第43話 迷宮都市?
トッマーソとソフィアが今回の誘拐騒動の報告を終えて執務室の外に追い出されたころ、龍巳は事件が解決した直後にも関わらず騎士団の訓練場の一部を借りて修業をしていた。
今はいつも修業のウォーミングアップとして行っている魔力の循環を行っているところだ。龍巳はまず自分の中にある魔力を感じることから修業を始め、その魔力を体中に循環させることを本格的な修業の前に行っていた。
この世界において、魔力はスキルを発動する時も魔法を使う時も用いるものであり、魔力を自在に操れるかどうかというのは戦いの勝敗を決するのに十分に影響すると考えているために、修業の前にこれを行っているのだ。
異世界に召喚されてからすでに一か月。今ではもう習慣になってしまい無意識でもできるような工程ではあるが、龍巳はこれを欠かしたことはない。
案の定というべきか今も魔力を頭のてっぺんからつま先まで魔力を巡らせてはそれを胸の奥に戻しを繰り返す龍巳だが、その思考は修業とは全く別の方向へ働いていた。
(『出来ることは多いに超したことはない』、か......)
この言葉は昨日、城に帰る前にアルセリアが発した言葉だ。龍巳は未だにその台詞を忘れることが出来ず、修業中であるにも関わらず考えることをやめられなかった。
(確かにその通りだ。シルの『植物魔法』がなかったら花を咲かせることも出来なかったし、それでセリアを助けることも出来なかった。その前だって、『力学魔法』を偶然覚えていなかったら間に合わなかったかもしれないし、根本的なところを言えば二人を見つけられたのも助けられたのも、『並列思考』を覚えられたからだし......)
龍巳が色々と考えていると、訓練場にオリバーがやって来た。
「おう、龍巳じゃねえか。昨日の今日だってのにもう訓練始めてんのか」
「あ、こんにちはオリバーさん。もうやることは終わったんですか?」
龍巳にそう聞かれ、オリバーは今朝まで続いた侯爵の取り調べやトッマーソに頼まれたお使い(魔道具屋に魔道具を持っていって解析してもらう等)を思いだし、疲れたような顔をしながら答えた。
「ま、まあな。それにしても色々と考えてる顔してるな、お前」
「......分かります?」
「おう。これでも騎士団の副団長サマだからな。団員の機微に疎くてもダメなんだわ」
「なるほど、そういうことですか」
「まあ俺の話は置いておいて、何に悩んでるんだ?」
龍巳は今考えていたことをほとんどそのままオリバーに伝えてみた。
すると彼は腕組みをして数秒考え、龍巳にこう言った。
「よし、お前、迷宮都市に行け」
「はい?」
突然の答えに龍巳が変な声を上げてしまう。
「いやだから、迷宮都市に行けって」
「迷宮、都市?」
龍巳の問い、というかオリバーの言葉がよく分かっていないがために出た言葉に、オリバーが詳しい解説をし始める。
「『迷宮都市』はダンジョンって言う魔物が湧いてくるやつを中心に栄えている都市だ。それの最下層までの攻略を掲げる”冒険者ギルド”が町を発展させたんだが、そこには実力者がよく集まるんだ」
「はぁ......」
龍巳はオリバーのそこに行けという言葉の真意を計りかね、生返事を返すに止まった。
一方でオリバーはそのまま説明を続ける。
「お前がそこまで考え込んでるのは、姫様の『出来ることが多いに超したことはない』って言葉が原因なんだろ?だったら答えは簡単だ。出来ることを増やしに行け」
「で、でもそれは......」
「『ここでも出来る』か?」
オリバーの言葉に反論しようとする龍巳だったが、それをオリバーが先取りして説明を続ける。
「確かにしばらくはここでも増やせるかもな。でもお前がスキルを学べる存在なんてそう多くはない。どうせ近い内にここを出なきゃ、お前は頭打ちになっちまうだろうよ」
オリバーの言葉は確かにその通りでもあった。
今、龍巳のスキル欄にある『並列思考Lv.1』は龍巳の持つスキルが増えれば増えるほどその応用力は増すだろう。だからこそ、龍巳はスキルを増やせる環境に常にいる方が龍巳のためにもなるのは間違いない。
だがオリバーの言葉はそこでは終わらなかった。
「それにな?今回の騒動で俺たちはお前の、いやお前たちの経験不足を重要視するようになった」
「経験不足......」
「そうだ。まず、姫様に毒が盛られたのだってお前の焦りからなんだろう?それに加えて侯爵たちの放置だ。本来なら先に奴等を連れ帰るための手配はここを出る前にやっておくべきだった。いくら緊急でも、誰かに頼むことは出来たんじゃないか?」
「......っ!?」
龍巳はぐうの音も出なかった。確かにアルセリアを危険にさらしてしまったのは自分のせいだと自覚していたからだ。
その龍巳の落ち込む姿を見ているオリバーだったが、彼も内心罪悪感を感じていた。
(まあ、まず二人を拐われたのも見つけられなかったのも俺たちだから、実はそこまで上から目線で説教できる立場じゃないんだけどな......)
それでも龍巳に言葉をかけるのは、龍巳が望んでいるのをオリバーが感じていたからだった。
龍巳はアルセリアが毒を受けたことに対して罪悪感と後悔を感じていた。
オリバーはその捌け口、というか出口を用意してやるためにこのような説教をしているのだ。
「それで、どうするよ?」
オリバーが罪悪感を欠片も表情に出さずに聞いた。
それに対する龍巳の答えは......
「......少し、考えさせてください」
保留にすることだった。
最初に考えていたのはオリバーの言う通りその「迷宮都市」とやらに行くことだった。
だがこの王都を離れることを考えると、アルセリアと美奈の顔が頭に浮かんでくるのだ。
いや、その浮かぶ理由はもう分かっているが、それを表に出さないままここを離れることに抵抗があった。
しかし、このままここにいても何も解決にならないことも理解できるためにはっきりした答えを出すことが出来なかったのだ。
「そうか......」
オリバーもそんな龍巳の葛藤を何となく理解できているのか、そんな返事をすることしか出来ずに黙り込む。
それからしばらくして二人は別れ、龍巳は修行を少し続けてから自室に戻った。
その頃には既に空は暗くなっており、龍巳は夕飯をいつも通り済ませてから寝る準備を始めた。
そこでドアからノックの音が響いた。
「タツミ様、少しよろしいでしょうか」
「ああ、ニーナさんか。いいよ、すぐドアを開けるから待ってて」
龍巳はドアに駆け寄って鍵を開けると、ドアを開けてニーナの話を聞く。
「で、どうしたの?」
「はい。国王陛下が明日の昼に伝えたいことがあるから謁見の間に来てくれ、とのことです。服装は異世界のもので、と」
「学校の制服で......?ああ分かった、明日の昼ね」
「はい、よろしくお願いします」
それだけ伝えるとニーナは去ってしまった。
色々と疑問に残るやり取りだったものの、昼間のオリバーとの会話で思考力を多く使った龍巳はすぐにベッドに倒れこんだ。
このアルフォードの呼び出しが、自分にとって大きな転機になるなどとは全く想像も出来なかった龍巳であった。
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