魔人討伐
どうやら本当に、魔人が三体もいるようです。
魔人が二体いるだけでも珍しいのに、三体もいるなんて。
「これから魔人が占拠した町を奪還します」
「町の人達は大丈夫なのですか?」
「団長によると、兵士のみ殺されているとのことです」
「酷い有様ね」
兵士のみということは、戦意の有無で殺すべき対象と捕虜にすべき対象とを識別しているのでしょうか?
魔人は知性があっても理性がないって言われていますが、今回の魔人は期待できないでしょう。
「今回は火の魔人が相手です。ただし目標が3体なので我々4人が派遣されました。私はサポートですが」
「水系統の子を派遣した方が良かったのでは?」
「だからガルシアがいるだろう?」
「そうね。レーネでもよかったとは思うけど」
今回派遣されたメンバーは『魔女』のクリス、『戦乙女』のガルシアとセレナ。
監督役は私、『天使』のカルネです。
「団長の采配ですので文句は団長にどうぞ」
「問題ないですね」
「ないな」
「ないわ」
クリス、セレナ、ガルシアが真顔で返して来ました。
皆さん………
「団長に言うのがそんなに怖いですか」
「誰も怖いとは思ってないですよ」
「うむ。別に怖いわけではない」
「ただ嫌われたくないだけよ」
乙女か!……いえ、みんな乙女なんですけどね?
それでも思わずにはいられませんでした。
「もういいでしょう?それよりも魔人をどうするかの話をしましょう」
「クリス……そうね。この話はあとでいくらでも出来るわね」
「このメンバーなら決まったようなものだが、何か策はあるのか?」
「そうですね……なるべく3人とも離れて戦ってください」
「なぜだ?」
セレナだけ声を出しましたが、クリスもガルシアも同じ反応です。
まあ、当然ですよね。分かってました。
団長からも、事前に伝えておくように、と厳命されていましたのでちゃんと伝えます。
「今回の相手は通常の個体とは異なるので、なるべく引き離して各個撃破するようにとのことです。でなければ、最悪長期戦になるとも仰っておりました」
「泥仕合になると?美しくないわね。イヤよ?長引くのは」
「長期戦の準備をしていない我々には厳しい戦いになりそうだ」
この3人は自己主張がとりわけ激しいので団長を持ち出さないと話がなかなか進まないんですよね。まだ、他のところの方が楽でいいですね。
ああ……早く戻って密室の中、団長の側にずっといたいです!
「一掃した方が綺麗に終われそうだけど、団長の指示なら仕方ないわね」
「わかってもらえてなによりです。不測の事態に備えて私は上空からの監視に徹します。何かあればすぐに伝えますので、あまりのめり込まないでくださいね?」
「私はいつも通りにやりますよ」
「私もいつも通り華麗に舞うわ」
「いつも通り油断せず戦うだけだ」
「では、各自持ち場に移動を」
『了解』
皆さん戦闘になると真面目になるからわからないものです。
幹部全員が共通している唯一の点ですね。
あっ……恋している点も一緒でしたね。
「目的地に着きました。始めてもいいですか?」
「まだ待ってください」
「着いたわよ」
「こちらも到着したよ」
「では始めてください。結界は張りますから、全力で構いませんよ。住民のことも気にしなくて大丈夫です」
私達『天使』の仕事のうちに、皆さんの任務のサポートがあります。
結界構築はそのうちの一つです。住民の避難誘導なんかもあります。
「では――『
「優雅に可憐に大胆に!『血潮洗う風雅な清流』」
「来たな。では、参ろうか。『青天より来る極光』」
はじめから全力のようです。団長からの忠告が功を奏したみたいですね。
団長は偉大ですね、ええ。
それぞれが戦闘を始めておよそ十分ほど。
上空から観測しているので分かってはいますが、状況を確認しておきます。
「首尾はどうですか?」
「順調ですよ。あと一押しで終わりそうです」
「こちらも。歯応えが無くってつまらないわ」
「特に脅威を感じないんだけど」
「そうですか。なら、今回は団長の杞憂ということに――」
さすがに全体を見続けるのは疲れるので、能力を制限しようと思ったその時、クリスの焦った声が聞こえてきました。
「なっ……急に走り出しました!」
「こちらも確認。どこに向かっているの?」
「他のところも一緒か」
「これは……」
三人はY字の道路の端で戦っていましたが、突如、魔人たちが三つの道路の交わるところに集合したのを確認。
その直後、魔人たちが巻き起こした土煙のせいで視界が悪いためまだ確認できていませんが、急激な魔力の高まりで御三方は状況を察している事でしょう。
「何があったんですか?」
「早く教えなさい!」
「手遅れだな」
団長はこれを予見していた…?
だから各個撃破するように指示を…?
「説明を!」
「端的に言います。合体しました」
『合体!!?』
驚いているのは私も同じです!
