第7話 終わらぬ悪夢
「そういえば、あの後ってどうなったの?」
あっけらかんとした様子で、ソディアは隣に歩くミントに訊く。小柄な少女と言えば、寝不足なのか目を擦りながら「へ?」と話を聞いていなかった様子だ。幼馴染がこんなにも眠そうにしていることは初めてではないが、足元がおぼつかないレベルは久しぶりだ。
昨日、衝撃的なことが連続して起きたとはいえ、二人はいつものように登校していた。周囲の学生たちの様子も変わりなく、誰一人としてソディアに指を差す者はいない。すでにソディアの凶行が周知の事実となり、晒し物にされる覚悟をしてきたというのにこれはおかしい。加えて、ソディアの両親にも彼女の凶行は伝わっておらず、昨晩は帰りが遅くなったことを咎められただけだった。
学生四人に重軽傷を負わせたというのに、何も変わらないいつもの朝が来た。まるで、あの事件が無かったかのような世界だ。ソディアはいつの間にか知らない世界に来てしまったのではないかと考えるが、自分には影響力があり過ぎる幼馴染がいるということに思い至る。恐らく、この天才児が何かしたに違いない。
故に、ミントに『あの後何があったのか』を訊いたのだ。
だが、その肝心の幼馴染は、歩きながらも頭はかくりかくりと船を漕いでいる。その様子を見て、これではしばらくは聞けそうもないな、とソディアは追及を諦める。その後、彼女は心配そうにミントを見守り、何かあったときにすぐに支えられるように身構えていた。すると、ソディアの耳に背後から軽快なステップを刻む足音が聞こえる。振り返れば、パンを咥えてこちらに走って来るシュガーがいた。
「んあ!
「うん、おはよう。ひとまず、パンを飲み込もうか」
ソディアがそう言うと、シュガーはパンを胃袋へ押し込むように飲み込む。そして、満足した様子の笑みを見せて一息吐いた。その至福の様子にソディアはくすりと笑う。
「ミントちゃんから『シュガーは寝坊』って聞いた時は驚いちゃったよ。珍しいね」
「昨日は、夜遅くまでお姉ちゃんの調べ物の付き合いましたので。まあ、私の仕事は主に資料の運搬と飲食物の差し入れですが」
らしいなあ、とソディアは苦笑する。
それと同時に、ミントが眠たそうな理由がわかった。何かに没頭すると寝食を忘れるのは彼女の悪い癖だが、どうやら今回も熱中する題材があったらしい。このタイミングということは、おそらく例の流星群のことについてなのだろうとソディアは察する。よくこんな小さい身体で頑張るなあと思いつつ、ソディアはミントと少しだけ距離を詰める。
それを見て「ん?」と首を傾げるシュガーは、何かに気付いたように険しい顔をすると、ひょいと姉の小さな身体を抱え上げてしまった。奇しくも、それは昨日ソディアを抱きかかえた格好と同じであり、どうやらシュガーにとって『人を運搬する姿勢』というのはそれが普通らしい。
「危ない危ない。お姉ちゃんってば、半分夢の世界じゃないですか」
「う、うん。やっぱり、昨日の調べ物のせいだよね。一体、何を調べていたの?」
自分の腕の中ですやすやと眠る姉を見つつ、ソディアの質問にシュガーは答える。
「何やら、神話についてですね。家に帰ってからは、もうそればっかりで……お母さんの書斎の資料を片っ端から読み漁ってました」
「神話……? やっぱり星崩れのことに関係してるっぽいね」
ソディアが『星崩れ』という言葉を口にした瞬間、シュガーは「え!?」と驚いていた。空いた口が塞がらないといった表情で、むしろその反応にソディアがびくりと身体を震わせる。
「な、なに? どうしたの……?」
「い、いえ……。まさか、ソディアさんまで星崩れという言葉を知っているとは……。昨日、お姉ちゃんに『お姉ちゃん! あの流星群って星崩れって言うんだよ!』と自慢げに言った後の『知ってる。というか、知ってた』という冷たい返しを食らったときと同じショックを受けました……」
「そ、そう……。なんかごめんね」
