第35話 覚醒め

「いいか!なんとしても見つけ出せ!もし国境を越えられたらもうどうしようもないぞ!」

「はっ!」


 龍巳の呆けたような言葉のすぐ後、我に帰ったアルフォードは色々と指示を飛ばしてから伝令をそう締め括った。

 そして龍巳の方に向き合う。


「タツミ、お前にも協力してもらいたい。今ここにソウタ殿を呼んだ。彼が来るまでに伝令が事情を説明しているだろう。その後、二人にはセリアとミナ殿の救出を担って欲しい」


 その言葉は、龍巳と宗太の実力を信頼してのものだった。それを感じ取った龍巳も、何もせずに待ってはいられないとその要請を受ける。


「ああ、もちろんだ。それで、美奈とセリアは見つかりそうなのか?」


龍巳の質問に顔に険しい色が浮かぶアルフォード。


「......正直、厳しいな。仮にもこの国の王女と勇者だ。二人を拐うとなれば、相手もそれなりの準備はしているだろう。うちの兵士と、探索スキル持ちの騎士を総動員して見つけられるかどうか......」


 アルフォードの答えに龍巳が表情を暗くして「そうか......」と呟く。

 その時、部屋の扉が乱暴に開かれた。そこにいたのは......宗太だった。急いで来たのか息は絶え絶えで、それでも必死に声を絞り出した。


「おい、お姫様と美奈が拐われたって本当か!?」


 宗太の質問に対する答えは、この部屋にいる者の表情で十分だった。

 そのとき、宗太の姿を見た龍巳が、数刻前に会得したスキルのことを思い出した。


「宗太!」

「な、なんだ?」

「お前、『気配察知』ってスキルを習得してるか?」

「あ、ああ。覚えて、レベル五まで上げてるけど」

「なら、それで美奈とセリアを探してくれないか?レベル五なら、もしかするかも知れない」


龍巳は、騎士団の探索系スキルを持っている人たちでもレベル五の者はいないのではないかと考えた。レベル五のスキルというのは本当に規格外で、尋常でない性能を発揮する。それに賭けてみようと思ったのだ。

 それに気づいた宗太も、すぐに『気配察知』を発動する。しかし......


「......ダメだ。俺の察知できる範囲の中にはいない」

「ダメだったか......」


 宗太のスキルに一縷の希望を見出だしていたアルフォードを含めた面々も残念そうな顔をする。

 しかし龍巳はすぐに思考を切り替え、どうすれば事態を改善できるのかを模索する。

 頭の回転を速めるために、以前見たことがある美奈のスキル『思考加速』をこの場で覚えて使用する。

 称号『器用貧乏』の効果かすぐにLv.3まで上がり、龍巳の思考速度は十倍にまで加速されていた。


(まず、今は二人を見つけることが先決だ。じゃないと何も行動を起こせない。どうすればいい......。何かないか。何か、二人を助けるためになるもの......)


 今、龍巳の脳裏には二人の姿が浮かんでいた。また二人と言葉を交わして、教会に遊びに行ったり、模擬戦をして意見を交換しあったり、まだまだ二人としたいことはたくさんある。それを思い、龍巳は一心不乱に打開策を考えてはそれを却下してというのを繰り返した。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ここで、一度スキルについて復習しておこう。

 まずスキルは、使うのにも習得するのにもイメージが必要だ。それは魔法スキルを含めた全てのスキルに適用されるルールであり、世界の法則だ。

 では、イメージとは何だろうか?

 使う時は分かりやすい。「このスキルでこう言うことをする」と想像すればいいのだ。

 では会得するときは?

 まだスキルを得ていないのに、「このスキルで......」ということは想像できない。

 龍巳たちは他の人からスキルの情報を得ることでそこを補完していたが、自分だけで習得していた子供たちはどうしていたのだろう?

