第21話 リア充

 翌日、城を抜け出した日と同じようにニーナに起こしてもらった龍巳は、宗太と美奈と合流しつつ、これまたその日と同じ大広間へとやって来た。

 中に入ると以前と同じ席に案内され、料理が運ばれてくる。

 今度は物々しい雰囲気など微塵もなく朝食が始められた。


「タツミ殿、聞いたぞ?ずいぶんと筋がいいようじゃないか。トッマーソやソフィア殿がよく誉めていた」

「そうなのですか!?すごいですね、タツミ様!」


 朝食を食べ始めてからしばらくして、アルフォードが修行の様子を聞いたと言って龍巳のことを誉めだした。それに反応したのはアルセリアで、自分が巻き込んでしまった龍巳の活躍に少し救われたのか興奮を隠せていない。

 その様子を見たアルフォードは、ここ最近で度々王女としての仮面が剥がれている自分の娘に優しげな目線を送った。

 一方で誉められた龍巳はというと、少し照れ臭そうにしながらも笑って朝食を口に運んでいた。

 そしてアルフォードは話を続ける。


「このまま行けば第三の勇者として引き立てることも可能かもしれんな......」

「いやまてアルフォード。いくらなんでもそれは気が早すぎるだろ。まだ修行を始めて一日だぞ?」

「そうか?じゃあ一先ずは準備だけでも進めて......」

「だから早いって言ってるだろ!」


 龍巳とアルフォードの気心の知れたやり取りに、二人が仲を深める経緯を知っているアルセリアはニコニコしながらそれを眺めているが、勇者二人は呆気に取られていた。


「た、龍巳君......いつの間に王様とそんなに仲良くなったの?」

「俺も驚いたぜ......。基本的に目上のやつには礼儀正しいやつだと思ってたからな」


その二人の疑問に龍巳が答える。もちろん龍巳が城に戻ってきたときの事だ。


「実は......」


 経緯を聞いた宗太と美奈は納得したようで、すぐに龍巳の口調に適応して会話を続ける。話をする美奈の目はキラキラと輝いているように見える。なぜかというと......


「いいわねぇ、そういう男同士の友情って感じ。日本で読んでた青春小説を思い出すわ」


ということらしい。続いて宗太が話し始める。


「それに最初は驚いたが、改めて見たら外見的にはそこまで違和感はないんだよな」


そう、アルフォードの外見年齢は二十代半ば。特に龍巳と和解してからは重荷の一つがなくなったからか表情に陰りがなく、見方によってはさらに若く見えるのだ。そんなアルフォードが一七歳の龍巳と気の置けないやり取りをしているのだから、宗太の感想も当然と言える。


 そうして龍巳の口調に関する話題が一段落したところで、ちょうど全員が朝食を終えた。そしてアルセリアが三人に今日の予定を伝える。


「今日も皆さんには訓練をしていただきます。ソウタ様は騎士団の訓練場、ミナ様は魔法師団の訓練場へ向かってください。ここからの道順は分かりますか?」


その質問に宗太が自信満々といった風に答える。


「全然分からん。教えてくれ」


他の者たちは一瞬力が抜けたようだが、その答えに美奈が続く。


「私も分からないわね」

「では、お二人はご自分の担当メイドに案内してもらってください。タツミ様はどうしますか?あ、副団長お二方はタツミ様が行かれる方に後から合流するそうですので、お好きな方を選んでくれ、とのことです」


龍巳はさほど時間をかけずに結論を出し、アルセリアに伝える。


「昨日は魔法師団の方に行ったし、今日は騎士団の方に行くよ」

「分かりました。オリバーさんとライリーさんにもそう伝えておきますね」


 それから場面は変わって騎士団の訓練場。

 昨日龍巳が来たときとは違って騎士団の団員であろう者たちが何人もおり、龍巳はその人たちの邪魔にならないような場所で宗太と共にトッマーソの話を聞いていた。


「じゃあ今日はちゃんと戦闘スキルの説明をしようか」

「えっ、昨日のうちに宗太に説明とかしなかったんですか?」


その龍巳の言葉にトッマーソは困ったような顔をしながら答える。


「実はな、昨日はほとんど組手で終わっちまったんだ。ソウタが『体で覚えるから説明は必要ない』とか言いやがるからよ。一回痛い目を見てもらおうと思って組手ばっかしてたんだ」


トッマーソが説明をしていると今度は宗太が苦笑を浮かべる。


「まあなんというか、回復系スキルをとっておいて良かったとだけ言っておく」


龍巳は昨夜夕食の場に来たときの宗太の怪我を思いだして納得した。


 そしてトッマーソの説明が始まる。


「まあ魔法スキルほど難しいことは全然ない。『こんな動きをしたい』とイメージしながら魔力を動かせば大丈夫だ。本来はそこまで簡単にスキルを覚えられることはないんだが、まあお前らなら大丈夫だろ」


すると聞きたいことができたのか龍巳が質問する。


「ちなみに、普通の人はどうやってスキルを会得するんですか?」

「手順は一緒だ。ただ、動作をイメージしながら魔力もイメージで動かすっていうのは意外とキツいんだよ。お前らは称号の補正があるだろうから大丈夫って事だ」


その言葉に龍巳は納得する。そんなことは体の動作が魔力の動きのどちらかのイメージを無意識にできるほどに体に、というか感覚に覚えさせなければ無理だと察したのだ。

 龍巳が納得する気配を感じたのか、トッマーソが話を次に進める。


「ソウタは特に質問もないようだし、とりあえずやってみよう」


 トッマーソがそう言ったところでオリバーとライリーが訓練場に入ってきた。


「あんたのせいでこんなに遅くなっちゃたじゃない!タツミが今度は何をやってくれるのか楽しみにしてたのに!」

「はあ!?お前がトイレに入ったまま中々出てこないからだろうが!だから朝食は食べすぎるなっていっただろ!」

「うっ......。そ、それは仕方がなかったのよ!あんたの作ったご飯が美味しかったせいなんだから!」


どうやらここに来るのに遅れた責任をお互いに擦り付けあっているようだ。......少し、いやかなり、いちゃついているだけのようにも見えなくはないが。

 龍巳が二人から視線を外して他の騎士団員に目を向けると、「またか......」とでも言いたげな視線をオリバーとライリーに向けていた。どうやらこの喧嘩に見せかけた夫婦めおと漫才は今回だけではないようだ。

 いちいち気にしていてもしょうがないと割りきった龍巳は、まだ漫才を続ける二人をよそにトッマーソに続きを促す。


「じゃあトッマーソさん、やってみましょう」

「お!早くもあいつらの対処法を身に付けたな、タツミ。よし、じゃあまずは『剣術』スキルの会得を目標にしてみようか。やっぱり武器を持っているのといないのとじゃあ間合いに差がありすぎるからな」


 そうして龍巳と宗太は戦闘スキルの会得を目指して修行を始めるのだった。





......それから時間は一ヶ月後に進む。

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