巣窟殲滅戦 下
「あ~、もう!雑魚がわらわらとうざい!!」
「――ミノはどこ?」
「見てねえよっと!」
「……同じく」
戦闘開始から十分。
いまだにターゲットであるミノタウロスが姿を見せていないことが他のみんなも気になっているようね。
「シャルネは探知を!ネルファは範囲を広げて!!」
「――もっと広く。『世界樹の根』」
シャルネに索敵を任せて、ネルファの魔法で魔物たちの視界を奪って他の冒険者たちの援護をさせたはいいけど、消耗戦ね。
このままじゃ物量で押し切られそう。
「……『
「んじゃあもう一段階上げますか。『
‶ 状況報告を怠るな!ミノタウロスはどこだ!!″
‶ いまだ姿を確認していません!″
‶ なぜ雑魚ばかりなんだ!なんでミノは現れない!?″
「シャルネ! 周りを探って!!」
「――了解………いた。壁の中!!」
「なんですって!?」
特定の魔物でない限り、土の中を掘って移動することはないはずなのに!!
‶ 壁の中だと!?全員壁から距離をおけ!!″
‶ 全員離れて戦え!″
「一体だけなの?」
「――3体!三方向から来る!!」
「……『
シャルネの警告を受けて、ネルファが妨害魔法を発動してくれたみたい。
これで被害は多少抑えられるはず。
「きひひひひっ……アッハハハハハッ!パーティーの時間だ!!『
「あちゃー。スイッチ入っちゃったか。でも、仕方ないわよね」
「……離れよ」
‶「戦闘狂」が暴れ始めるぞ!気を付けろ!!″
‶ 巻き込まれないようにしろよ!!″
バチバチと電気を放つ翼を生やしたカルマの周りでは、近くで戦っていた冒険者たちが一斉に逃げ始めていた。
ははは………まあ、気持ちは分かるわ。
「他のギルドにまで認知されちゃってるのね。戦闘狂として」
「――それを言えば、団長と師匠たち以外はみんな知られてる」
「……それだけ有名だから」
団長と師匠のことを知っているのはごく一部だから当然よ。
私達ですら、全員が戦ってるところなんて見た事がないもの。
まして、団長なんて………
「それはそうと、私達もそろそろ本気出さないとね」
「――いいの?」
「……死ぬのはイヤ」
「そろそろ待つのも飽きてきたでしょ?」
シャルネもまた、隠れ戦闘狂だったりする。
無意識に手甲をかち合わせてるけど、本人は気付いてないみたい。
「――うむ」
「……疲れた」
「だから早く終わらせましょ。『万物熔融する災火』」
「――『天を堕とす大地の叫び』」
「……『光閉ざす無窮の闇』」
私も待つのに飽きたので、全力でやっちゃう……全力ではないか。
半全力くらいかしら?まあ、いいや。
‶ 他のメンバーも本気を出したぞ!近寄るなよ!!″
‶ 巻き込まれたら死ぬぞ!!″
‶ 壁が崩壊……ミノタウロスだ!現れたぞ!!″
「ようやくボスのお出ましね」
「キハハハハ!全てを喰らい尽くす!!」
「――始めから全力で」
「……さっさと終わらせる」
そんな柔い得物で私と戦おうなんて馬鹿じゃないの?石の斧程度で!
私の戦斧を相手にその程度の得物で渡り合えるわけ、ないじゃない!!
よしっ、終わり!
みんなはというと………
「遅い遅い遅い!!ノロマなんだよ!!!」
「――この程度?弱い」
「……これで最後。『全てを飲み込む大いなる虚無』」
他の二人も、キッチリとミノを倒したようね。
シャルネは一撃目の鳩尾へのアッパーでミノタウロスの巨体を浮かせると、二撃目のかかと落としで頭を地面に勢いよく叩きつけた。鈍い音がしたからたぶんミノタウロスの頭蓋骨は砕けたでしょうね。
カルマは縦横無尽に飛び回って撹乱しつつ、持っていた銃と翼の遠距離攻撃に徹していたため、終始ミノタウロスに何もさせなかった。死体撃ちは行儀悪いからやめなさい。
ネルファは雑魚狩りお疲れ様。最後に一瞬で闇の中に落としたわね。
アレって確か、超重力と見えない何かが潜んでるヤバい空間じゃなかったかしら?……深く追求するのはやめておきましょう。知らない方がいいこともあるって私は学習してるから。
‶ あれだけいた魔物が一掃された……″
‶ 見た目最弱みたいな魔法使いがこんなに強力な魔法を…?″
‶ だから言ってるだろ、新人。あそこのメンバーを見た目で判断するなって″
‶ あれで一個のギルド並みの戦力なんだからな″
‶ マジっすか……″
さすがに私達でも一ギルド分の戦力ではないわよ?
「これで全部?」
「もう獲物はいねーのか?」
「――戦闘終了。殲滅を確認」
「……魔法解除」
「じゃあ、帰りましょうか」
任務も終わり、それなりに力を出せたからか来た時よりは気分が良いわ。
ネルファ以外も元気になったみたい。
おかしいな、私も戦闘狂みたいじゃない。断じて、断じて私は違うわよ!
「あー、暴れた暴れた。ごちそうさん」
「――まだ物足りない」
「……早く寝たい」
「今日はとりあえず帰るわよ。団長に報告しないと」
「よろしく~」
「――ご褒美あるか?」
「……わからない」
帰ったらご褒美があるかしら?
今は……アイスが食べたいわね。
‶ ふ~……俺達、生きてるんだな。″
‶ みたいだな。「花園」がいなかったらどうなってたか。″
‶ 奇襲をモロに受けて壊滅してただろうな。″
‶「赤い稲妻」の光速戦闘をこの目で見られる日が来るとは……″
‶「小さな巨人」も凄まじい近接戦闘と重力魔法だった。″
‶「骸操者」の広範囲闇魔法も。滅多に見れないからな。″
‶「断罪者」の容赦のなさは相変わらずだった。″
「ただいま戻ったわ、団長」
「おかえり。どうだった?途中から見てなかったんだよ」
視線を感じないと思ったら……何かあったのかしら?
「普通のミノタウロスの2倍以上の体長があったわ」
「強さは?」
「喰い足りなかったぜ~」
「――消化不良」
「……わたしは戦ってない」
まあ、そうよね。全力には程遠かったもの。
「う~ん。やっぱりみんなこの程度では満足しないか」
「他のチームは?」
「まだだ。お前らが一番。防衛組がじきに帰って来る」
「――ご褒美は?」
「ああ、あるよ。食堂にあるから行ってこい」
「じゃあ、今日はこれで終わりか?」
「そうだ。だが、全員が集まってから会議だ。それまでは休憩しててくれ」
「……布団」
「――食堂に直行」
「じゃあ、お風呂に行くわ。シャルネ、ちゃんとみんなの分を残しなさいよ」
この子、団長の買ってきた食べ物は基本夢中で食べ続けて全て食うことあるから、事前に注意しておかないと食べそびれてしまうのよね。
「自分も後から食堂行こ~」
「――団長は?」
「俺は仕事をしながら他の報告を待つ」
「――つまらない」
「余裕があるなら後で食堂に来てよ」
「今日の武勇伝でも聞かせるぜ~」
「暇があればな。とにかくお前らはもう休め」
『了解』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます