転生浪人、始めました

@miyabi_s

序章 厳正なる選考の結果、不採用となりました

「貴方の希望される世界への転生ですが、厳正なる選考の結果今回は不採用となりました」

気の毒そうな表情を浮かべた目の前の少女は、俺にそう告げて来た。

「定員割れになるまでこのまま待たれますか?それとも他のタイプの世界に……ってもしもーし、私の話聞いてますか?」

放心状態の俺の目の前で彼女は意識があるか確認するかの様に手を振りながら声を掛けている。

まぁ、もう死んで魂しか無いから放心もクソも無いのだが。

しかし、前世の進学や就職に飽き足らず、まさか転生まで不採用通知を突きつけられるとは流石に想像して居なかった。

「今流行りのコースを選ばれるからですよ、希望者が多過ぎて出生率が追いついていないんです」

頭が痛い、と言わんがばかりに困り顔で溜息をつく。

「待つならこちらの書類に記入して、番号が呼ばれるまで待っていて下さい」

かつて散々書いた履歴書の様な紙と、番号が書かれた整理券を一方的に手渡すと、彼女はスッと姿を消した。

取り残された俺は、まずは整理券に目を向けた。

一、十、百、千……京、垓……。

まだ先に数字は続いているが、とりあえず数えない事にした。

もう一枚の紙を見ると、こちらも嫌と言うほど記入欄がある。

何故死んでから履歴書を書かねばならないのだろうか。

うんざりとした気持ちを切り替え、まず俺は経歴欄を埋める為に前世を振り返る事にした。


俺、結城巧は平凡な日本人だ。

ただ、どうも要領が悪く大学は滑り止めにすら入れず浪人。

入学後も必死の思いで卒業するも、最悪のタイミングで金融危機が訪れて就職でもまた浪人と言う有様だ。

三年前に就職にありつけたが、がむしゃらに頑張ってみた結果うつ病一歩手前の状況になってしまい先週退職届を出してきた。

アラサーで職無し彼女無し。

お世辞にも良い人生とは言えないなと、自分でも呆れてしまう。

だがそんな魔法使いになってしまう一歩手前の状態だったからだろう。

偶然トラックに轢かれそうな子供を助ける為に飛び出し、そしてそのまま命を落としたのだ。

子供を助けて死ぬなんて、好きなライトノベルの主人公みたいで悪くない。

でもせめて来世はもう少しマシな人生を送りたいなと。

朦朧とする意識で最後までそんな情けない事を考えながら、俺は意識を手放した。



「残念ながら貴方は死んでしまいました」

次に目が覚めた時、最初に聞いた一言がこれだった。

目の前には、少女が一人座っている。

「は?」

と、思わず気の抜けた声出る。

ここで気の利いた一言でも返せれば良いのだろうが。

しかしそんな機転と話術があれば、今までの人生ももっと充実していただろうし、

そもそもトラックに轢かれて死んだりもしていない。

だがそんな事に構わず、少女は淡々と話を進めていく。

自分が死んだこと、目の前の少女が神である事、現在俺が居るのはいわゆる死後の世界であるという事。

初めは混乱したものの、話を聞いていく中で段々と思考が追い付いてくる。

そんな折、その一言は飛び出した。

「ですが、希望者には異世界で転生をするチャンスがあります」

俺の心は高鳴った。

死んでからだが、実際にラノベの主人公の様なシチュエーションが廻って来たのだから無理も無い。

異世界転生。

冴えない中年のクソゲー人生にサヨナラして、来世で強くてニューゲームで無双出来るのだ。

思わず心の中でガッツポーズをしてしまう。

「あの、聞いていますか?」

ふと現実に目を向けると、少女が不審そうな目でこちらを見ている。

ここで不真面目だと思われて、話を無かった事にされてはいけない。

にやけそうな顔をキッと引き締めて、少女の話を聞く。

ここで上手く話を持っていければ、チート能力も貰えるはずだ。

苦手だろうが何だろうが、来世のリア充ライフの為なら頑張らざるおえない。

「あのっ!」

「それで転生に関してですが」

話に割り込もうと口を開こうとした俺の前に、紙が突きつけられた。

「こちらの書類に希望転生先を書いて下さい」

「はい?」

再び情けない声が出てしまった。

書類?希望転生先?

半信半疑で紙を見ると、ファンタジー世界や近未来世界等と言ったイメージしやすい言葉が並んでいた。

よくよく見ると、記憶継承の有無や追加能力等と言った項目もある。

日本語が通じているのだ、ファンタジーにありがちなきっと分かりやすい言葉に勝手に変換されるのだと、

ここで能天気な発想をして、楽観視していたのがきっと間違いだったのだ。

ファンタジー世界に転生して、チート能力と前世の記憶でリア充ライフが待っていると邪な野望を胸に。

近くに浮かんでいたペンを手に取り、ウキウキ気分で書き上げ提出した結果。


俺は転生まで浪人となってしまったのである。

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