第10話 大好きな人たちと



 それから数日後。

 僕は相変わらずアイリスちゃんの所でお世話になっていて、魔王城で働いてます。

 マジュウ達の餌係としてお世話をするのはとっても楽しくて、とってもやりがいがあるんだよ。


 今はただのイソウロウみたいだけど、はやくお家に帰らないと、お母さんとお父さんが心配しちゃう。

 遠くに行くにはお金という物がたくさん必要だから、いっぱいお仕事してお小遣いをもらえる様にしてもらわなくちゃ。


 でも……。






「ノゾミ、調子はどうじゃ。うむ、今日も勤勉に働いておるようじゃな」

「アイリスちゃん、うん。今日もたくさん働いたよ」

「うむ、良い事じゃ。我が魔人族の為に精進するがいい」


 マジュウのお世話をしている宿舎にやってきたアイリスちゃんや、


「ふん、ノゾミは当然の仕事をしたまでです。わざわざ誉める事などありませんよ魔王様」

「ギューブは固いのう。もう少し頭を柔らかしくしたどうじゃ」

「頼りない主の頭が生まれたての赤子の様に柔らかすぎるので、私はこれくらいでちょうど良いのですよ」

「何だと、童は子供ではない。立派なレディなのじゃ」

「そうですか。本物のレディなら、そう大声ではしたなく喋らないですが……。気が済んだなら、早く執務の方に戻ってください。仕事が終わりません」

「ぐぬぬ……」


 そのアイリスちゃんと一緒に来たギューブさんにお世話になったお礼がしたいから、考えてるよりも帰るのはもうちょっと遅くなっちゃうかも。


 でも、しばらくはこのままでいいよね。

 だって皆、ここにいる魔人族の人達もマジュウ達も大好きになっちゃったから。


「むう、仕方ないのうギューブが煩いから行くとするか。あ、そうじゃノゾミ」


 アイリスちゃんに手招きされて近づくと、耳を近づける様に言われた。ひそひそこそこそ、内緒話がしたかったのかな。


「と、特別じゃぞ。お主だけ特別に魔王ではなく名前で呼ばせてやる。ありがたく思うが良い」

「えっ、本当!?」

「こら、声が大きい。聞こえてしまうではないか……ギューブは、ふぅ大丈夫そうじゃの」

「あ、ごめんね」


 ギューブさんの方を気にしながらこそこそ内緒話をするけど、どうしただろう。

 話が聞こえてないはずなのに、ギューブさんの耳がぴくぴく動いてる気がするんだけどな。


「あ、そうだ。僕ね。アイリスちゃんにずっと聞きたい事があったんだよ。僕の名前の望には願いっていう意味がこめられてるけど、アイリスちゃんのにはどんなのがあるのかな」

「む? 何じゃ。そんな事がずっと聞きたかったのか」


 そんな事なんかじゃないよ。僕はずっとすっごく聞きたかったんだから。


「どれどれ、そうふくれるでない。うむ、そう言う表情もなかなかよいのう……ではなく、教えてやるからもっとこう近くによるのじゃ」

「うん」


 言われた通りに近くに寄ってくんだけど、ちょっと距離を縮めすぎちゃったかも。


 だってアイリスちゃんの息が耳にかかってくすぐったいし、体がくっつちゃうぐらいだからあったかいし。あ、あったかいのは良いかな。


「魔王様、そこまでです。さあ、執務に戻りますよ」

「な、こらっ、ギューブ。まだ話の途中ではないか。話さんか、このっ。あとちょっとだと言うのに」

「そう言って半日さぼったのは、どこのどなたで」

「ぐぬぬぬぬ……」


 服を掴まれて持ち上げられちゃったアイリスチャンは、ギューブさんにシツムシツに連れて行かれちゃうみたいだ。

 残念だな、興味あったのに。


「ノゾミ、童の名前はえーっと、どこかの言葉で虹という意味なのじゃが、魔人族にとっては架け橋という意味でもあるのじゃ。どうじゃ? 聞こえとるか? 教えたからな、忘れるでないぞ!」


 けど、小屋から出ていく前に、そんな答えが聞こえてきて。

 ちょっと嬉しくなっちゃう。

 そっか、虹で架け橋なんだ。

 雨上がりの空にキラキラ光る七色の虹は、可愛いアイリスちゃんにとてもぴったりな名前だな。


 お礼をする時は虹の何かを上げたらきっと喜ぶかもしれない。


「よーし、これからも頑張るぞー!」


 家に帰るのがどれくらいになるか分からないけど、大好きな人達と一緒に、ここで精一杯頑張らなくちゃいけないな。


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