都市防衛戦 下
――南門――
「面倒ね。……不本意だけど、本気を出すとしましょう」
『おい!全員撤退した。あとはあんただけだ!』
「そう。なら遠慮はしないわ。『
『……冗談だろ。一瞬で一面氷の世界にするのかよ……』
『しかも吹雪まで……』
「さて、私の世界で死ぬまで踊れ」
氷の女王はヴェノムサーペントへ吹雪を叩きつける。それだけでなく、無数の氷の槍と剣も舞っている。
大蛇は凍りついて身動きが取れず、降り注ぐ刃に少しずつ鱗を削がれ、ただ悲鳴を上げることしかできないでいる。
――東門――
「面倒っすねー。街を壊しちゃいけないってのわ」
『おーい!言われた通りに結界を張っておいたぞ!!』
「おっ、間に合いましたか。あと少しで問答無用で全力出しちゃってましたよ」
『もって5分だからな!それまでには終わらせてくれよ!!』
「十分すよ。んじゃ行きますか。『
戦場に紅蓮の悪魔が降臨した。
手には二丁の銃、目は赤黒く光り、尻尾まで生えている。
果たして、バーサークベアーが死ぬのが先か、街が溶けるのが先か。
――西門――
「はあ、まだ終わらないの?そろそろ始めたいんだけど」
『もう少し待ってくれ!あと十人だ!!』
「……あと1分」
『 野郎ども急げ!死地に変わる前に!!』
「―――もういいか。『常に傍らに潜む深淵』」
『急げ!飲み込まれるぞ!!』
「別に飲み込むものではないのに。まあいいか、始めよう。ここがお前にとっての最後の舞踏会だ」
街の一部が黒色に染まる。昼間なのに、影がその区域を支配しているのだ。
ベオウルフも異様な光景に脚を止めずにはいられなかった。
――北門――
「――まだダメ?」
「もう少しの辛抱ですよ」
『急げ!邪魔者になる前に逃げろ!!』
「……もういいですね。始めていいですよ」
「――了解。『
「私も行きますか。――『我がために戦う者に勝利と栄光を 我に刃向ける者に裁きを この舞は勇気ある者のために 彼の者らに光の祝福のあらんことを』」
大槍を右手に、大盾を左手に、純白の衣装と一切の曇りが無い白銀の鎧を纏ったシロが、街を踏み砕いて舞い降りる。
元居た場所ではクシュリナが舞い踊っている。
――南門――
「そろそろ終わりね。あまり遊ぶと団長に怒られるから。『零下の息吹』」
『冗談だろ。あのヴェノムサーペントを一瞬で凍結させるなんて……』
「これで終わり。他のところもそろそろね」
大蛇の咬みつきを回避して頭上に移動したレーネは、細剣を突き刺すと魔法を唱えた。すると、大蛇はあっと言う間に氷の彫像へと姿を変えた。
――東門――
「そろそろ限界時間すかね?」
『あと1分だ!』
「じゃあ終わらせますかね。《焦土生み出せ》『紅蓮の雷』」
『あの熊を一撃で灰に……』
「まあ、こんなもんすかね」
紅蓮の悪魔が撃ち出した弾丸は一瞬でバラけると、光の速さで魔物へ殺到。
大熊に着弾すると同時に紅い雷が生じ、瞬時に炭へと変化させた。
後には一切の灰も残らなかった。
――西門――
「他もラストか。なら、こっちもそろそろ幕引きだね。『避けられぬ悪夢』」
『……何が起きた?全方位から矢が飛んでたような。ベオウルフが終始一方的に
「それで合ってるよ。よく出来ました。花丸をあげようか?」
『だが、どうやって……』
「それは秘密。教えるわけがないだろう?まあ、教えたところで出来るはずもないけど」
狼は、その身に真っ黒の矢を受けて絶命していた。
矢はあらゆる方向から刺さっている。その数はゆうに三十本を超えている。
隙間なく刺さっているため、もはや原形を確認することは出来ない。
――北門――
「シロさん。そろそろ終わらせてください」
「――『
『………あの巨体を吹き飛ばすのか』
キマイラが突進をしてくるタイミングで、シロは自身に身体強化魔法を付与して逆に大盾で殴り返した。
重く鈍い衝撃音のあと、キマイラが吹き飛んで建物に突っ込んでいった。
「シロさん、トドメを」
「――了解。さよなら、哀しき獣さん」
「――これでお菓子は大丈夫?」
「えらいですよ。今回は街を破壊しませんでしたから、団長に褒めてもらえるかもしれませんね」
「――ご褒美!」
「任務完了です。皆さんと合流しましょう」
大盾で弾き飛ばされたキマイラの二つの頭――蛇と羊の頭――は潰れていた。
最後の獅子は脳天を大槍で穿たれており、それはシロのせめてもの慈悲だった。
「団長の言ってた通りね」
「随分と立派に成長したもんだね」
「こちらも確認したよ」
「――大きかった」
「とりあえず、任務は完了したので戻って団長に報告しましょう」
『了解』
“「吹雪の女王」は凄かったぞ!一瞬で銀世界を作り出して!”