「い、いえ、いいんです。私の勉強不足が悪いのですから。ですが、裏切られた気分です。ソディアさんに自慢して私を褒め称えてもらう作戦がぱあになりました」
なんだそれは。そして、突っ込みが遅くなったけど、回想の中の自分の喋り方ちょっと可愛い子ぶってない? と、ソディアは心の中で叫ぶが、口に出したりはしない。言って野暮なことがあるということを、ソディアは知っているのだ。
「まあまあ、シュガーちゃん。私だって、星崩れって言葉はミントちゃんから教えてもらったんだよ。それまでは全く知らなかったし、ちょっとタイミングが悪かっただけだって」
「そう、ですか。つまり元凶はこのお姉ちゃんというわけですね」
そう、言えなくもない。
ソディアはシュガーの怒りの矛先をどうにか納められないかと考えるが、すでに姉が悪いと思い込んでいる彼女を説得するのは難しそうだ。その姉妹喧嘩はミントがどうにかするだろうと思考を放り投げ、話を本筋に戻す。
「星崩れといえば、私あれをミントちゃんと二人で見たんだよね」
「ええ、聞いてます。なんでも学校の屋上で二人きりで。繰り返しますが、屋上で二人きりで! いやはや、ロマンチックで凄く羨ましい限りです。羨ましいというより、ソディアさんを占有したお姉ちゃんが妬ましいです! ……ああ、そういえば……そのとき、ソディアさんが途中で倒れたとか……。それは大丈夫なのですか?」
「ん? あ、あれ……? 倒れたって……私が?」
「はい。お姉ちゃんからはそう聞いてます。なんでも、流星のひとつがソディアさんを貫いただとか。まあ、流石にそれはお姉ちゃんが寝ぼけていたのだろうと思ってますが」
身に覚えがない話に、ソディアは首を傾げる。
ソディアの記憶では、ミントと二人で星崩れを眺めたところまでは覚えている。しかし、言われてみればその後の記憶が曖昧だ。その後の最新の記憶は、屋上で衣服が乱れた状態で放置されていた(よくよく考えればミントちゃんひどい)ことだ。眠ったタイミングも、服が乱れていた理由がわからない以上、突然意識が失ったとしか思えない記憶の欠如だ。
ソディアは自分の胸部にある痣に手を当てる。これも、星崩れの日にできたものだ。ミントの証言が正しければ、この痣が流星が貫通した痕だと考えてもおかしくはない。
「……私に一体、何が……?」
ソディアは振り返る。
あの星崩れの日から、自分の身に起こったことを。
謎の声。まるで自分を誘導するかのような声。
あれは自分の心が弱っていたがための幻聴なのだと思い込んでいたが、もしかしたらその流星が関係しているのか? 加えて、先日の……自分でも信じられないような暴力の数々。未だに右手が鈍く痛み、その痛みを実感する度に、あの時の感情と感覚が蘇って来る。
ソディアは、思い出したくはないが、あのときの自分を見つめ直した。
頭が熱くなり、目の前の女が憎くてたまらなかった。よく動く口を黙らせたいと思った。身体は自然に動いた。まるで、その動きを……人を傷つけることを知っているかのような動きだった。自分の力で他人を屈服させる喜びを得た。そして……そして、惨劇は起こった。
ソディアは思う。
どう考えても、私らしくない。
まるで、私以外の誰かのようだ。
でなければ、シュガーちゃんに一撃だなんて――。
と振り返ったところで、ソディアはシュガーを見る。彼女の頬と口周りには、痛々しい傷痕が残っていた。その整った顔立ちを自分の手で傷つけたと思うと、言いようがない罪悪感が湧き出て来る。
「ご、ごめんね。私ってば、まだシュガーちゃんに謝ってなかった。その頬の傷……痛むよね……?」
ソディアがそう言うと、シュガーは「ああ……」と自分の口をもごもごと動かし、両手が使えない代わりに『この傷のことですか?』と主張する。そして、シュガーは言った。
「まだ、お姉ちゃんからは聞いていないんですね」
「え? なんのこと……?」
「んー……まあ、私も実はよくわかっていないんですけど、お姉ちゃん曰く昨日のことはなかったことなっているようです」
なかったことになっている?
