サラマンダー討伐
早速ですが、帰っていいですか?
このメンバーをまとめる役目は私には荷が重いんですけどー!
団長は馬鹿ですかー!!
「ねえねえ、今日は何を狩るの?」
「予定では、先の魔人が飼っていたサラマンダーが近くの山にいるから、他のギルドと合同で狩りに行くの」
「めんどくせー。さっさとあたしらで狩りに行けば話は早えのによ。なんでよそ者と一緒に行動しなくちゃならねえんだよ」
「仕事はまだ?」
「しかも今回は仕事馬鹿がいるし」
うぅー、憂鬱です。
今回は団長の意向で『魔女』と『戦乙女』の混成部隊に加え、『天使』の一人が監視役として派遣されています。この部隊には私ことクロエです。
この2つのグループは普段から何かと衝突するので胃が痛いんですよぉ……。
しかも、今回のメンバーは、『魔女』からリリーとダリア、『戦乙女』からアカネという、戦闘に思考が偏ったメンバーばかりです。
「私の方が願い下げだ。しかし、今回は団長の意向。逆らえるわけがない」
「ちっ!団長も何考えてるんだか」
「リリーは大人数のほうが楽しいよ!」
「それはお前だけだ。周りを見ろ。みんなあたしらを避けてやがるだろ?」
「んー、仲良くしたいのになー」
「今は大人しくしていてね?そろそろ説明があるはずだから」
『今日は集まって頂き感謝申し上げる。さて、堅苦しい挨拶はこの辺で。今日集まってもらったのは、先日討伐された魔人のペットのサラマンダーが近くの山に居座っているとの報告があったので、その討伐をお願いしたいからです。報酬は事前に提示した通りの額です。今回は山分けとさせて頂きます。ではこれより、対象の特徴を報告してもらいます。――――』
「山分け?」
「はい。今回は山分けということになってます。団長もそれを了承して私達を派遣してますから」
「山分けってことは…いつもの早い者勝ちじゃないってことか?」
「そういうことになります」
普段の任務は早い者勝ちです。
討伐した人が報告に戻った際、職員が持つ水晶で過去を遡って――限界は六時間ほど――事実を確認し、本人に報酬が支払われる制度です。
長期ないし遠方にて行われる任務に関しては、一つのギルド、ないしクランに要請されるため、前記のような手続きは不要となります。
今回の場合は、複数ギルドによる合同遠征のため、全てのギルドに等しく報酬が支払われます。
ただ、ギルドやクランの規模に応じて若干の差があります。
我々の報酬金は他ギルドよりも常に多いです。
「どうでもいい。戦えるのなら」
「相変わらず脳筋だな、あんたは。戦う事しか頭にないなんてさ」
「……貴様には言われたくはない。強者との闘いを求める変態め」
「あん?言ってくれるね。なんだい、やろうってのか?」
「御二人ともやめてください。御目付け役が来ますよ?」
「それはいやだ」
「これ以上増えるのは勘弁だね」
「喧嘩はダメ!だよ?」
“ 随分と余裕があるみたいだな。”
“ 天下の『花園』だからな。魔人だろうとなんだろうと余裕だろうさ。”
“ いっそあいつらに全て押し付ければいいのに。”
時々あることです。
我々との合同任務に就いたギルドクランが何もせず、我々に押し付けようとする。
まあ、そんなことをしても国の職員にはバレバレなんですけどね。
発覚した場合はペナルティが課され、上限に達すると罰が下されます。
当たり前ですね。
「情けねえこと言ってんな」
「私達だけでさっさと倒しに行こう」
「リリーも早く行きたい!」
「今回は他の方々がいますから、抜け駆けは無しです」
この三人の手綱を握るのは大変です。
ギルドでは団長と師匠たちでない限り制御不能でしょうね。
まったく、困った人達です。
「なら、あたしらはトリでいいのか?」
「私にかかれば一瞬で終わらせられるのに」
「また待つの?」
「そういうことになってしまいますね……。他のギルドが倒せなかった時は私達の出番ですから、それまでは雑魚狩りでもしていましょう」
まあ、我々が招集されている時点で簡単な任務ではないことは確かなのですが。
出番がないことを祈るばかりです。この御三方が暴れないためにも。
「――結局こうなるのかよ」
「予想通りで拍子抜けだ」
「みんなやられちゃった!」
残念ながら、今日もまた、他の方々では対処しきれなかったようです。
情けない話です。
これでは脳筋三人衆が暴れてしまうではないですか…!
「……皆さん出番です。どうぞ、存分にやっていいですよ」
「言われなくてもやってやるさ」
「早い者勝ちだな」
「リリーが一番!」
「『彼の者等に加護を 海神の雫よ』」
「ありがたいねー。これで全力でやれるってもんよ!」
「感謝」
戦闘となると、途端に仲良くなるのだから分らないものですね。
「涼しーい!ありがとう、クロエお姉ちゃん!」
「怪我だけはしないでくださいね?」
「あったりめえよ!『雷神の斧槍』!」
「『一刀龍・一尾』」
「いっくよー!『風刃乱舞』!」
「はあ……足止めします。『大地の鎖』」
街ではなく山だったのが唯一の救いです。
町だったら周囲を気にすることなく暴れ回った挙句、弁償しなければなりませんでしたからね。
どれだけサラマンダーが火を吹こうとも、三人には一切当たりません。
時折、リリーの起こす風で御二人に飛び火しかける場面もありましたが、それ以外は特に問題ありませんでした。
「――いっちょ上がり!」
「つまらなかった」
「うーん。まだまだ足りないなー」
「今日はこれで終わりです。帰りますよ」
連携らしい連携はないのに、どうしてこうも上手く戦えるのでしょうか?
“ あれが『雷の化身』か……凄まじいな。”
“『剣帝』の腕は相変わらずだな。刀の腕だけであれかよ。”
“『嗤う暴風』か……普段はあんなに可愛いのになー。”
“『聖母』クロエちゃん……”
「さっさと帰って団長に報告しようぜ」
「次の獲物は」
「ごっはんー!ごっはんー!!」
「今日はカレーでしたね」
サラマンダーくらいならこの三人がいれば問題ありませんね。
一人でもおそらく問題ないのに、過剰戦力にもほどがあります。
他のところも似た感じになっているでしょうね。
今回のはお試しということですかね?
……そろそろ動き出すということでしょうか?
でも、今回のようなパーティーは御免です。
心労がハンパないですから、団長にしっかり言わないと。
「おーい!帰るんだろ?行くぞー」
「ぼーっとしてた」
「おねむ?」
「今行きます!」
……まあ、今のパーティーは少しだけ居心地が良くなったかな?
「そんなだから団長にいいように使われてるんだぞ?」
「恋愛対象外」
「団長の秘書?みたいだよね!」
前言撤回です。
二度とこのパーティーで活動したくありません!!
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