“「眠る炎獅子」もなかなかだった!あの炎のような雷!!”
“「隠者」の一方的な戦いが一番だって!影を利用した戦術!! 痺れたぜっ!!”
“ シロちゃんが人形みたいで可愛かった。しかし、あれが「戦車」か……”
“ いや、やっぱり一番は「舞姫」だ! あんなに妖艶にして神聖な踊りはないねっ!!”
彼女達の戦いを見ていた者達は、死にかけたことも忘れて今日その目に焼き付けられた光景を、思いつく限りの言葉で集まった者達に語って聞かせるのだった。
――――――
一方、彼女達はと言うと―――
「ご苦労さん。今回は街自体の被害が少なく済んだから小言は無しだ。それで、報告を聞こうか。どうだった?」
良かった。今回は特に怒られることもないんですね。
まあ、怒られても皆さんにとっては御褒美みたいなものでしょうけど。
「あれが団長が言っていた特異種なのですね。確かに、今まで見てきた種類とはかけ離れており、大きさも能力も別次元でした」
「とくいしゅ?なに、新しいお菓子の名前っすか?」
違いますよ、アルマさん。そんなお菓子があるはずないじゃないですか。
それにお菓子って単語に反応する子がここに………
「――お菓子!」
「そうでしたね。シロさんにはお菓子をあげないと……」
「それなら買って来てあるぞ。食堂に人数分のアイスがあるから後で食べてくれ。早い者勝ちだからな。ただし、一人1個まで」
いつものことです。ちゃんと任務を達成できるとご褒美のおやつを買って来てくれるのが我らが団長の一つの魅力ですね。
気遣いが出来る人は違います。
「それで団長。これからどうするんですか?」
「ん~当分は特に何もしない。彼女たちが帰って来たら、本格的に動き出すつもりだ。だから、その間は情報収集を頑張ってくれ」
「他のギルドに伝えなくても?」
まあ、伝えたところで役立てられたりしないんですけどね。
「今日の事はすぐにでも情報共有される。そうなれば国王にも情報がいって勝手に対策会議をするはずだ」
「その場合、我々に多く仕事が回って来るのでは?」
「みんな鍛えられるだろう?新人も古参も」
「新人教育にあれらを使うと…?」
「最近は龍が現れないからな、丁度良いだろう。一石三鳥くらい効率が良いと思わないか?」
「まあ、多少は歯ごたえがありましたが……」
ただ、新人にあれらを任せるのは荷が重すぎると思うのですが…?
下手したら死人が出ますよ。
「まだ足りないか?」
「正直、全力には程遠かったです」
まあ、皆さんはそうですよね。
レーネさんなんて、片手間で雑魚も狩ってましたものね。
「クシュリナは見ててどうだった?」
「そうですね……シロさんには物足りなかったのではないかと思わせるくらいの実力差がありましたね」
「お前らが相手だと物足りんか。せいぜいストレス発散程度だな」
「――行っていい?」
「ん?ああ、いいぞ。今日はお疲れさん。あとは休んでいいからな」
このあと、こっそりあの件を報告したら飴とジュースをもらっちゃいました。
撫でて欲しかったのに~。
――甘いです。ええ、そして気分はほろ苦いです。
まだまだ団長に意識してもらうには道が遠いです。
でも諦めませんから!
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