なんだ、その不穏な響きは。
ソディアは少しだけ頬を引き攣らせながら「どういうこと?」と、シュガーに説明を求める。彼女は「えー……っと」と何度か思い出すように唸り、ゆっくりと区切りながら言う。
「簡単に、言えば。昨日あの場所で傷害事件はなかった。ということになっているらしいです。つまり、私のこの傷も、あそこにいたバカたちの傷も、すべて事故ということになりました」
シュガーが口にした事実に、ソディアは唖然とする。歩みを止めて、どういうことだと頭を抱えてしまう。それをシュガーは不思議そうな目で眺めており、ことの重大さを理解していないようだった。
一体、何を、どうすれば、あの事件がなかったことになるというのか。
ミントは一体何をしたというのか。
それは最早『交渉』ではなく『脅迫』したのではないか、と疑ってしまうほどに、ソディアにとって有利過ぎる結果だ。
考え込んでいるソディアに、シュガーは言う。
「お姉ちゃんだけの力ってわけじゃないみたいですよ」
「それって……どういうこと?」
「まあ、学校としても女学生が四人が誰かに殴られて重軽傷だなんて大問題を大っぴらにしたくないんだ……って、お姉ちゃんが言ってました」
その後も、シュガーはミントから聞いた話を思い出しながら話す。その散見した話をまとめれば、要するにミントは女学生に対し『脅迫』し、学校に対し『誘導』を行ったようだ。
驚くことに、ミントは自分が苛められていたという事実を学校に伝えた。服の下には暴力の痕がはっきりと残っており、そしてそれを自分たちがやったことを無事だった女学生に認めさせた。
『わかるかい? 君たちがやっていたことは、決して許されない。ましてや、こんなことは言いたくはないけど、私はこの学校では特別扱いを受けている。言っている意味はわかるよね? わかったら、私の言うことを聞いた方が良い』
まるで今までの鬱憤を晴らすかのように、ミントは女学生を脅迫した。
その内容としては『ソディアは犯人ではない』という事実を誰にも言わないことだった。つまりは、口封じであり、もし口外した場合には学校にいられなくなると思え、とシュガーが念押しして脅したらしい。
怖いよ。怖い。
この姉妹が本気で怒るとこうなるのか。
ソディアは横目で二人を見れば、何故だかいつもよりも頼もしく見えた。同時に、悪魔のようにも思えたのだが、それを表情に出すことは無い。
女学生たちの口封じを終えたミントは、次に青ざめた顔をした学校の教員に対してこう言ったらしい。
『何もありませんでした。そういうことにしましょう』
それだけだ。
その一言だけで、教員たちは知らぬ存ぜぬを貫き通すことにしたらしい。
女学生たちは、学校の敷地外で怪我を負った。それを、ミントとシュガーが介抱して学校に運んだ。そういう粗筋で、今回の事件はなかったことになった。
無理矢理だ。それでは女学生たちの親は納得しないだろう。しかし、ここで学校でそんな事件があったとすれば、学校の責任問題になってしまう。加えて、女学生はミントの脅しによって犯人の顔を覚えていないことになっている。
「というわけで、この事件はすべて闇に葬り去られました。めでたし、めでたし……ですかね?」
「いや……ごめんね。なんか、複雑」
助かった、のだろう。
あの怪我は誰がどう見ても過剰防衛だ。この問題が露見すれば、どんなにミントが頑張ったとしてもソディアは学校へ戻ることはできなかっただろう。最悪な場合、彼女は牢へと繋がれる可能性があったことも否定できない。
だからこそ、無実放免であることが恐ろしい。
そして、そんな自分がこうして何事も無かったかのように学校に通って良いのか? とソディアは自らに問う。
四人を殴り、幼馴染を殴った自分が、平然と学校に行くことは……違うのではないか。と、罪の意識がソディアの心を締め付ける。仕方がなかった、で済む話ではないのだ。彼女たちにも生活があり、将来があり、未来があり、自分はそれを奪おうとしていた。あの時を振り返った今だからわかる。
