第1話

俺は小さい頃、死後の世界と言うのはきっと天国と地獄に分かれているのだと信じていた。

罪の無い、純真無垢な魂のみが天国へと迎えられる。

そう目指して生きようとしていた筈だが、いつしか擦り切れそうな社会の中で、そんな思いは摩耗していった。

この現実と言う地獄から逃れるためには、他人を蹴落としてでも這い上がらねば。

そんな焦燥感が身を焦がす。

――そんな生き方だと、天国へは行けないよ?

きっと幼かった頃の自分が見れば、そう言うのだろう。

そしてその通り、俺は地獄へ落ちている。

ただ、思っていた地獄とはかなりかけ離れていたが……。



今俺は、同じ様に転生できなかった魂達と共に神様の話を聞いていた。

だが、言葉から一般的にイメージされる状況とは恐らく違うだろう。

魂は火の玉ではなく人型をしているし、服だって布の様な物ではなく一張羅を着ている。

隣のファンタジー世界出身の男は貴族か国王かと言った無駄に豪華なものだし、前のSF世界出身と思しき女は、ウェットスーツに軍服の様な物を羽織っている。

俺の場合はスーツだ。

他にも視界に入る中に、何人かまばらにスーツ姿が見える。

そんな集団が椅子に座り、長机を前にし、手元の資料を読みながら、登壇している神の話を聞いている。

そう――これではまるで。

「以上で、転生説明会を終了します」

そう、説明会だ。

死後、転生を待つ身となった俺はこの説明会に出るように告げられた。

確かに、この魂だけの世界で自分の姿や服を構成するといった有益な事を聞けたのは助かった。

だが、大半は心構えだの必要書類の書き方だの転生講習会だの、大凡死後の世界とは思えない話ばかりであった。

「なんで死んでからも、地獄の日々が続くんだ――」

針山や火炙り等と言ったことを思えば、これ位はどうと言うことは無いかもし。

だが、死んだら逃れられると思っていた苦しい日々が、死んでも続いているのだ。

一言愚痴りたくもなるというものだ。

意識を戻してふと周りを見れば、既にいくつかのグループが構成されていた。

隣のファンタジー男は前に座っているSF女を口説いているし、

他のスーツを来ていた連中も輪の中に溶け込んでいた。

既に出来上がっているグループに俺は声をかけることが出来ず、完全に出遅れた俺は一人取り残されていた。

転生と言う言葉を聞いて浮かれていたあの時の気分は霧散していた。

俺は憂鬱な気分を溜息に乗せて吐き出した後、俺はテーブルへと突っ伏した。

このままこの地獄から消え去ってしまいたい。

そう思って居たその時。

「どうかしましたか?」

突然かけられた声に、俺は顔を上げる。

見るとそこには、俺が死んだ時に話していた少女が居た。

――文字通り、女神が俺に声をかけて来たのだ。

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