 その答えは、「願い」だ。

  「こんなことをしたい!」という思いが魔力を動かし、スキルを習得させるのだ。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 龍巳は今、「美奈とセリアの二人を助けたい」という思いで一杯だった。その上で『思考加速』を使い、脳の中で高速処理を行っている。それは、魔力を脳に集めているということだ。さらに『魔力操作』の無意識発動によって魔力はさらに脳に集められ、本来の『思考加速』よりも更なる高速処理を行っていた。


 その「願い」と「魔力の流れ」が、龍巳に新たなスキルを与える。


ーー(スキルを二十個以上会得した上で、スキルを二つ以上使用したことを確認しました)ーー

ーー(ロック解除)ーー

ーースキル『並列思考』を会得しましたーー


 最初の二つの言葉は龍巳には聞こえず、最後の結果報告だけが伝えられた。

 ここで得ることになった『並列思考』が、龍巳の運命を大きく変えることになるのだった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 突然頭に響いた声にビクッと体が反応してしまった龍巳は、心の中で悪態をつきながらそのスキルに鑑定を使った。


(くそっ、何だってんだ!この状況を打開できるすきるだといいんだが、そんな都合よく習得できる訳がないし......)


====================

<並列思考>

思考を同時に行うことができる。

このスキルの特殊な点として、その思考の数だけスキルを同時に、且つ意識的に使うことができる。

Lv.3では三つの思考を行える。

====================


(って、滅茶苦茶使えそう!よしこれなら、想像の域を出なかったスキルの組み合わせを実際にできるな!そうと決まれば......)


 龍巳はそこまで考えると、未だ玉座に座って考え込んでいるアルフォードに声をかける。


「なあ、アルフォード」

「ん、なんだ?」

「実はたった今、二人を助け出せる手段を手に入れた。だから、ここは俺に任せてくれないか?」

「いや待て、そんな都合のいいことがあるわけ......」


そう言って龍巳の提案を却下しかけたアルフォードだったが、龍巳の顔があの日謁見の間で、自分に向かって「この国を守らなければいけなくなった」と宣言した時の表情と重なり、一度考え直す。

 そしてアルフォードが出した答えは......


「......分かった。娘と、この国の未来を頼んだぞ、タツミ」

「陛下!?」


アルフォードが出した結論に異論を唱えようとする大臣を制し、アルフォードが彼に語りかける。


「まあ落ち着け。私は、私の友人を信じるさ。もし彼が裏切ったなら......私の首を落としてくれて構わん。失敗しても然り、だ。全責任は私が持つ」


 アルフォードが本気であることを悟った大臣が、ため息を漏らしながら諦めたように後ろに下がる。その姿に「すまんな......」とこぼしたアルフォードは龍巳に視線を移してからかうように言う。


「聞いたな?お前が失敗すれば、私の首も飛ぶことになった。あれだけ自信満々に言ったのだ。問題ないな?」


 龍巳もニヤリとしながら返事をする。


「ああ、もちろんだ」


そして龍巳は宗太に向き直ってからこう頼んだ。


「じゃあ宗太。これから二人を見つけて、一気に取り押さえる。たぶん、俺に付いてこられるのはお前だけだ。だから、付き合ってくれ」


すると宗太は笑いながら答えた。


「っくく、いいぜ。その自信の根拠が見たくなった。俺も連れていけ」

「......サンキュな、宗太」


 龍巳は宗太に感謝の言葉を伝えると、アルフォードに断ってからこの部屋を出ていく。


「じゃ、またなアルフォード。次は他の二人も連れてくるよ」

「ああ、期待している」


 そうして龍巳は美奈とセリアを取り戻すために行動を開始するのだった。


◇   ◇   ◇   ◇   ◇


「で、城を出てきちまったけどどうするんだ?」


 宗太が言った通り、今二人は城の外にいた。


「まあ見てろって」


 龍巳はそう言うと、『並列思考』の感触を確かめながらスキルを発動させる。組み合わせるスキルは『気配察知』、『土魔法』、『魔力操作』の三つだ。


(『気配察知』に『土魔法』を組み合わせて土の上の異物を感知することに集中させて範囲を広くし、その上で『魔力操作』で城の方に向いている分の魔力を前に持ってくれば......)


ーー奥義『地面捜索』を会得しましたーー


 そんな声が聞こえたが、今はひとまず無視して感知に集中力を全て向ける。 

 そして......


「......見つけた。行くぞ、宗太!」

「あっ!おい、待てって!」


 屈んで地面に手をついたかと思うとすぐに行動を開始した龍巳に面食らった宗太だが、さすがに勇者なだけはありすぐに行動に移した。

 龍巳も龍巳で、さらに別のスキルを組み合わせて最速での移動を開始する。


(待ってろよ。絶対に、助ける!)


 龍巳の願いに応えるかのように、魔力が凄まじい量と早さで活性化されたのだった。

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