自分は、あの娘たちを、殺そうとしていた。
これは間違いなく罪であり。
罪には何らかの罰があって然るべきなのだ。
ソディアは歩みを止める。
それをシュガーは怪訝に思うが、ソディアの表情を見て「なるほど」と頷く。
「後でお姉ちゃんに小言を言われるのは嫌なので、一応止めますね。行かない方が良いと思います。これ以上、波風立てるのは、私もどうかと」
「うん。ミントちゃんの努力を無下にするようなことだと、私も思う。でもさ……やっぱり、駄目だよ。私、こんな思いを抱えたまま、いつも通りの生活なんて出来ないんだ」
ジャンジーたちは、決して赦されないことをした。
ソディアの親友であるミントを辱め、弄び、蔑ろにした。まるで玩具のように扱い、ソディアたちは知らぬことだが、彼女たちをもその手中に収めようとしていた。その傲慢で残忍な行いは罪であり、罰が必要だ。故に、ソディアが彼女たちに与えた痛みと恐怖は当然のことなのかもしれない。
しかし罰は、暴力ではない何かであるはずなのだ。
罪人であろうと、その罰は絶対に『死』ではないはずだ。
「赦してもらおうだなんて思ってない。私だって、赦せないから。今も、あの人たちのやったことを考えるだけで頭が熱くなる。でも……自分のやったこととは向き合わなきゃ。それが駄目だと自分で思ったなら……それに従わないと、すっきりしないよ」
ソディアはそう言うと、シュガーの腕の中で眠るミントを見る。
まるで幼児のような容姿でありながら、その小さな身体で必死にソディアを庇った。それは、ソディアへの愛故の行動なのだろう。今から自分がすることは、その愛への裏切りなのかもしれない。
「ごめんね、ミントちゃん。……大好きだよ」
ソディアはシュガーを見る。
いつも通りの凛とした顔つきで、何を考えているのか読めないと思われがちだが、その思考は単純だ。
親愛なる姉と大好きな幼馴染のために。
シュガーは全力で動く。
「……本当は一緒に行きたいのですが、そうなるとお姉ちゃんを連れて行くことになります。それは、避けた方がいいでしょう」
「うん。……シュガーちゃんも、ごめんね」
「いえ。実はというと、ソディアさんならそうするかも、とは思っていたんです。もしかしたら、お姉ちゃんはそれを見越して話さなかったのかもしれません」
それに。と、ミントは少しだけ、得意げに微笑んで言う。
「やっぱり、その方がソディアさんらしくて、私は好きです」
その言葉に、ソディアは「ありがとう」と満面の笑みを返して背を向ける。
シュガーに見送られ、ソディアは彼女たちとは別の方角へと足を進める。
学校へと登校する学生たちの流れとは全くの逆方向であり、不審な目線を幾度か向けられる。しかし、そんなものに気圧されるほど、ソディアの覚悟は弱くなかった。
彼女が目指しているのは、恐らくジャンジーたちが入院しているであろうフォーリスの中心部にある病院だ。彼女たちに会って何をするのか。何を言うのか。まだ全くわからないが、それでも会わなければ始まらないこともある。
次第に歩みは速くなり、すでに彼女は駆けだしていた。
心臓の鼓動は大きく、息は荒い。まるで、離れ離れになっていた恋人に会いに行くかのような胸の高鳴りだ。なぜか高揚している気分の説明が出来ぬまま、ソディアは病院の前へと辿り着いた。
どくん、と。
大きく心臓が飛び跳ねる。
愛おしい誰かが傍にいる気がする。ずっと待っていた誰かが、会いに来てくれる気がする。準備をしないといけない。彼らを迎える準備をしなくてはならない。でも、病院の彼女にも会いに行かなければならない。
「あはっ……。忙しいね」
ソディアは彼女に似合わない凄惨な笑みを見せ、病院へと入って行った。
◆ ◆ ◆
「それで……これでいいんですか、お姉ちゃん」
ソディアの背中を見送った後、腕の中で眠るミントに対してシュガーは不満気に言う。その声に反応し、小柄な身体はぴくりと動き、隠し通せないかと観念したのか目を開いた。
