第7話


秀哉は図書館に着くなり、いつもの席、あの女の子がいた席へと向かった。見ると、まだあの女の子は座っていた。秀哉は女の子が目をあわせる前に話しかけていた。

「思い出したよ。美由紀。」

女の子はとても驚いた表情をみせたが、すぐに満面の笑みをうかべ、

「ずっと待ってたよ秀哉。」

と言った。

「私あれからかなり変わっちゃったからわからなかった?」

「小学生のころはあんなに小さかったのに背が伸びていてわからなかったよ。」

「それは秀哉も同じでしょ。」

「たしかにそうだな。」

「それと思い出してくれたよね?あの時の約束。」

「ああ、あんなにも大事な約束を忘れていたなんて本当にすまなかった。」

「いいの、思い出してくれれば。」

こう美由紀は言ってはくれたがどうにも不可解な点がいくつかある。

いくら時間が経ってしまったからといっても友達との大事な約束をここまで忘れてしまうものだろうか。

そして、その時の記憶が少なすぎはしないだろうか。

あの本を渡してきたからには美由紀はあの時の約束を覚えていたのだろう。しかし、俺の反応をみて、覚えていないのではないかと推測して本を渡したのだろう。つまり、美由紀は覚えていたが、俺はさっぱりすべて忘れていたことになる。

なぜあの時の記憶がないのか。

なぜ俺だけなのか。

謎が深まるばかりだ。

「…秀哉?大丈夫?」

「あ、ああ大丈夫だ。」

一人で考えても仕方がない。

「久しぶりにまた3人で出掛けないか?」

「うん!」

こうして俺たちは、図書館をでて舞の家へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る