わない。緊急時は手を貸すが、それまでは傍観している。お前達だけで全て行ってもらう。作戦だが、まずガルシアとプレアで坂のキングクラブどもの駆除をしてもらう。灯台までの道が出来たら、そこからお前達が突入して灯台内に侵入。プレアは駆除完了後に灯台へ行け。ガルシアはその場に残って援軍に対応しろ。いいな?」
『了解!!』
「じゃあ、行け!」
俺の合図とともに全員が駆けて行った。
先頭を行くのはプレア。
得意の火属性魔法で一掃するつもりらしい。
ガルシアは崖下から次々に現れるキングクラブを海の水を利用して叩き落としていた。
出だしは順調。すでに灯台までの道は出来かけていた。さて、問題は中だが、はたしてどうなるか……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます