第22話 可能性
ここは騎士団の訓練場。約一ヶ月前、異世界から来た龍巳たちがトッマーソにスキルの基礎を教えてもらった場所だ。
そこでは二人の男が組手を行っているところだった。
「フッ!ハァッ!」
「っとぉ!あっぶね!」
一方の男がまず拳を相手の顔に向かって突き出す。殴られた相手はその拳の側面を自らの手の平で押し出してかわすが、殴った男はその拳を引くことはなくそのまま前に出す。そして男は体を捻って出した拳とは逆の足を頭の高さまで持ち上げて踵蹴りを繰り出す。
相手はそれを体を傾けてかわすと、牽制のために足の裏を前方に突き出した。
それを距離を取ることで回避した男は、そのまま腕を前に構えた状態で静止する。
そこでさらに別の男の声が訓練場に響き渡った。
「そこまで!両者、構えを解け!」
その声が聞こえた男二人は戦闘態勢を解いてから、組手の礼儀としてお互いに礼をすると組手を止めた男の方へと向かった。
すると組手を止めた男がその組手について感想を述べる。
「宗太が強いのは知っていたが、龍巳もこの一ヶ月で随分と腕を上げたな!」
そう、今組手を行っていたのは異世界から召喚された三人のうちの二人、香山宗太と八坂龍巳であった。そして二人の組手を止めたのは騎士団長、トッマーソである。
元々宗太の組手の相手は騎士団から出していたのだが、龍巳の担当であるオリバーの提案で今回は龍巳が組手の相手を務めたのだった。
はじめ、トッマーソはスキルレベルが5まで上がっていない、というか上げられない龍巳を、すでに数々のスキルがLv.5に上がっている宗太の相手にするのには難色を示していたのだが、オリバーの「できる!」という熱弁に負けて渋々ながら許可を出した。
すると、龍巳は宗太と互角の戦いを繰り広げたのだ。
そのことに驚きを隠せないトッマーソであったが、オリバーの熱弁の根拠に納得もしていたのだった。
「龍巳!お前いつの間にそんなに強くなってたんだ?」
たった今龍巳の強さを体感した宗太が聞いた。
その問いに龍巳はこう答えた。
「まあなんというか、今までの積み重ね......的なやつだ」
ここで、龍巳の現在のステータスを確認しよう。
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タツミ・ヤサカ 17歳 男 Lv.9
称号:器用貧乏、異世界人、巻き込まれし者
体力:260
魔力:260
物耐:260
魔耐:260
筋力:260
敏捷:260
器用:460
<スキル>
鑑定Lv.5、体術Lv.3、剣術Lv.3、槍術Lv.3、斧術Lv.3、治癒力上昇Lv.3、火魔法Lv.3、水魔法Lv.3、土魔法Lv.3、風魔法Lv.3、氷魔法Lv.3、雷魔法Lv.3、光魔法Lv.3、回復魔法Lv.3、魔力感知Lv.3、魔力操作Lv.3、身体強化Lv.3
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これが龍巳のステータスだが、ものの見事に鑑定以外のスキルレベルは三である。
これでなぜ宗太と互角に戦うことができたのか。
ステータスで勝っていたのかというとそんなことは全くなく、勇者の称号を持つ宗太にはステータスでさえ負けている。
宗太と渡り合えた答えは、「魔力操作」スキルにある。このスキルを会得したのは修行二日目の夜だった。
その日、スキルを得る時にも使うときにも魔力が重要であることを知った龍巳は、自分の部屋に戻ったあと魔力を使うことに慣れようとひたすらに魔力を体の中で循環させていたのだが、突然頭の中に声が響いてこのスキル会得していた。(ちなみにその直前に「魔力感知」を手に入れた)
スキルを会得した時には
『スキルは同時に使えないのに、意味のないスキルを会得しちまったな』
と思っていたのだが、次の日に光魔法を使ってみると明らかに発動が早くなっていた。
もしやと思い、自分の他に魔力感知スキルを覚えていたライリーに自分の魔力の流れを見ていてもらうと、魔力の流れがスムーズになっていると言うのだ。
その事を聞いた龍巳は仮説を立てた。
『魔力操作スキルは無意識下の魔力の流れにも影響する』
この仮説を立証するため、この一ヶ月間『魔力操作』のスキルレベルを上げながらオリバーとライリーに鍛練をつけてもらい、仕上げとしてこの日、宗太との組手を行ったのであった。
そしてこの仮説が立証されると、新たな可能性を龍巳は感じていた。
『他のスキルも無意識下で影響を与えているのでないか?』
龍巳は、今度はこの仮説を証明するために行動を開始する予定であった。しかしそのためにその場を離れようとする龍巳をトッマーソが引き留める。
「あ!タツミ!今日の昼メシはアルのおっさんと姫様が一緒に食おうってさ!」
「分かりました。じゃあこれから向かいますね。いつもの大広間ですか?」
「おうよ。今日は宗太の組手に付き合ってくれてありがとうな」
「いえいえ、俺のためでもありましたから。ではまた」
「ああ、またな」
ーー大広間
「それでだな、タツミ殿。今日お前を呼んだのには理由がある」
「え?今まで貴族たちの愚痴を言うために誘っていたのに?」
龍巳とアルフォードは共に国の腐敗を正すためにそれぞれの方法で行動しているのだが、内政によって貴族を正そうとするアルフォードの方は心労が激しいらしく、よく龍巳を食事会と言う名の愚痴大会に誘うのだ。
「あ、ああ。まあそういうこともあるさ。実はな......」
「実は?」
「私の息子が帰ってくるのだ。アルセリアの兄でもある」
それを聞いた龍巳は一瞬硬直するがすぐに復活する。
「はあ!?お前、まだ家族がいたのか!聞いてないぞ!?」
「まあ言ってないからな」
アルフォードによると、その息子というのは今まで魔法学園のある隣国に留学していたらしい。今回は学園が長期休暇に入ったために里帰りなのだとか。
「それで、本当に用件はそれだけか?」
龍巳がアルフォードに聞いた。この食事会がそれだけだとは思えなかったからだ。その根拠は......
「その話をするだけならセリアがここにいる理由はないだろう?」
そう、これまでの
「やれやれ、やはり察しがいいな、タツミ殿」
一度前置きを述べると、アルフォードの表情が引き締められ真面目なものになる。
「タツミ殿はよくこの城を抜け出しているな?」
その言葉にドキッとする龍巳。
修行が始まってからも一週間に一回はあの教会に遊びに行っているのだが、それは許可を取ってではなく抜け出して行っているのだ。『身体強化』を使って城壁(高さは五メートルほど)を飛び越えているのだが、どうやら見つかっていたらしい。
「それがどうかしたか?一応修行のない休息日に抜け出しているんだが」
修行を毎日していても集中力が続かないと言うことで、トッマーソから最低でも一週間に一日は休息をとれと言われている龍巳たちだが、龍巳はその日を子供たちと遊ぶのに使っているのだ。
「いや、抜け出していること自体はいい。どうせ止めても無駄だろうしな。ただ、問題は行き先だ」
アルフォードのその言葉に龍巳は少し警戒する。抜け出していることがバレているのなら、当然その行き先も調べているだろう。もし孤児院にいくのを辞めろと言われたらアルフォードと縁を切ろうと思っているため、その言葉が出そうになったらすぐに止めるためだ。
龍巳もせっかくの友人を一人失うのは悲しいのだ。
しかし龍巳の心配とは裏腹に、アルフォードの言ったことは龍巳の想像の埒外にあるものだった。
「アルセリアを、その場所まで連れていってくれないか?」
「......はぁ!?」
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