ある日のギルド―商業・鍛冶

――団長の執務室――


「団長。これが今月の報告書だよ」

「ん?もうそんな時期か。それでトクサ、どうだった?」



 トクサは商業部門の販売を統括しているボーイッシュな副団長だ。

 商業部門にいるが、実は魔法の才もなかなかで幹部に匹敵する実力を持っているが、本人志願のもと今では商業部門でギルドの縁の下の力持ちとして頑張ってくれている。



「ボチボチだね。新規もちょっとずつ増えていってるよ」

「そうか。シュルツァは?商業部門の全権を預かってる者の意見を聞きたいな」



 シュルツァは商業部門全体の管理を行う事実上のトップであり、基本的には俺の許可が無くても独断で交渉等を自由に行える、ギルドで俺に次ぐの副団長だ。

 のほほんとしていながらも本音が隠しきれてない、というか隠す気が無い。

 性格にちょっと問題があるが、優秀なので黙認している。



「そうですね~。先程トクサが言ったように~、全体の利益は上昇しているので~、悪くはないかと~」

「悪くはない?」

「はい~。決して悪くはありませんよ~。でも~伸び悩んでいるのも事実ですからね~。管理を任されている以上は~、上を目指したいな~って思います~」

「……文句は直接本人たちに言ってくれ」


 シュルツァの悪い所は、決して正面からは言わないが、少し離れたところから本人が聞える程度の声で独り言のように文句を言うことだ。

 陰口ではないが、こちらの方が精神的に来るものがあるらしい。

 主に部下たちに。


「文句なんてそんな~。みんな頑張ってますから~文句なんてありませんよ~。ただ~ちょっと業績がイマイチだな~とも思いますけど~、わたし的には~そこそこ満足していますよ~?」

「疑問形の時点で不満だってわかるからな?」

「あはは。言葉の裏にある棘もとい鋭いナイフが隠しきれてないよ?」

「隠す気がないね……」

「わかっているなら二人も応えてやったらどうだ?」

「ふっふっふ。どれだけ仕入れても、それに応える鍛冶師と作ったものを捌く販売がしっかりしてくれないと無理なんだな~」

「おっと、ケフカまでボクを虐めるのかい?これじゃあ孤立無援だよ~」



 ケフカは仕入を統括している副団長。

 俺の弟子の一人で、武芸に精通している。

 荒事にも対応できると言って自ら仕入を担当すると申し出た良い娘だが、問題点はとにかく言動が軽いことくらいか。


 商業部門はこの3人がいる限り問題ないだろう。



「おちゃらけるのも程々にな。それで、実際どうなんだ?二人のところは」

「さっきも言ったけど、新規顧客も少しずつは増えてるんだよ?でも、やっぱり買い手を選ぶとなるとどうしてもね」

「うむ。素材に対して、鍛冶師の腕が追いついていないのも確かだからね~」

「それは~わたしたちの管轄ではないですから~」

「それもそうだな。あとで工房に行って確認してくるよ」

「さっすが団長。馬車馬のように働く~」


 三人は昔からこうだが、どうにも友達感覚でおれに接してくる。

 俺ってそんなに威厳がないか?


「事実だが、部下に言われると物凄く腹立つな」

「おおっと、団長様の機嫌を損ねちゃったかな~?」

「これは謝ったほうがいいんじゃないか?」

「左遷~?」

「……左遷はしないが、そのうち3人で素材採取に行かせるぞ?」

『申し訳ございませんでした!!!』

「わかればいい。が、次は無いからな?」

『肝に銘じます!!!』

「じゃあ、俺は工房に行くから、三人で今後の事を考えてくれ」


 三人は昔、俺から無理難題を押し付けられたことがあるからか、さっきみたいに脅すと真面目な表情をして敬礼してくる。

 普段からこうだともう少し安心して任せられるんだがな。




――工房――


「おーい、メテオラはいるか?」

「はいはい。ここにいますよー、団長」



 メテオラは鍛冶部門で武器を統括する副団長。

 ちっこいがドワーフではない。牛人族だ。

 本人は物凄く気にしており、俺以外が口にしようものなら喧嘩が始まる。

 たまにドジだが、元気に仕事をする優等生である。



「呼ばれた気がしたのでこのルノアール、団長の下に参上しました!」



 この無駄に元気いっぱいなのはルノアール。

 防具を統括――一応ではあるが――する副団長。

 天性の才能を評価して任せているが、実際のところはクアラのおかげでなんとかなっている状況。

 おかしいな。もう少し成長すると思っていたのに……



「ルノアールが元気になると工房全体の室温が5℃くらい上がっちゃうので団長にはなるべく来てほしくなかったです」

「ちょっとクアラ!そんなこと言っちゃダメでしょ!どうせ工房はいつでも熱いんだし。ルンはいつでもハイテンションじゃない!!」

「団長の匂いだー!!」

「こんな風に騒がしくなるから困るんですよ」



 苦言を呈しているのはクアラ。装飾や宝石などの鑑定を統括する副団長。

 しっかりしてそうで抜けているところがあるメテオラのサポートをしつつ、自由気ままにやりたいことをなんでもやってしまうルノアールの後始末をしている苦労人。彼女がいないと鍛冶部門が回らないほどである。