「ん……。おはよう」
「はい、おはようございます。降りますか?」
「いや……歩くの怠いから、このままで」
寝たふりではあったが、どうやら眠たいのは本当のことらしく、ミントはシュガーに対して完全に体重を預けている。周囲から驚きの目線で見られてはいるが、気にしていない様子だ。
「それで――」
「私もシュガーと同意見」
シュガーが全てを言う前に、ミントは先の質問に返答する。悩む素振りも見せず、最初から決まっていた答えのようだった。彼女は憑き物が落ちたかのようにすっきりとした表情で、心なしか上機嫌だ。
「何を、そんなに喜んでいるんですか?」
「……言っただろ? シュガーと同意見だって。ソディアはやっぱりソディアだな、って思っただけだよ」
ソディアの行為はミントの努力を無駄にするものだが、彼女自身は全く気にしていない。むしろ、そのことに喜びを感じている様で、少し不気味と思うほどに顔のにやつきが止まらない。シュガーの腕の中で鼻歌を歌いつつ、陽気な太陽の下で日向ぼっこに興じる始末だ。
しかし、その至福の時間に水を差すように、ミントは言う。
「果たして、そうでしょうか」
「……は?」
シュガーの声色は普段より冷め、笑顔が消えている。その双眸を見れば、まるで自分の敵を見るかのように鋭い。ミントは見たことがない妹の姿にたじろぎながらも、その言葉の真意を訊く。
「どういう意味? そうでしょうか、って」
「目を瞑っていたお姉ちゃんにはわからなかったかもしれませんが、ソディアさんの別れ際の表情――。あの時みたいでした」
「あの、時って……?」
「……四人を嬲り殺しにしていたときですよ」
ミントの身体から力が抜ける。先ほどまでの高揚感が嘘のように霧散し、彼女はシュガーの制服のリボンを掴む。その表情は痛みに耐えるかのように歪んでおり、喉奥から絞り出すような声でシュガーへと問う。
「本当、なのか?」
「――絶対、とは言えません。なにせ、私に背を向けるほんの一瞬のことでしたから。でもあれは……獲物を見つけたかのような獰猛な笑みでした。あの時と、同じような」
一時だけのものじゃないのか?
一時の感情に暴走しただけなんじゃないのか?
ということは、やはり、そういうことなのか。
あの流星が、凶星だったというのか。
ミントは髪の毛をくしゃりと掻き上げ、長く息を吐く。
迷っている暇はない。確証もない。
しかし、最悪を想定して動かなくてはならない。
「シュガー」
「しっかり掴まってくださいね」
すべてを言わずとも、妹は姉の指示がわかっていた。
シュガーは自分の鞄を腕の中のミントに預けると、全力で走り出す。まるで重荷など無いような速度で、登校する学生たちの流れに逆らい走る。その勢いに、学生たちが彼女の前から自然と身を退いて行き、道が拓けていく。
「お姉ちゃん。そろそろ話して下さいよ」
全く息を切らさぬ様子で、シュガーはミントに言う。全力疾走する妹に掴まるのが必死なのか、ミントは必要以上に大きな声で聞き返す。
「何を!?」
「もう、わかってるんでしょう。ソディアさんの身に何が起きているのか」
「……完全には、まだ。でも推論はある」
「では、それが答えです」
シュガーの言葉に、ミントは強張る身体から力が抜けたかのか息を吐く。
本当に、この妹は何もわかっていないくせに、その自信はどこから来るのか。
推論であり、間違いである可能性は大いにある。だからこそ、不用意にこの話をするのは避けたかった。するべきではないと思った。そして何よりも……信じたくなかった。
「――私の推論だと」
しかし、話さねばなるまい。
あの流星がソディアの身に堕ちた日から、運命は決まっていたのだ。
こうなることを。
こうなってしまうことを。
始まった物語から目を背けることは出来ない。
ミントは、はっきりと、言う。
「――ソディアは、
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