こんなこと、今まで一度もなかったのに……。
「この目でその瞬間を確認しました。合体です」
「合体して何か変わったのか?」
「単純に3体分の魔力が1つにまとまったみたいです。それから、頭が3つに腕が6本です。体も一回り大きくもなりました」
「初めてだが、対処はこれまで通り、魔人と同じでいいのかな?」
「どうでしょう。これまでに無い行動の可能性があります」
少しの沈黙。皆初めての経験に頭を悩ませているようです。
私も対策を考えますが……戦闘職ではないのでなかなか思い浮かびません。
「なら、私が仕掛けるわ」
「サポートは任せてください」
「決定打は自分がもらうとしよう」
「皆さん気を付けてくださいね」
「合体しても魔人は魔人。やることは変わらないわ。その命を絶って、終わらせるだけよ」
「『楽園』を維持します」
「油断はなしだぞ?」
「誰に物を言ってるのかしら?」
残念ながら、団長の危惧は的中してしまいました。
まさか、三面六臂の怪物をこの目で見ることになるとは思いませんでした。
三つの顔が常に全方位を見ており、攻撃を仕掛けても全て防がれてしまい、全くダメージを負わせることが出来ていません。
さらに、これまで見たことがない魔法も使ってきます。
厄介なことこの上ないですね。
「さて、どうしたものか……」
「今の状態では勝てませんわね」
「……本気でいきますか?」
「本気でお願いしますね」
この状況で出し惜しみしている場合ではありません。
これ以上は我々もただでは済まなくなる可能性が出てきましたから。
「了解した。クリス、君が先鋒を頼む」
「私がラストかしら?」
「そういうことだ。私が道を斬り拓こう」
クリス、セレナ、ガルシアの順で一直線に魔人へ駆ける。
「斬り拓くための力を。『収斂されし灼煌』『隔絶された聖域』」
「ここが正念場ですね。『
「一段上げないといけないわね。『研ぎ澄まし束ねる流水』」
一人目のクリスが魔法で極限まで強化した剣で斬りかかると、魔人はそれを魔法で作った斧、剣、棍棒、斧槍で受け止めます。
二人目のセレナによる光・風・雷・火・水・土・氷の七属性魔法による多段攻撃は、残る二本の腕が持つ槍を振り回して払いました。
そして三人目、ガルシアはセレナの攻撃によって生まれた爆風を利用して背後から奇襲を仕掛けましたが、背面を警戒していた顔に見られて防御され失敗です。
「思っていた以上に面倒ですね!」
「三つの顔で常に全方位を見ているから隙が無いし、一つの顔につき我々一人一人をマークしている」
「近付こうとすれば炎で周りを囲い」
「離れて戦おうとすれば自分から近付いてくると」
「火の威力が増した点も脅威の一つですね」
威力の上昇、攻撃手段の増加、攻撃パターンの変化。
さらに、相手によって戦い方を変えるだけの知性まで備えてるなんて。
「団長に後で文句の一つでも言わないと気が治まらないわね」
「その前にあれを倒さないとですが」
「なかなか近付けないね」
彼女達でも苦戦するくらいには手強い相手のようですね。
これでは他のギルドは対処できないのでは…?
「私が――」
「いや、ガルシアはトドメを」
「でも」
「今度こそ私が斬り拓こう。久しぶりにあれを使う」
アレ…?ああっ! アレですか!!
「では、先程と同じく露払いは自分が」
「二人に任せるわ。私は切ることだけに集中する」
「行きます! 『紅蓮喰らう蒼き劫火』!!」
「任せてくれ!『神をも焼き殺す日輪』!!」
「あとは任せなさい!『荒波切り裂く月の欠片』!!」
まず、クリスの魔剣から放たれた蒼い炎が魔人の身を守る炎を消滅させ。
次にセレナの極高温の剣が、防御しようとした腕六本を諸共に斬り飛ばし。
最後に、ガルシアの水を纏う鎌が本体を逆袈裟切りの要領で切り裂きました。
魔人の心臓である核が斬られると、魔人の体は爆発四散して塵へと変わり、核を残して消えていきました。
「任務完了です。帰りましょう」
「久しぶりに手こずりましたね」
「まさか、ここまで苦戦するとは思わなかったな」
「このメンバーが選ばれた理由がわかったわね」
炎を無力化出来る者がいなかったら討伐出来なかったでしょう。
ただ、光で炎を灼き尽くすなんて荒業は、彼女以外に出来ないですけどね。
「そうですね。他のメンバーではあの炎の壁は越えられなかったでしょう」
「ただ、悪い知らせでもあります」
「他の魔人も合体する可能性がある以上、油断出来ないな」
「帰ったらすぐ会議かしら」
「今日はもう休みたいですけどね」
「そうも言ってられないだろう。次がいつかわからないのだから」
「次はスパッと倒してあげるわ」
「そうだな。次はサクッと倒そう」
「もうこりごりです……」
結果的に倒せたからよかったですが、これからもあんな魔人が現れれば、対処するのに上位ギルドが必ず必要になってくるでしょう。
そうなると、下位ギルドしかいない街は真っ先に敵の手に落ちてしまう。
今回のように。
はぁ……ようやく団長のもとに帰れます。
何かご褒美があると嬉しいです。
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