「お前らも相変わらずだな」

「いやー、褒めても何も出ませんよ?えへへ……」

「団長に褒められた!?今日は最高の防具が作れそうだよ!! 行ってくるね!!」


 何を勘違いしたのか、ルノアールが現れたかと思ったらすぐにどこかへ行ってしまった。リリー以上の行動力だな。


「はぁ……ルンは相変わらず、団長が来ると一気にテンションが上がって何をするか分からなくなるから困るんだよね」 

「団長の教育に問題あり、ということですね。あの方に報告しなくては」

「……報告しなくていい。ややこしくなるだけだから。それで、トクサたちから努力が足りないという報告を受けたけど、実際のところはどうなんだ?」

「やっぱり人材が不足してますね。要求されるレベルが高いから、それに応えられる腕前を持ってる娘が少ないです。今で5人ほどですが、それでもやっぱり足りないですね」

「防具に関してはルンが頑張ってどうにか間に合ってますが、武器はちょっとまずいです。正直、そろそろテコ入れしないと信用にかかわりかねないかと」



 ウチの鍛冶部門は基本的にウチの団員の整備等がメインだが、それだけではギルドがなりたたないため武具の製造と販売もしている。

 ウチの売りは素材の良さなのだが、素材が上質な物になるほど加工は難しい。

 そのため、ウチの人間でも限られた者しか加工できない。


 しかし、需要というものはそんな俺達の状況を考慮しないので、武器と防具の両方で製造が追いつかないという事態になっている。

 これは以前から存在した問題で、一朝一夕で解決する問題ではないから後回しにしていたが、ようやく光明が見えてきた。



「……弟子を鍛える気はあるか?」

「弟子…ですか。今はそんな余裕も無い状況なのでなんとも言えないです」

「弟子を入れても即戦力にはなり得ないと思いますが?」

「ああ、弟子と言っても技術は十分だ。それはこの目で確認している。今の余裕のない数名の仕事を肩代わりできるくらいには使えるぞ」

「なるほど。それで確認したんですね。いいですよ、ワタシのところで」

「では、後程資料をください。人材管理も私の仕事ですから」

「あとでカルネに届けさせる。弟子は計6人だ。2人は即戦力になるだろうから、今はそれで頑張ってくれ」

「わかりました! 弟子の育成は任せてください!!」

「あなたは仕事に集中していればいいですから、育成は他の娘にお願いします」


 新しい弟子が増えるということで喜んでいたメテオラの顔が一気に絶望したような顔に変化した。表情豊かだなー。


「……ワタシの弟子だよ?」

「今は忙しい時なので我儘はなしです。では団長、仕事に戻らせて頂きますね」

「ああ、手間を取らせて悪かった。今夜も良い酒を用意して待ってる」

「楽しみにしておきます。行きますよ、メテオラ」

「ワタシの弟子~!」


 クアラがいる限りはここも問題なさそうだな。

 いや、問題だらけなんだけどな?



「――団長!もう戻るの?」

「ルノアールか。仕事がまだあるからな。俺は戻らなくちゃならない」

「もう少し一緒にいたいな~」

「仕事が終わればまた話せるさ。クアラたちに迷惑をかけるなよ?」

「むぅ~子供扱いしないで!これでもオトナなんだから!!」


 ルノアールは見た目子供だが、実は20歳を超えている。

 人間でいえば大人なのだが、彼女の種族ではまだまだ子供だ。

 彼女は犬人族だ。

 犬人族は30歳を超えてから徐々に体が大きくなっていく、ちょっと変わった種族だ。


「じゃあ、もう少しクアラたちのように慎ましさを覚えないとな」

「つつましさ?」

「要は、もう少し落ち着いて行動できるようになれってことだ」

「………無理」

「……じゃあまだまだ子供だな」

「犬人族は動き回らないと死ぬの!」

「いや、それは嘘だから」

「―――むぅ~、団長のイジワル!」

「また拗ねちゃったよ……クアラにフォローを任せるか」

 


 こっちもこっちでなかなかに個性的なメンバーばかり。

 よくもまあこんなメンバーが集まったものだと、自分で感心してしまうほどだ。

 ちなみに、商業部門60名、鍛冶部門60名、冒険者部門180名が所属するのが俺のギルドだ。

 王都でである。実力は一番だけどな?

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