巣窟殲滅戦 上

 今回のメンバーは、一応リーダーの私、『戦乙女』のプレアとカルマ、『魔女』のネルファとシャルネの四人。

 『天使』は不在だから団長が監視中。


「今回はこのメンバーなのね」

「――ちなみに団長が監視中」

「やだねー。監視なんて」


 原因は先日の一件でしょうね。

 そんなに信頼されてないのかしら?


「……それよりも人多い」

「ネルファは相変わらず人が多い所が苦手ね」

「――私も嫌いだ」

「早く帰って寝てー」

「……カルマも相変わらず」

「みんないつも通りってことね」



“ 今回は4ギルド合同で魔物の巣窟を潰す!洞窟に関する事前の情報は無いため、十分に注意しながら進んで欲しい。巣窟の主は「ミノタウロス」とのこと。ただし、普通のモノとは大きく異なる点がある。それは、巨大であること、そして火を吹くこと。この点に注意してほしい。以上だ!”



「だそうよ。みんな気を付けてね」

「――巨大なのか」

「巨体ならプレアでしょ」


 適当な事を言わないでほしいわ。

 別に大型専門というわけじゃないんだから。


「……シャルネでもいいのでは?」

「人に押し付けないで!自分たちでもやりなさいよ!!」


 サボりが二人もいると手に負えないわ!

 また、うちのギルドの評判を下げることになっちゃうじゃない!

 そうなると、まとめ役の私が嫌味を言われるのよ、他のメンバーに!!


「――私は構わない」

「面倒事は嫌ですよー」

「……私に重労働は無理」


 この三人は……!!


「団長が見てるなら少しはやる気を見せなさいよ!!」

「――私はいつも通り頑張るだけ」

「楽しければなんでもいいよ」

「……やるだけやったら許して」

「消極的過ぎでしょ!!」


 団長の名を出してもやる気を出さないなんて、筋金入りね。

 うぅ…先が思いやられるわ………

 



“ 緊張感がねえな”

“ あれだけ騒がしいと魔物が出てくんじゃねえか?”

“ いつもああだから仕方ねえだろ”

“ あれで最強ギルドの一員なんだから驚きだけどな”

“ 見た目に騙されちゃいけねえぞ。あれで幹部なんだからな”

“ しかもまだ上に8人いるから戦慄するわ”




「本人たちを前に好き放題言い過ぎでしょ」


 人の事を色目で見たりしたかと思ったら、今度はバケモノ扱い。

 男って勝手ね。


「――師匠に会いたいな」

「あーヤダな。あの人に会いたくねえわ」

「……師匠」


 うっ、師匠を思い出したら寒気が……。

 私にとっては恐怖の象徴みたいなものよ。


「さ、さて、師匠たちの話は置いといて、これからのことを話し合うわよ」

「――正面突破」

「猪突猛進、ここに現るってねー」

「……全部任せたら?」

「そんなこと許されるわけないでしょ。第一、団長から今回は私達でないと倒せないって伝言が来てるのよ」


 やる気が全くない二人にやる気を出させるためにあえて口にしたけど、思っていた以上の効果があったみたい。


「――私達期待されてる」

「ならやるっきゃないっしょ!」

「……面倒だけど頑張る」

「現金ね、あんたたち……」


 まあ、みんなに共通することだから仕方ないわよね。

 団長に頼りにされたらそれは嬉しいけどさ。

 かく言う私も少しだけ気分が上がってるし。


 道なりに進んでいたらどうやら広い場所に到着したみたい。

 前を行く男達は道中の魔物たちを楽に倒せたせいか、どうにも油断している雰囲気があるわね。

 これじゃああっさり死んじゃうんじゃないかしら?


“ おい!最初の部屋に到着だ!!”

“ 途中の敵はそんなに強くなかったな”

“ 群れの長だけってのはよくある話だろ”

“ このままいけば「花園」の出番はなしだな”

“ テメエら油断すんなよ!各自調査ののち休息を少ししたら出発だ。武器の点検を怠るな! ”


「だそうよ」

「――やることがない」

「暇なのはいいことっしょ」

「……嫌な予感」

「ネルファの勘は団長譲りのに基づくものだからよく当たるのよね」


 どれだけ精度が高いかというと、遠征で森を歩いていたら、突然止まって危険が目の前にあるって言うから調べたら、まさかの地進蟲――地中を掘り進む芋虫みたいなの――がいたくらい。さすがにあれには肝を冷やしたわ。


「――あれが俗に言う、予言」

「つまり自分らの出番が近いってことか」

「……もうすぐそこ」


“ 団長!足跡見つけました!!”

“ どうだ?”

“……これまで確認されたモノより一回りは大きいです。”

“ 事前情報は正しかったという事か。みんな、警戒しろ!”


「そういえば気になってたんだけどさ、事前情報を渡したのは誰なんだろう?」

「さあ?団長かもね」

「――あの人はそんなに優しくない」

「……私も団長ではないと思う」

「じゃあ誰よ?」


 まさか……未来人?なわけないわよね。


「聞いてみたら?答えは分かりきってるけど」

「――罠の可能性?」

「……誘いこまれたかも」

「なんにせよ、後戻りという選択肢は無いわよ。さっさと倒してこの洞窟から出ましょう。気味が悪いわ」


 さっきから冷たい風が首を撫でるからゾクゾクして仕方ないし。

 早く出たい早く出たい早く出たい。

 気分が下がって尻尾も垂れちゃうわ。


「おっ、ビビッてるのかな?」

「なわけないでしょ!」

「――怖がり?」

「違うわよ!」

「……ここは落ち着く。暗いし、狭いから」

「あなたにとっては最高の環境なのね……」


 普段から地下にいるからか、ネルファにとっては居心地の良い場所みたい。

 私には理解出来ないわ。

 早くこのジメジメした場所から日の光がある場所に出たい。


“ おい!行き止まりだぞ!!”

“ どこかに部屋があったのか?それとも何か見落としたのか?”


 広い部屋からさらに進んで辿り着いたのは大部屋だった。これ以上は先に行けないからここが最奥だけど……何か怪しい。


「シャルネ、お願い」


 洞窟においては彼女ほど索敵能力の高い者はそうそういない。

 地面に手をついたシャルネは、目を閉じて耳に集中するように呪文を唱える。


「――『地を這う根』」

「洞窟だと便利だねー」

「……あった?」

「――うむ。これはまずい。嵌められた。隠し通路があるぞ」

「やっぱり。てことはこっちに向かってる?」


 ものの見事に魔物の策に嵌まってしまったようね。

 敵に頭の回るヤツがいたってことか。

 今は考えても仕方ないから頭の片隅にでも追いやっておきましょう。


「袋の鼠ってやつだね!」

「……笑ってる場合じゃない」

「全員戦闘準備!来るわよ!!」


“ おいおい冗談だろ…?俺達は罠に嵌められたってのか?魔物に?”

“ 今はとにかく目の前の事に集中しろ!死にたくなければな!!”


「これが団長の示した事態ってことね」

「ここまでくると神様だね!」

「――あと三十秒」

「……はあ」


 各々の武器を構えて臨戦態勢を取り、四人で背中合わせになって周りを警戒。

 時間通りに魔物たちは襲来。正確な情報ね!


“ 来たぞ!かかれ!!”

“ うおおー!!”


「自分らも始めますか。『一条の光ライトニング』」

「私とシャルネで前面に出るわよ!『戦神の腕バスター』」

「――任された。『極大地ガイア』」

「……面倒だけど死にたくないから頑張る。『暗く底無き安寧ダークネス』」

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