第20話 非属性魔法

 無事に属性魔法への取っ掛かりを得た龍巳と美奈は、ソフィアの次の魔法講座を受けていた。


「じゃあ次は非属性魔法についてね。これにはどんなのがあると思う?」


ソフィアの問いかけに龍巳が答える。


「四元素にはなかったやつってことですよね。氷とか?」

「残念!それは水魔法からの派生だから、属性魔法の一種よ。非属性魔法のひとつとしてポピュラーなのは”光”と”闇”の二つかしら。どんなものなのか想像できる?」


次は美奈がその質問に答える。


「光はなんとなく分かります。こう、光ったものが槍とか剣とかの形をして攻撃する感じでしょうか......。あとは熱を持った光を束ねて光線として放出したりとか」

「そうね、大体そんな感じよ。じゃあ”闇”は?」


その質問に二人は黙り込む。闇といえば真っ暗な空間を思い浮かぶために、あまり想像ができなかったのだ。


「あら、分からないの?闇魔法は隠密とかの姿を隠すものから相手を状態異常にするものまで、色々なものに応用ができるわ。ちなみにさっきの光魔法も、あなたたちが覚えた治癒魔法みたいに回復の能力も持ち合わせているの。この二つは相反する性質であるがゆえに、お互いを効果的に相殺しあう性質も持っているわ」


 光魔法と闇魔法の説明を終えたソフィアは、非属性魔法全般に関する説明を始めた。


「非属性魔法は属性魔法と違って、ほとんど体系化されていない魔法でね?覚えられる人がほとんどいないの」


その言葉に龍巳が質問を返す。


「体系化されていないと、なんで覚えられないんですか?」

「さっき言っていた氷属性の魔法みたいに、どの四元素から派生したのかを理解していれば魔力の変換がある程度はやり易くなるのだけど、非属性魔法は魔力の変換がイメージしにくいのよ」


そしてソフィアは例を挙げて説明を続ける。


「例えば、非属性魔法の一つ、”空間魔法”。いろんな場所に転移できたりする便利な魔法だけれど、他の人が言うにはどんな魔力変換をすれば使えるようになるのか全く想像できないらしいわ」

「その空間魔法の使い手こそ、このソフィア・エーデルト団長なのよ!」


 ここで突然、今まで黙っていたライリーがソフィアの魔法講座に割り込んできた。

 どうやら空間魔法の話になったことで「ソフィア愛」とでも呼ぶべきものが溢れだしてしまったようだ。

 ライリーはいつの間にかソフィアの横に立っており、先程までライリーがいた場所にいるオリバーは手を額に当てて盛大なため息を吐いていた。

 その様子を見てとった龍巳は、一瞬なぜここに来たのかをライリーに聞きたくなったが、それを抑えてソフィアへの質問に切り替える。


「じゃあソフィアさんは、どうやって魔力を変換しているんですか?」


その言葉にソフィアは困ったような表情を浮かべて答える。


「それがね、私は魔力を変換しないで空間魔法が使えるのよ。生まれつきなのか、物心ついたときにはステータスに『空間魔法』って書いてあって、使い方も何となく分かっていたのよ。非属性魔法の使い手は基本的に同じ経緯があるそうよ」


そしてその説明にライリーが続ける。


「それで、できるだけ魔法を体系化させたい王国側としてはそんな魔法を『非属性魔法』なんて銘打っているけれど、私たち現場の人間は団長たちの魔法を『固有魔法』って呼んでるのよ」


その言葉に龍巳と美奈は落胆の色を隠せない。生まれ持った魔力によって使えるかが決まる非属性魔法は、自分には使えないと思ったためだ。

 しかし、ソフィアがその考えを予測していたのかと思うような言葉を発し、龍巳と美奈は考えを改めることになった。


「でも、タツミとミナは元々魔力のない世界にいたんでしょう?なら二人は、生まれつきっていう非属性魔法の特性の例外に入るのではないかしら?」


 ソフィアの考えに二人ははっとする。その仮説があながち的はずれとも言えない気がしたからだ。

 ものは試しと、龍巳が先程聞いた光魔法を使おうとする。


(魔力を変換しないで、そのまま光に変える。それでそのまま剣の形に成型して......)


龍巳のイメージに従い、魔力がその形を変えていく。そして光の剣が龍巳の眼前に出現したとき、


ーー魔法スキル『光魔法』を会得しましたーー


またしても頭の中に声が響き、新たなスキルを獲得したことを龍巳に知らせてきた。

 一方で龍巳の前に現れた光の剣に、訓練場にいる魔法師団員全員が注目していた。そして目を奪われたのは団員だけでなく、彼らの上司であるソフィアとライリーも突然の現象に驚いていた。

 そして目をつぶって集中していた龍巳が目を開き、スキルを得られたことを報告する。


「できました!光魔法の魔法スキルを獲得できたみたいです!」


 その言葉に龍巳の担当であるオリバーとライリーが真っ先に反応する。


「すげえじゃねえか、タツミ!団長のダチになっただけはあるぜ!」

「ま、まあ当然よね。ソフィア団長に教えられて、できないはずがないのよ。でも一応言っておくわ。......よくやったわね」


二人に誉められた龍巳は少し照れながらも嬉しそうに二人とハイタッチを交わす。

 そして龍巳が光魔法を会得したことに触発された美奈も光魔法を会得し、この日の修行は終わりとなった。





 今、龍巳は夕食を食べ終えて部屋に戻っていた。城を抜け出す前にも使っていた部屋だ。

 夕食は宗太とも合流して異世界組三人で集まって話しながら食べた。夕食を食べるために用意された部屋に入ってきた時の宗太は傷だらけで、聞いたところによるとトッマーソと組手をしていて負った怪我らしい。本当はもっと酷い怪我だったのだが、午前中に会得しておいた治癒力上昇スキルのおかげでその時には治りかけのものしか残っていなかった。残りは栄養補給のあと、ということらしい。

 そして勇者二人と別れた龍巳は自分の部屋にいるのだが、その部屋には来客があった。


「結局、戻ってきたのですね、タツミ様」


メイドのニーナである。その声には特に落胆の色は含まれておらず、あるじの意向に従うメイドとしての矜持が見え隠れしていた。


「まあな。この国を放っておけない理由ができたんだ。色々と手伝ってくれたのに、悪いことをした。またニーナさんが俺の担当メイドに配属されたのかな?」

「はい。またよろしくお願いします」

「ああ、よろしく」


龍巳がニーナとの再会を内心喜んでいると、ニーナがメイドとしての仕事をこなそうと話を進める。


「では、明日はいつ頃起きられますか?朝食は以前と同じく八時ですが......」

「じゃあまた七時半でよろしくお願いします」

「かしこまりました。明日もアルフォード陛下とアルセリア殿下が共に朝食をとりたいと申しておりますが、どうしましょう?」


龍巳は少し考えたが、すぐに返事をした。


「構わない、と伝えてくれ」

「分かりました。では、お休みなさいませ」

「ああ、おやすみ、ニーナさん」


 そうして龍巳は眠りにつき、修行一日目が終了したのだった。



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